歌人・俵万智の「子育てはたんぽぽの日々」/ボタンはめようとする子を見守れば

子どもと向き合う時間は、一喜一憂のとまどいの連続。子育てに行き詰まることも日常です。歌人・俵万智さんが詠み続けた「子育ての日々」は、子どもと過ごす時間が、かけがえのないものであることを気づかせてくれます。「この頃、心が少しヒリヒリしている」と感じていたら、味わってほしい。お気に入りの一首をみつけたら、それは、きっとあなたの子育てのお守りになるでしょう。

たんぽぽのうた1 ボタンはめようとする子を見守れば

ボタンはめようとする子を見守ればういあういあと動く我が口

 

成長するにつれ増えていく「してやってはならないこと」

子どもがまだ赤ん坊のころは「してやらねばならないこと」の多さに驚いたものだが、だんだん成長してくると、次第に「してやってはならないこと」が増えてくる。いつまでもしてやっていては、本人に力がつかない。身近な例で言えば「ボタンをはめる」とか、そういうことだ。息子は私に似て、ものすごく手先が不器用で、年長さんになっても、着がえがうまくできないでいる。(中略)こちらが手だしをして、ちゃっちゃとしてしまえば、一瞬でボタンははめられる。そのほうがストレスもたまらない。が、助けてしまっては、子どものためにならない。

たんぽぽのうた2 振り向かぬ子を見送れり

振り向かぬ子を見送れり振り向いた時に振る手を用意しながら

ちゃんといるよ~、ここにいるよ~

ボタンはめや食事に手だしをしない、けれど一方で、いつ振り向いてもいいように見守る……幼稚園ママとしてのこういう日常は、やがて来る思春期の予行演習なのかもしれない、とふと思ったりする。今は、目に見える物理的なことがほとんどだが、これに心の問題、精神的なことが加わってくる。親が解決してしまえば簡単なことでも、子ども自身の力で解決しなくては、本人のためにならないだろう。たくましくなったように見えて、いつなんどき振り返るかもしれない。その時には、ちゃんといるよ~、ここにいるよ~、と手を振ってやれる場所にいてやりたい、と思う。

 

俵万智『子育て歌集 たんぽぽの日々』より構成

短歌・文/俵万智(たわら・まち)

歌人。1962年生まれ。1987年に第一歌集『サラダ記念日』を出版。新しい感覚が共感を呼び大ベストセラーとなる。主な歌集に『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『オレがマリオ』など。『プーさんの鼻』で第11回若山牧水賞受賞。エッセイに『俵万智の子育て歌集 たんぽぽの日々』『旅の人、島の人』『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』がある。2019年評伝『牧水の恋』で第29回宮日出版大賞特別大賞を受賞。最新歌集は『未来のサイズ』(角川書店)。https://twitter.com/tawara_machi

写真/繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)

写真家。1977年生まれ。長崎を拠点に雑誌や書籍の撮影・ 執筆のほか、出産や食、農、猟に関わるライフワーク撮影をおこなう。夫、中3の⻑男、中1の次男、小1の娘との5人暮らし。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)など。最新刊『山と獣と肉と皮』(亜紀書房)が発売中。

ブログ: http://adublog.exblog.jp/

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タイトルイラスト/本田亮

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