「為(ため)になる」って、いい言葉ですよね。「人の為になる仕事」「為になる話」だとか、子育ての場面でも使いたい言葉ですが、この「為になる」とはどういった由来や語源があるのでしょうか?
「為になる」の意味
まずは辞書的な解説から調べてみましょう。小学館『大辞泉』を調べると、
<役に立つ。利益になる>
といった意味が書かれています。
この「為」という漢字、漢字辞典『漢字源』(学研)を調べると、もともとは「爲」という字で、この字は「手」+「象」、つまり象に手を加えて手なずける、調教するといった意味があったのだとか。
そこから「人の手を加えてうまく仕上げる」→「作為を加える」→「原型を変えて何かになる」といった意味に広がっていったと書かれています。
「為になる」って英語で言える?
海外ではこの言葉を何というのでしょうか? 『ジーニアス和英辞典』(大修館書店)で「役に立つ」「利益になる」という日本語の英語訳で調べると、
- benefit(物や事が人を益する)
- useful(人に/物事に役立つ)
- good
- instructive(教育的に、教訓的にためになる)
といった言葉が掲載されています。オンライン辞書『英辞郎』を調べると、
- valuable
とも書かれています。あらためて『ジーニアス英和辞典』(大修館書店)でvaluableを調べると、「(金銭的に)価値の高い」といった意味が掲載されています。いずれにしても、前向きな言葉ですね。
例えば「人の為になることをしなさい」と言いたければ、上の言葉の中で最もシンプルに言うと、「Do something good for others.」といった表現が考えられます。
「為になる」の意味を含むことわざ
では、「為になる」という言葉を用いたことわざや慣用表現と言えば、何があるのでしょうか。
「情けは人の為ならず」
「為」という言葉だけに限って言えば、「情けは人の為ならず」があります。情けをかけておけば、巡り巡って自分の為になる、必ず報いがあるという意味ですね。
「お為ごかし」
「お為ごかし」は、『大辞泉』(小学館)を調べると、
<表面は人のためにするように見せかけて、実は自分の利益を図ること>
とあります。「ごかし」という言葉が聞き慣れないですが、
<口実を設けて自分の利を図る意>(『大辞泉』より引用)
があるのだとか。「誰かの為になる」と表向きは利他の精神を見せながらも、実は裏があるといった行動ですね。
「為になる」の敬語表現
ただ、「為になる」というと、ちょっと押し付けがましい印象もありませんか? あるいは、ちょっとだけ上から目線な感じもします。
目上の人(例えば会社の社長や学校の偉い先生)から何かいい話を聞いて、「為になりました」では、ちょっと配慮が欠けたような気もします。
友達同士で「いやあ、今日の朝礼で聞いた社長(先生)の話、為になった~」としゃべる分にはいいですが、本人に伝える場合は何か工夫をしたいところ。
わが子が将来的に困らないように、時が来たら教えてあげたいですが、「為になる」「利益になる」「役に立つ」を丁寧に表現する方法はあるのでしょうか。
「勉強させていただきました」「学ばせていただきました」
「為になる」の敬語表現として、まず「勉強させていただきました」「学ばせていただきました」が挙げられます。
目上の人から何か利益のある言葉や行為を受け取った時、「勉強させてもらいました」の謙譲語「勉強させていただきました」と言えれば、「自分に利益がありました」という意味になります。
自分の為になったという言葉を伝えるために、便利な敬語表現ですよね。
お役立ていただければ幸いです
反対に自分が相手(目上の人)の役に立つ(為になる)場面では、どのように表現すればいいのでしょうか。
まず、「為になる」の意味は「役に立つ」ですから、「お役立ていただく」という表現が考えられます。
「いただく」は「してもらう」の謙譲語ですね。その上で「幸い」とプラスすれば、「役立ててもらえればうれしい」といった意味が表現できます。
