コロナ禍で食物アレルギーの子の4割が受診控えに。オンライン診療や正しい情報を得てしっかりとした予防を【専門医監修】

「食物アレルギーの子どもを持つ保護者の4割がコロナ禍で病院受診に不安を持っている」。昭和大学医学部小児科学講座 教授の今井孝成先生らの調査で、コロナ禍における保護者の意識の変化が明らかになりました。コロナ禍でも受診したほうがいいのか、オンライン診療は可能になるのか……、食物アレルギーの子どもを持つ保護者が抱える悩みや疑問について、2021年2月に行われたマイランEPD合同会社主催のオンラインセミナーをもとに、今井先生がお答えします。

セミナーに登壇した、医師・今井孝成先生と、モデルの長谷川理恵さん

食物アレルギーの発症最多年齢は0,1歳。アレルゲンは、年齢と共に変化する傾向に

食物アレルギーとは、食物が原因でさまざまな望ましくない症状が引き起こされるもの。発症は01歳が圧倒的に多く、910歳までに全体の9割に。成長するほどなだらかに減っていきますが、成人のアレルギー患者も全体の56%はいます。

食物アレルギーの三大アレルゲンは、卵、牛乳、小麦

食物アレルギーの原因食物として多いのは、卵、牛乳、小麦。この3つだけで2/3程度を占めています。その他、木の実類、落花生、果物類、魚卵類、甲殻類、そば、大豆、魚類などが挙げられます。

 

実は、これら原因物質は年齢とともに変わっていきます。たとえば0歳は卵、牛乳、小麦がメインですが、12歳は卵に、魚卵類や木の実類、36歳の1/3は木の実類が占めて、学童期に入ると、果物類や甲殻類も多くなります。食物アレルギーは、一般的に卵、牛乳、小麦といわれますが、年齢別に見ると大きく違うということをぜひ知っておいてほしいですね。

食物アレルギー発症者の10人にひとりは生命的危機に陥りかねない可能性が

症状については、約9割が軽いものから全身に広がるじんましんを含めた皮膚症状。

次に呼吸器症状。軽い咳から始まって、ひどくなると咳が強く頻度が多くなり、ぜんそくのような症状が出て呼吸困難から呼吸停止まで含めます。これが4割。そして、まぶたや唇が 腫れる粘膜症状、腹痛や嘔吐・下痢などの消化器症状が、それぞれ3割程度です。

 

さらに約1割がショック症状ですが、これは非常に重篤な状況で命を奪う可能性があります。言いかえると、食物アレルギーは、一度発症すると、10人に1人が生命に危機的な状況に陥りかねない重篤化しやすい病気といえるのです。

アナフィラキシーの特徴は、即時に全身性の強い症状が表れる

こういった食物アレルギーが原因で、すぐに(即時型)、皮膚、呼吸器、消化器など複数臓器に全身性の強い症状があらわれるのがアナフィラキシーです。花粉症の場合はすぐに症状が出ても粘膜症状だけ、気管支ぜんそくも呼吸器症状だけ、アトピー性皮膚炎も皮膚症状だけ、といったことからアナフィラキシーの特徴がわかります。

 

このアナフィラキシーの中で、血圧症状をともない、意識障害、その果てに命を落としかねない状況に陥っている状態をアナフィラキシーショックといいます。

 

アナフィラキシーは、食物だけでなく、薬物やハチ毒も原因となります。アナフィラキシー症状を呈したときは、アドレナリン自己注射薬を投与すると、危機的な状況からの回復を促します。

コロナ禍の今、約4割が受診に不安を抱えている

私どもで行った全国の食物アレルギーの子どもを持つ保護者へのアンケート結果によると、約半数のかたが「新型コロナウイルス感染症の流行により、不安や不便を感じたことがある」と回答されました。

 

その理由は、自分の感染の不安、病院受診への不安、外出への不安、自分以外の家族の感染の不安といったものが上位を占めています。また保育所・幼稚園、学校で新型コロナウイルス対応の負担が大きく、アナフィラキシーに関して十分に対応できないのではないかと不安を感じている人もいます。

 

さらに約4割のかたが「コロナ禍前後で、食物アレルギー・アナフィラキシー診療について不安が強くなった」と答えています。具体的には、情報収集方法がわからない、十分な備えができているか不安、誤食させてしまうこと、診療が中断・延期することなどが、その理由としてあがっています。

