教育ジャーナリスト発、ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」からわかる、成績が伸びない子にやってはいけないこと【連載第3回】

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この秋の日本テレビ系ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」。HugKumではドラマ放送期間中の毎週金曜日に、教育ジャーナリストのおおたとしまささんによる前週のストーリーの振り返りと、ドラマに出てきた中学受験情報の解説、そして次回放送内容を考察する記事を連載しています。

最下位クラスの指導には一生懸命になるな

日テレ系の秋ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」の2回目の放送(10月23日)には、早くもスーパー塾講師・黒木蔵人(柳楽優弥)の本性が垣間見えるシーンが満載だった。振り返ってみよう。

 

主人公・佐倉麻衣(井上真央)が担当するのは、桜花ゼミナール吉祥寺校に3つあるクラスのうち、学力がいちばん低い「Rクラス」。トップ生が集う「Ω(オメガ)クラス」では授業後に質問の列ができるのに、追いつかなければいけないはずのRクラスの生徒たちは、さっさと帰ってしまう。

この日、佐倉が受けた唯一の質問は小学校の作文だった。お題は「将来の夢」。「お花屋さん」と書いたら母親にダメと言われたと。質問は「なんて書いたら大人は満足なの?」だった。佐倉には即答ができなかった。

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Rクラスの惨憺たるテスト結果を見て佐倉は「毎年Rクラスってこんな感じなんですか?」と同僚の桂歌子に尋ねる。桂は「そうねぇ、ま、その子たちにやる気出させるのが私たちの仕事ってことだけどね」と応える。

 

そこに黒木が現れて、佐倉にRクラスの模試答案をまとめたファイルを差し出す。そのときの黒木のセリフがこれまたひどい。

「Rの生徒に一生懸命にならなくていいですよ」

「Rクラスはお客さんですから」

「Rは不良債権だらけ」

 

正義感と責任感の強い佐倉は当然憤る。キャラ設定とはいえ、さすがにこれはひどいと思った視聴者も多かったのではないだろうか。しかし黒木の真意は、この回の終盤に少しだけわかる。

 

できない子の気持ちがわからないんですか?

Rクラスに気になる生徒がいた。加藤匠くんという眼鏡の男の子。見るからに覇気がなく、授業内テストの結果は0点。佐倉は母親と面談する。「中学受験に向いていないんじゃないか」と言う母親に、佐倉は「なんとか匠くんがやる気を出してくれるよう、いろいろ工夫してみます」と応じる。

佐倉は匠くんを見つけ、「マンツーマンで見てあげるから」と声をかけるが、当の匠くんは困惑した表情。いや、それどころか、眼鏡の奥の目が死んでいる。

 

黒木以外の講師たちの憩いの場「井の頭ボウル」で、佐倉は桂に「実は子どものころは算数が苦手で、すごく惨めで……」と打ち明ける。すると桂は「加藤くんの答案、ちゃんと見てる? 解答のプロセスをよく見てみると、指導の手がかりがつかめるんじゃないかな」とアドバイスする。そこで佐倉は思い出す。黒木が模試の答案のファイルを手渡してくれたことを。

塾に戻ると黒木がいた。「何か忘れ物ですか?」と尋ねる黒木に、佐倉は「加藤くんが、どこで何につまずいているのか、確認しておきたいんです」と答える。すると黒木は「あなたには話がまるで通じません」「“お客さん”に“一生懸命”になるなと言いましたよね」「Rの生徒はお客さんとして、楽しくお勉強させてください」とくり返す。

怒り心頭の佐倉は「先生には、できない子どもの気持ちがわからないんですか!」と黒木に迫る。黒木は「私がいちばんわからないのは、あなたです」と返す。原作では「はい。わかりません」と答えるのだが、ドラマでは含みがある。

 

中学受験撤退を引き留めた黒木の作戦とは?

