ロックバンド、神聖かまってちゃんの元マネージャーである劔樹人による自伝的青春コミックエッセイを、松坂桃李主演で映画化した『あの頃。』が2月19日(金)より公開されました。メガホンをとったのは、岸井ゆきの主演映画『愛がなんだ』(19)や宮沢氷魚主演映画『his』(20)など、繊細で心に刺さるリアルな愛の物語を紡げる名手、今泉力哉監督です。
『あの頃。』というタイトルを聞いて、ママたちはどんな物語を想像しますか?きっと誰もが生きていくなかで、人生の節目や、何気ないひとときに、懐かしい“あの頃”を振り返ることってありますよね。本作は、そんなノスタルジーを礼賛する映画ではなく、過ぎ去った過去と、時を経た現在の両方を、愛せる点が素晴らしいです。
松坂さんが演じるのは、大学院受験に失敗し、彼女なし、金なしのトホホな生活を送る劔(つるぎ)役。そんな彼が、松浦亜弥のMVをきっかけにアイドルに目覚め、どっぷりとアイドルヲタクの道を突き進みます。彼の周りにいるのは、“推し”のアイドルにすべてを捧げた、冴えないけど愛すべき仲間たち。本作は、実にユニークな青春グラフィティとなっていて、予想外に琴線を揺さぶってきます。
「ゆとりですかがなにか」を彷彿させる松坂桃李と仲野太賀のイケてない男たち
本作の舞台は 「ハロー!プロジェクト」のアイドルたちがJ-POP界全体を席巻していた2000年代初頭。松坂さん演じる劔をはじめ、モーニング娘。を愛してやまない“モーヲタ”役には、実力派俳優陣が集結しました。
ミキティこと藤本美貴推しで、プライドが高くてひねくれ者のコズミン役には、『今日から俺は!!劇場版』での今井勝俊役が記憶に新しい仲野太賀。松坂との共演作では、宮藤官九郎脚本のドラマ「ゆとりですがなにか」でのモンスターぶりを彷彿とさせます。2人とも正統派イケメン役からアクの強い脇キャラまで、俳優としての守備範囲の広さにうなりますね。
そのほか、石川梨華推しでリーダー格のロビ役に『泣く子はいねぇが』(20)でも仲野太賀と共演した山中崇、痛車や自分でオタクグッズを制作する西野役には、朝ドラ「おちょやん」の小暮役で人気を博した若葉竜也、CD ショップの店員ナカウチ役に朝ドラ「エール」の新田先生役の芹澤興人と、いずれもディープな個性を発揮し、テンポのいいアンサンブル演技を見せてくれます。
“推し”への愛が強すぎるモーヲタを見ていると、最初はドン引きしそうになりますが、推しを見ているだけで、口角が上がり、幸せそうにしている姿を見ると、とても「ヲタ活」を否定する気にはなれません。そういう点では、アイドルにハマる人たちの免罪符的な作品という見方もできますし、閉塞感漂うコロナ禍だからこそ、人生を生きる上での楽しみを見つけるヒントを得られそうな作品ともいえそうです。
以降、ネタバレを含みます