歌人・俵万智の「子育てはたんぽぽの日々」/男の子ってなんでこうなんだろう

子どもと向き合う時間は、一喜一憂のとまどいの連続。子育てに行き詰まることも日常です。歌人・俵万智さんが詠み続けた「子育ての日々」は、子どもと過ごす時間が、かけがえのないものであることを気づかせてくれます。「この頃、心が少しヒリヒリしている」と感じていたら、味わってほしい。お気に入りの一首をみつけたら、それは、きっとあなたの子育てのお守りになるでしょう。

たんぽぽのうた1

危ないことしていないかと子を見れば危ないことしかしておらぬなり

 

男の子って、なんでこうなんだろう

道ばたに棒があれば拾う、拾えば振り回す…男の子って、なんでこうなんだろうと、不思議さを通り越して、なんだか可笑しくなってしまう。人形遊びにしても、ブロック遊びにしても、結局は、何かと何かを戦わせているという感じである。「ホルモンなのよ。男性ホルモン」と、あるとき男の子を持つママ友が言った。「もうね、なんだか戦いたくなるように、できているらしいわ」。そういうものなのか。だが、だんだん体も大きくなり、動きが活発になってくると、危険度にも拍車がかかってくる。公園に迎えに行って、その様子を見て、ぞっとすることも少なくない。(中略)このごろは自分でも「危ないのが、おもしろんだよ」「男は、そういうのが好きなんだよ」などと開き直った言い方をすることもある。「ホルモンかあ」と、またかつての友人の言葉を思い出した。

たんぽぽのうた2

Xに交わる二つの放物線「ダブルしっこ」を子らは楽しむ

 

子どもをお借りしてでも

息子には、一歳年下のいとこがいる。愛称は「りんクン」。横浜に住む私の弟の長男だ。赤ちゃんのころから、よく行き来して遊び、年に三回ぐらいは旅行も一緒にしてきた。一人っ子の息子にとっては、りんクンは「弟分」といった存在になっている。加減のわからない「たたかいごっこ」で、よるとさわるとケンカになっていた時期もあったが、七歳と六歳になったころからは、本当に仲良しの兄弟のようだ。(中略)私が一番愛読している育児書『子どもへのまなざし』(佐々木正美著・福音館書店)に、次のような一節がある。「子どもは、子ども同士で遊ぶなかで、社会性を育ててゆく。たとえば出かけるなら、家族だけで行くのでなく、近所や親戚の子連れ家族を誘ったほうがいい。それがむずかしければ、子どもだけでもお借りするのです…」我が家は一人っ子なので、この「子どもをお借りしてでも」という発想が、特に印象に残っていた。正直、甥っ子の面倒をみるのは大変ではあるけれど、男の子二人、本当に朝から晩までよく遊び、生き生きとした時間を過ごしているのを見ると、「これだね!」と思い、疲れも吹き飛ぶようだった。

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俵万智『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』より構成

俵万智さんの初めての本格個展が、角川武蔵野ミュージアムで11月7日まで開催中!

俵万智 展 #たったひとつの「いいね」 『サラダ記念日』から『未来のサイズ』まで

短歌・文/俵万智(たわら・まち)

歌人。1962年生まれ。1987年に第一歌集『サラダ記念日』を出版。新しい感覚が共感を呼び大ベストセラーとなる。主な歌集に『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『オレがマリオ』など。『プーさんの鼻』で第11回若山牧水賞受賞。エッセイに『俵万智の子育て歌集 たんぽぽの日々』『旅の人、島の人』『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』がある。2019年評伝『牧水の恋』で第29回宮日出版大賞特別大賞を受賞。最新歌集『未来のサイズ』(角川書店)で、第36回詩歌文学館賞(短歌部門)と第55回迢空賞を受賞。https://twitter.com/tawara_machi

写真/繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)

写真家。1977年生まれ。長崎を拠点に雑誌や書籍の撮影・ 執筆のほか、出産や食、農、猟に関わるライフワーク撮影をおこなう。夫、中3の⻑男、中1の次男、小1の娘との5人暮らし。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)など。最新刊『山と獣と肉と皮』(亜紀書房)が発売中。

ブログ: http://adublog.exblog.jp/

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