子どもに教えるだけでなく、パパ・ママの教養としても覚えておきたい言葉遣いです。
育児場面で覚えておくと「為になる」名言・箴言
ここまで、「為になる」という言葉に注目して、意味や語源、英語表現、ことわざ、敬語表現などをまとめてきました。
ただ、子どもには「為になる」という言葉がちょっと抽象的過ぎて、理解しづらいかもしれません。敬語表現もまだまだ不要のはず。
今はすぐに役立たなくても、将来的に何か報いがある、好ましい状況が訪れるから、やってみようと伝える時、何か具体的なエピソードや心に響きやすい名言があると便利ですよね。
「為になる」という言葉を使わずに、「為になる」というコンセプトを伝えようと思ったら、どんな名言やエピソードがあるのでしょうか。
三島海雲「企業は国家を富ませるだけでなく、国民を豊かに、そして幸せにしなければならない」
言葉自体はかみ砕いて伝える必要がありますが、三島海雲さんのエピソードは、とても役立つはずです。
三島さんの名前を聞いて、すぐに誰だか思い浮かぶパパ・ママは、かなりの雑学王です。三島さんとは、子どもも大好きな飲み物『カルピス』の生みの親ですね。
モンゴルでの体験を通じて、遊牧民が飲んでいた乳酸菌飲料をヒントに開発されたカルピス。この飲み物は、病弱だった三島さんご自身の生い立ちと、わが子を病気で失った悲しみが1つの動機となって、人の為に、国民の健康を守る為に開発されたのだとか。
その三島さんが掲げた経営のスローガンが、「国利民福」。国に利益をもたらし、民衆を豊かにする、まさに利他の精神で生まれた飲み物がカルピスだったのですね。
わが子とカルピスを飲むときに、以上のようなエピソードを語れると、すてきです。
トーマス・エジソン「失敗したわけではない。勉強したのだと言いたまえ」
次は誰もが知る発明家、トーマス・エジソンの言葉です。
エジソンの伝記を読むと、例えば電球を発明する前に、さまざまな失敗があったと分かります。その失敗があったからこそ進むべき道が見つかり、電球の発明に成功しました。
失敗は成功のもと、失敗や努力が未来の成功の為になった(役に立った)という話を具体的に理解させる際には、格好の題材ですね。
アルバート・アインシュタイン「Failure is success in progress.(失敗は、成功までの通過点である)」
科学が好きな子どもには、アインシュタインの上の言葉を伝えてあげてもいいのかもしれません。
「失敗は成功のもと」というメッセージ内容はエジソンと変わりありませんが、失敗は未来の成功の為になる、むしろ成功の一部には常に失敗が含まれていて、失敗は成功するまでの過程にすぎないとの意味。子どもが何かに失敗した時に、伝えてあげたいですね。
リオネル・メッシ「No importa si soy mejor que Cristiano, sino que el Barcelona es mejor que el Madrid」(クリスティアーノ・ロナウドより自分が上かどうかなんてどうでもいい。それよりバルセロナがマドリードより上かどうかだ。)
子どもがサッカー好きの場合は、リオネル・メッシ選手やクリスティアーノ・ロナウド選手を知っているはずですから、その憧れの選手の発言を引用して伝えてあげると、わが子の心にも届きやすいはずです。
例えばアルゼンチン代表選手にして、バルセロナというスペインのプロサッカーチームに所属するリオネル・メッシ選手は、同時代を生き、ライバルチームに(発言の当時)所属したクリスティアーノ・ロナウド選手と比較されます。
どちらが世界で最高の選手かという議論は、世界中のサッカーファンの間で楽しまれています。しかし、比較されるメッシ選手本人は、自分がロナウド選手より上かどうかは、興味がないそう。
むしろ自分の所属するチームが、ロナウド選手が(当時)所属していたレアルマドリードというプロサッカーチームよりも上かどうかだけ、考えていると語りました。
