なかなか収束しないコロナ禍だからこそ、なんでもない日常や健康でいることの有り難さが身に染みます。今年の節分は、いつにも増して、邪気払いに気合が入りますね。
日本の行事・歳時記研究家の広田千悦子さんに、節分の由来、豆まきだけでない邪気払いや飾り付けなど、親子で楽しめる節分の習わしをうかがいました。
目次
節分は、季節の境界線。邪気が入りやすいので気をつけましょう
もともと、土用が開ける立春、立夏、立秋、立冬の前の日のことを節分と言っていましたが、現在は立春の前日、冬から春に切り替わる2月3日前後を節分と称するのが一般的になっています。
立春の前日は、旧暦を使っているとお正月とほぼ同時期であり、大きな季節の変わり目です。去って行く時間とやって来る時間という考え方が節分のベースにあるのですが、この境界線の時に、疫病や災いが起きやすいとされてきました。そして、その邪気を払うために様々な習わしが生まれたのです。
季節的にも、寒さに身体が縮こまり、空気は乾燥し、風邪などが流行る時期なので、このタイミングでの節分は、そもそもの由来を体感しやすいのではないでしょうか。
豆まきは、春の兆しに喜びを感じながら、災いを避けるおまじない
厳しく寒い冬を越え、暖かい春を迎える喜び感じながら、災いを避けるまじないをして、新しい季節を無事に迎えるための祈りのひとつが、豆まきです。
今は、家で鬼に扮した人に向かって豆をまくスタイルが多いようですが、これは近年に始まったもの。
もともとは、大事な収穫物であり力が宿った豆をまくことで、その場を清めたのが始まりだとされています。
一方、鬼に扮した人を桃の弓や矢、棒などで追い払う「鬼やらい」や「追儺(ついな)」という習わしがあり、この二つの形がいつのまにか統合して、今という時代に合った形で残っているのですね。
窓を開けて豆を外に撒き、窓を閉める。この動作が災いを避ける「おまじない」に
今年はぜひ、いつもと趣向を変えて、「鬼は外、福は内」と、鬼に扮した人に向かって豆をぶつけるのではなく、家の中から外に向かって、または、誰もいない部屋に向かって豆まきをしてみてください。
窓を開けて、外にまき、窓を閉める。この一連の動作そのものが、ひとつの災いを避けるおまじないの形になります。マンションなどで屋外にまけない場合は、誰もいない部屋にまいてもいいでしょう。
そもそも鬼は、今でこそ悪者扱いされていますが、いいことを持って来るけれど、時々嫌なことも持って来る存在だとされていました。どちらかといえば、実りをもたらす存在で、秋田に伝わるナマハゲは、鬼の一種です。
まくものは大豆でなくても構いません。落花生、米、栗、麦、あずき、雑穀など、お子さんの年齢やライフスタイルに合わせて、そのご家庭ならではの豆まきをお楽しみください。
様々な厄払いの習わしは、五感を研ぎ澄ますいい機会
節分には、豆まきだけでなく、いろいろな習わしやまじないが残っています。
例えば、「やいかがし」。柊(ひいらぎ)の枝にイワシの頭を刺したものを、玄関などの戸口に飾ります。柊のトゲ、イワシの匂いが邪を払うというまじないです。
節分の邪気払いとして用いる植物は、柊だけに限らず、海桐花(とべら)、榧(かや)、楤(たら)などもあります。海桐花は、火にくべてバチバチと爆ぜる音が災いを除けるとされています。
柊のトゲに触ってチクっとする痛さを感じたり、イワシの匂いを嗅いだり、海桐花が爆ぜる音を聞いたり、恵方巻きを食べたり……。匂いや音、味覚などを総動員して災いを除ける節分は、五感を働かせてもらえる好機です。
今年は、お子さんと一緒に邪気を払う「煎り豆」を作ってみては
ぜひ、子どもと一緒に、感覚を働かせてみてください。おすすめは、豆まきの豆を自分で準備してみることです。
まず、大豆をうるかします。一時間ほどすると、丸い大豆が水分を含んで楕円になってきます。その過程を子どもと一緒に観察するだけでも楽しいもの。しっかり吸水させたら、フライパンなどで豆を煎ります。これは、悪いことや災いの芽が出ないようにするため、そして、美味しくいただくためです。
煎り豆は、神棚や家の大事な場所にお供えし、下ろしたら豆まきをし、年齢の数だけ豆をいただきます。あるいは、福茶にしていただくのもいいでしょう。湯のみ茶碗に豆を3粒、昆布、梅干しを入れて、お茶を注げば出来上がりです。
煎り豆は、邪気を払う特別な力が宿っているので、紙などに包んでお守りにすることもあります。
行事の準備や支度は、ほんの少しだけ手間がかかりますが、子どもと一緒に行うことで、目には見えない大切な何かを伝えることができると思います。
大人がそのことに気持ちを働かせていれば、その時にはわからなくても、親の姿と体験を通して子どもの心に刻まれることでしょう。
『にほんの行事と四季のしつらい ビジュアル版・くらし歳時記12か月』
著:広田千悦子 写真:広田行正 発行:世界文化社 1,800円+税
正月、節分、七夕、お盆、月見など、四季折々の節句や行事に込められた祈りのかたちである「しつらい」を、美しい写真とともに紹介。伝統的な飾り方だけでなく、暮らしの中に取り入れやすい、シンプルな今流のスタイルを提案。一年を通してめぐり来る節目の行事に、花を刺し、季節を寿ぐ。そんな、古くて新しい和の暮らしのエッセンスを日々に取り入れながら、丁寧に生きることの美しさと大切さを教えてくれる一冊。12のコラム「五節供以外の節供」なども読み応えあり。
広田千悦子(ひろたちえこ)
日本の行事・歳時記研究家。古きを踏まえつつ「ものがたりのあるしつらい」をお題に、季節や行事にちなむしつらえのデモンストレーションや講演、季節のしつらいなどを企画開催。東京新聞の連載「くらし歳時記」は、2021年に15年目を迎える。著書は『おうちで楽しむにほんの行事』(技術評論社)など多数。神奈川県横須賀市に築80年の日本家屋スタジオ秋谷四季を構え、「季節のしつらい教室」を主宰。動画稽古教室も開催中。
構成・文/神﨑典子 写真/広田行正(『にほんの行事と四季のしつらい』より)