柳楽優弥主演、有村架純、三浦春馬共演の映画『映画 太陽の子』が8月6日より全国公開されました。昨年、ドラマ版が終戦記念日である8月15日に放映されたので、ご覧になった方も多いのでは。映画は、ドラマとは異なる視点と結末が加わり完結したもので
監督・脚本は朝ドラ「ひよっこ」や現在放送中の大河ドラマ「青天を衝け」などで知られる黒崎博。黒崎監督は、原子の力を利用した新型爆弾、すなわち“原子核爆弾”の開発に携わっていた若者の日記を偶然手にしたことで衝撃を受け、構想10年をかけて映画化を実現させました。
とはいえ、日記の内容は、原爆開発に特化したものではなく、普段の食事の内容や恋愛など、青年のごく普通の学生生活も綴られていたそうで、映画もそこを丁寧にすくいとった青春グラフィティとしても見応えのある内容となりました。
主人公は、柳楽さん演じる若き科学者・石村修で、彼は科学者して開発にのめりこんでいきます。三浦さんはその弟の裕之役を、有村さんは建物疎開で家を失った修の幼なじみの朝倉世津役を演じています。
唯一の被爆国である日本も、実は秘密裏に原爆を開発していた
科学者として原爆開発に魅せられる修役を演じた柳楽さんの瞳の輝きは、美しくも危ういもので、思わず息を呑みます。彼ら科学者は殺戮兵器を作っているというよりも「世界を変えるために原子物理学をやる」と、あくまでも世のため人のためという崇高な志で研究に打ち込んでいたようです。裏返せば、だからこそ質(たち)が悪いのですが。
そんな彼らが日々、実験を行う中で、敵国によって広島と長崎に原爆が投下されます。修たち研究室のメンバーたちは、焼け野原となった広島を訪れた時「これが僕たちの作ろうとしていたものの正体なんですね」と愕然とします。
日本は言わずとしれた唯一の被爆国、すなわち被害者側です。ですが、もしもアメリカよりも日本が先に原爆の開発に成功していたら、その構図は逆になり、歴史は変わっていたかもしれません。本作は、そんな恐ろしい“たられば”を突きつけられる作品となっています。
三浦春馬が遺した命の尊さと戦争の無意味さ
科学者ということで兵役を免れた修と、果敢に戦地へ赴いた弟の裕之が対照的に描かれています。三浦さん演じる裕之は、久しぶりに戦地から戻ってきたシーンで初登場しますが、修から「痩せたな」と心配されると「大丈夫や」と返し、田中裕子演じる母から「おかえり」と声をかけられた時に「ただいま」とにっこり微笑みます。その柔和な笑顔でのやりとりだけで、彼の心の美しさが際立ちます。
普段はまったく弱い部分をみせない裕之ですが、あることをきっかけに、命懸けで戦地へ赴く恐怖感を吐露します。裕之の目が澄んでいるほど、その悲しみの深さも強調される気がしますね。三浦さんはもうこの世にはいませんが、映像には命の尊さが力強く映し出されていて、観ていて非常に胸が苦しくなります。改めて戦争の不条理さ、無意味さをかみしめずにはいられません。
修と裕之兄弟と、おそらく2人が思いを寄せる有村さん演じる世津との3人が他愛もない会話をするシーンも印象的です。戦争中である今のことしか考えられない男たちに対して、世津だけは唯一、戦後の未来を見据えた言葉を口にします。そこは女性ならではのたくましさを感じました。
繰り返しますが、この映画は戦時下の日本を描く作品でありながら、そんななかでもひたむきに生きた若者たちの青春をしっかりと描いた懐の深い人間ドラマです。そういう意味でも、まだまだ先が見えないコロナ禍において観ると、より一層、深く心に刻まれる映画なのではと。こういう映画こそ、ぜひ親子で観ていただきたいです。
監督・脚本:黒崎博
出演:柳楽優弥、有村架純、三浦春馬、田中裕子、國村隼、イッセー尾形、山本晋也、ピーター・ストーメア…ほか
公式HP:https://taiyounoko-movie.jp/
文/山崎伸子
©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS /「太陽の子」フィルムパートナーズ