自分個人の評価よりもチームのほうが大事で、自分の為にプレーしているのではなく、チームの為にプレーしているとも解釈できる、リオネル・メッシ選手らしい発言です。
わが子が、私生活や習い事の場面で自分ばかりを優先する、周りを尊重できない姿を繰り返し見せるようなら、上の言葉を伝えてあげるといいかもしれませんね。
「為になる話」をしたいときのおすすめネタ本
「為になる」をテーマに、幾つかエピソードを紹介しました。ただ、どのエピソードであっても、生き生きと子どもに伝えたいと思ったら、もっと話の背景に深い知識が必要です。
そこで次に挙げる参考文献は、先ほど紹介した名言の背景にある話が理解できる書籍です。春休み、夏休みなどの長期休みや、新学期を迎える前に、ざっと目を通してみてはどうでしょうか。
山川徹『カルピスをつくった男 三島海雲』(小学館)
書籍のタイトルの通り、先ほど紹介したカルピスの誕生秘話が詳しく書かれています。誰もが知る国民飲料なのに、その歴史については、ほとんど誰も知りません。
どうして創業者はモンゴルに向かったのか、モンゴルで何に出合ったのか、パパ・ママの仕事や人生にも役立つエピソード満載ですので、ぜひ読んでみてくださいね。
四六判・356ページ 定価 1,600円+税
竹内均『小学館版 学習まんが人物館 エジソン』
本が苦手というパパ・ママは、まんがで知識を仕入れてもいいかもしれません。小学館が出す学習まんがでも、もちろんエジソンを取り上げています。
痛快なサクセスストーリーの裏側には、どのような失敗があり、その失敗が為になってどのように成功をつかんだのか。
子どものころに一度は読んだはずのエピソードを、あらためて大人になってから読んでみると、また異なる発見があって、パパ・ママの教養にもなるはずですよ。
頁菊・160ページ 定価935円(税込)
ウィル・マーラ著・佐藤 満里子訳『新しい世界の伝記 ライフ・ストーリーズ② アインシュタイン』(三省堂)
アインシュタインと言われると、「相対性理論」というキーワードが出てくると思います。しかし、相対性理論とは何なんか、そもそもアインシュタインはどういった幼少期を過ごし、どういった大人になって、世界的な偉業を達成したのか、その辺りの背景はきっと多くのパパ・ママも知らないはずです。
子どもに「為になる」話をするためにも、付け焼刃ではない、しっかりとした知識をパパ・ママが持っていないと、説得力は生まれないはず。大人の教養としても、やはり読んでおきたいですね。
A5変型判・128ページ 定価 1,600円+税
サンジーヴ シェティ著・関 麻衣子訳『リオネル・メッシ MESSIGRAPHICA』(東洋館出版社)
先ほどは、サッカー選手のリオネル・メッシ選手の言葉を紹介しました。しかし、サッカーに疎いママの場合、「メッシ」という名前を聞いた覚えはあっても、どのような選手か分からないと思います。バルセロナだとか、レアルマドリードというチーム名も知らないはず。
ならば、一度メッシについて、上述の本などで学んでみてはどうでしょうか?
史上最高のサッカー選手と言われながら、実は身長が169cmとそれほど大きくなかったり、子どものころに足に障がいを抱えていたりと、彼の生い立ちは体の成長に何かしらの不安を抱える子どもたちにも勇気を与えてくれるはずです。
その世界で最高の選手が、自分の為ではなくチームの為に戦っているという事実を教えてあげるためにも、パパ・ママ自体が選手に詳しくなりたいですね。子どもとの会話のネタも増えて、楽しいかもしれませんよ。
A5変型判・272ページ 定価 1,900円+税
子育ての為になる話のまとめ
以上、「為になる」という言葉に注目し、子育てに役立つ情報をさまざまな角度から紹介しましたが、いかがでしたか。
育児そのものが「子どもの為」と思えば、とても大切な言葉ですね。上に挙げた事柄を参考に、さまざまな角度から子どもに伝えてあげたいものです。
文/坂本正敬 写真/繁延あづさ・写真AC