もともと保護者のかたたちは、誤食させることに対する不安はありますが、コロナ禍では、どうしても救急外来が忙しくなってしまい、適切なタイミングで受診できないかもしれない、誤食させてしまいアナフィラキシー症状を呈したときに、すみやかに適切な医療が受けられないのではないかということに対する不安が強くなっています。

 

実際の受診については、約4割が新型コロナウイルス感染症流行後、受診控えをしているという状況があります。その理由としては、感染リスクの心配、そして経済的な問題もあります。流行が落ち着くのを待って受診しようと思ってはいるものの、なかなか流行が落ち着かず、つい受診控えが続いているというのが現状のようです。

慢性疾患のある子どもは、定期的な受診で健康管理を

しかしながら、食物アレルギーを含めて慢性疾患のある子どもは、やはりしっかりと受診して管理していく必要があります。適切に予防策を講じれば、病院に行ったからといって感染することはありませんので、定期的に受診するべきお子さんがたは、ぜひ受診してほしいと思います。

新型コロナウィルスは、ぜんそくへの悪影響はナシ

また新型コロナウイルス感染症は呼吸器感染のため、ぜんそく、気管支ぜんそくの合併の多い食物アレルギーの子に対する悪影響が心配されていましたが、これについては世界的に解析されており、小児も成人も新型コロナウイルスは、ぜんそくに悪影響を与えないというデータが出ていますので、そこは安心してください。

自宅で受診できるオンライン診療という選択肢も

平成26年、国は「アレルギー疾患対策基本法」を施行し、アレルギー疾患の対策を前向きに進めています。今回のコロナ禍のおける受診控えを改善するために、厚生労働省もオンライン診療の普及をはかっているところです。

 

オンライン診療というのは、電話やビデオ通話を通して、病院に行かなくても自宅で医師の診療が受けられる受診スタイルのこと。今回のアンケート調査では、オンライン診療を利用したいと答えた人と利用したくないと答えた人は半々でした。

 

利用したい理由としては、病院に行く時間や待ち時間の短縮、好きな場所から受診できる、通院による感染リスクが低減できるなど。利用したくない理由として最も多いのは、感覚的にオンライン診療を受けたことがないから受けてみたいと思わないというものでした。

具体的には、医師とのコミュニケーションがとれるかどうか不安、操作が面倒そうなど。

 

オンライン診療に関しては、患者さんにとっても医師にとっても、どういったやり方がいいかということは、これから検証されていくことだと思います。オンライン診療でも薬剤の処方は可能ですが、医師と患者さんの意思の疎通がとれていない場合は、的確な薬剤の投与ができない可能性がありますので、やはりしっかりとコミュニケーションをとることが必要だろうと思います。

 

ただ操作が面倒そうという意見については、一度やってみると、こんなに簡単にできるものかと、わかっていただけると思います。

先程お伝えした通り、厚生労働省の方針のもと、各学会で調整を進めているところですので、今後、オンライン診療は間違いなく進むといえるでしょうね。

国や専門家監修のサイトで正しい情報を得る努力を

アンケートでも、情報収集の方法がわからず、診療に不安をもっているかたが多いことがわかりましたが、やはり情報を得る努力というのは、しっかりしていかなければいけません。今は情報を得ようと思えば、すぐにインターネットから得られますが、そこで誤った情報をつかんで、誤った管理をしてしまうと、子どもにも保護者にも不幸なことです。厚生労働省や自治体が提供するアレルギー情報や、アレルギーの専門家が監修する適切な情報を得ていただければと思います。

 

繰り返すようですが、アナフィラキシーについては、ひとたび事故が起こると、重篤な事態に陥りかねません。保護者のかたは、そのあたりのメッセージや保育所・幼稚園、学校にしっかり伝えながら、定期的な受診は怠らないでほしいと思います。

アナフィラキシーってなあに.jp

急性アレルギー「アナフィラキシー」に関する情報・原因・対策を知るサイト

厚生労働省 オンライン診療対応医療機関リスト

新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて(令和2年4月10 日事務連絡)に基づく対応を行っている医療機関の一覧。※アレルギーに特化しているわけではありません。

記事監修

昭和大学医学部小児科学講座 教授

今井孝成先生

東京慈恵会医科大学医学部卒業後、昭和大学小児科学講座に入局。独立行政法人国立病院機構相模原病院小児科医長、昭和大学病院小児医療センターセンター長などを経て、2019年より同大学の小児科学講座教授として活躍している。

 

取材・構成/池田純子 資料提供/マイランEPD合同会社

 

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