35人学級とは
35人学級は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」の一部を改正する形で導入される制度です。具体的にはどのようなものなのでしょうか。
2021年3月31日に法律案が可決
35人学級の法律案は、2021年2月2日に閣議決定され、3月31日の参議院本会議で全会一致で可決・成立しました。翌4月1日に始まった令和3年度から、段階的に適用されています。
従来の法律では1年生で35人、2~6年生で40人が上限でした。今回の法律改正によって、年度ごとに適用範囲が1学年ずつ増え、令和7年度には全学年で学級人数の上限が35人になる予定です。
適用は公立小学校のみ
公立小学校の学級人数を一律で引き下げるのは、昭和55年度以来です。「約40年振りの再編」「一律引き下げ」というと大がかりに聞こえますが、実際に今回の法律案の影響を受けるのはごく一部です。
少子化が進む今、1クラスの児童数は減少傾向にあります。文部科学省の「学校基本調査(令和2年度)」によると、全国にある公立小学校の単式学級(同学年の児童だけで編成された学級)のうち、36人以上の学級は約8%です。
さらに、今回の法律案が適用されるのは公立小学校で、国立や私立の小学校には適用されません。
参考:学校基本調査 47 収容人員別学級数 2020年 | 政府統計の総合窓口
既に取り組み始めている自治体も
令和3年度の場合は、小学3~6年生の学級人数の上限は40人です。しかし自治体の中には、国に先駆けて中学年・高学年にも35人学級を導入しているところがあります。
例として東京都杉並区を挙げましょう。35人学級の法律案の施行前から、小学校の全学年で35人学級を実現しています。クラスの増加よって生じる教員の不足分は、都とは別に区で約70人の教員を採用することで対応しています。
また、国より1年早く、小学3年生以下の35人学級を実現させているのが愛知県です。中でも、安城市は独自の取り組みで、小学校1~2年生を30人程度以下にする取り組みが実施されています。
参考:
児童・生徒数、学級数調査|杉並区公式ホームページ
安城市/安城市が実施している少人数学級について
35人学級のメリット・デメリット
35人学級は、よいことばかりではありません。さまざまなメリットやデメリットがあるので、双方を踏まえて35人学級に対する理解を深めましょう。
学力向上が期待される
メリットとして主に挙げられるのは「学力の向上」です。1クラスあたりの児童数が少なくなれば、1人1人に担任が目を配れる時間が長くなります。
授業についていけない児童には理解できるまで説明し、物足りなさを感じている児童には応用問題を解かせることも可能です。
このように、児童の習熟度に応じたきめ細やかなフォローが期待されています。
教員の数や質、教室不足が課題
一方でデメリットには、教員の数の不足や質の低下、教室の不足が挙げられます。
文部科学省では、全学年に35人学級が導入される令和7年度までの5年間をかけ、約1万4000人の教職員定数を改善する予定です。
しかし、大量採用された世代の定年退職や教員志願者の減少など、35人学級に関係なく教員は人手不足に悩まされています。その一方で、採用を増やすと教員採用試験の倍率が下がるため、教員の質が低下するおそれがあります。
また、教室不足も課題の一つです。少子化によって児童数は減少傾向にあるため、空き教室を利用できる小学校も少なくありません。しかし、人口が急増している地域では教室が足りず、校舎の増改築が必要な場合もあります。
参考:萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和2年12月17日):文部科学省
学級人数に関する疑問
35人学級の概要やメリット・デメリットが分かっても、他にも疑問がある人もいるでしょう。より35人学級を理解するために、学級人数に関する疑問を解消していきましょう。
導入されるのは小学校のみ?
今回の35人学級の法律案は公立小学校のみが対象で、中学校は対象外です。しかし、中学校での35人学級導入が検討されなかったわけではありません。
小学校への35人学級導入が始まった翌月、当時の文部科学大臣は35人学級について自治体と協議しました。そのとき、自治体側は中学校への35人学級の導入を大臣に訴えています。
このとき大臣側も「少人数学級の効果を検証した上で、中学校の35人学級実現、さらには小中学校の30人学級につなげたい」といった旨の発言をしています。
中学校での35人学級実現には、小学校での一定の成果が求められるでしょう。
参考:萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和3年2月16日):文部科学省
海外の学級人数について
35人学級を考えるにあたって、海外の学級人数も見ていきましょう。
ドイツのノルトライン・ベストファーレン州では、中等教育まで学級あたり30人以下です。アメリカ・カリフォルニア州では、各学級の児童数だけでなく、教員1人あたりの児童数も考慮されています。
韓国では2008年に平均30人だった学級人数が2018年には平均約24人と、10年で約2割の学級縮小に成功しています。教員の給与改善や地域の貧富差による格差の是正に取り組んでいるのも、韓国の特徴です。
海外と比較して、日本の35人学級は決して少ない人数とはいえないことが分かります。むしろ、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中では多い方ということを知っておきましょう。
35人学級の動向に注目しよう
35人学級の導入では、きめ細かな指導が可能になることで学力向上が期待されます。
一方、海外では30人以下の学級も珍しくなく、日本でも一部の自治体が独自に30人学級を導入するなど、35人という人数は決して少ない数字ではありません。
また、35人学級の導入には教員の不足や質の低下といった課題もあります。中学校での導入も検討されてはいるものの、小学校での一定の成果を求められる状態で、実現はもうしばらく先になる見込みです。
35人学級のメリット・デメリットの両方に目を向け、自治体や学校独自の取り組みも確認してみましょう。
構成・文/HugKum編集部