別の日の授業後、佐倉は匠くんに本当にマンツーマンレッスンをする。「ほらここ、また同じ間違いしてる」と優しく指摘する佐倉。しかし「んー、わかんないよ」と匠くん。「うん、でもここまではできてる」と励ます佐倉。

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レッスンを終えたとき、教室の外を電車が通る音がした。窓の外を見る匠くんの目は、さきほどとは一転して輝いている。佐倉は、匠くんが鉄道オタクであることを知る。

 

しかし次の授業の日、匠くんは塾に来なかった。一方、黒木は匠くんの母親から退塾を検討していることを告げられる。そして佐倉に「匠さんに授業とは別にマンツーマンで教えているっていうのは本当ですか?」「何度も念を押したはずです。Rクラスには“一生懸命”になるな、と」と詰め寄る。

講師室は騒然とするが、佐倉のひと言で、匠くんが鉄道オタクであることがわかると、黒木は勝機をつかんだとばかりに、匠くんのご両親を説得する材料を集め始める。

 

その夜、緊急の面談が開かれた。匠くん、そのご両親、黒木、そして佐倉。中学受験撤退を決意した両親の気持ちを受け取ったうえで、黒木はスマホを取り出して、匠くんに鉄道ジオラマの動画を見せる。「これつくってるの中学生なんですよ」という言葉を添えて。さっきまで死んだ目をしていた匠くんの目がいきいきと輝き出す。さらに「鉄道研究会」がある私立中学のパンフレットの束を差し出す。

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それだけではない。黒木は両親を説得する材料の用意にも抜かりがなかった。匠くんの成績表や答案用紙を見せ、全体の偏差値は良くないが、地理分野や速さの計算については点が取れていること、これだけの記憶力があれば成績の飛躍が期待できることを告げる。それを聞いていた匠くんの目にも、やる気の小さな火が灯った。

そこまでを説明して、黒木は断言する。「つまり、匠さんは受験に向いていないというのは、みなさんの不安がつくり出した幻想。単なる誤解にすぎません」。黒木はさらに「苦労されているのはお母様も同じです」と、中学受験生を支える母親の苦労をねぎらう。原作での黒木のセリフはもっと直接的に母親の心境を言い当てていた。「お母様こそお疲れなのではないのかと思いました」と。

母親のほほを涙がつたう。母親も、なかなか成績が上がらない中学受験生の親であることが、つらかったのだ。黒木は言う。「もう一度言いますが、匠さんは決してできないお子さんではありません。よく見てください。できることが、こんなにたくさんあるんです」と、匠くんの答案用紙を掲げる。

 

原作のファンも驚く大サービスの「答え合わせ」

面談後、黒木は佐倉に説明する。これは原作にはない大サービスの「答え合わせ」的シーンだ。

「勉強が楽しくなければ、中学受験は成功しません。あなたは子どもたちに勉強の苦しさだけを教えていたのではありませんか。あなたは私に、できない子どもの気持ちがわからないのかとおたずねになりましたよね。この際、お答えしておきます。私は誰一人として、できない子だと思ったことはありません。あなたもほかの先生方と同じですね。子どもを切り捨てることはできないと言いながら、本心では無理だと思ってる」

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黒木の真意がわかっただろう。佐倉に「一生懸命になるな」と忠告したのは、できない子にとっては、それがさらなる重荷になってしまうこともあるからだ。なかなか成績の上がらない子に「やる気」を求めることがどれだけ酷なことか……。これは、中学受験の親にも通ずるアドバイスだ。

さらに言えば、私自身も「中学受験に向いていない子」という表現があまり好きではない。たしかに努力が点数に結びつきやすい子とそうでない子はいる。しかしだからといって「中学受験に向いていない」ということにはならない。そもそも「向いている」「向いていない」を決めるモノサシは何か。おそらくドラマは、そんなことも、今後視聴者に問いかけるのであろう。

かように黒木の言動には必ず、表向きとは裏腹な真意がある。そう思ってもう一度「不良債権」という言葉も吟味してみてほしい。不良債権とは、どうやっても回収できず、さっさと損切りするしかないものだ。Rクラスの答案の何が不良債権なのだろうか。これも次回以降の放送で明らかになるはずだ。

ちなみに原作では、黒木は「答え」を与えない。代わりに必ず自分の頭で考えろと佐倉にくり返し命じる。その意味で、黒木の真意の全容がいまだにわからない原作のファンにとっても、このドラマは今後「答え合わせ」の役割を果たすだろう。

 

夜のネオン街に消えていく別人格の黒木

作文の宿題の質問に、ようやく「答え」が用意できた。例の生徒に佐倉は、ある学校のパンフレットを差し出し、その学校に園芸の授業があることを伝える。「フラワーアレンジメントやガーデニングの実習もあるみたい」「作文は、こういう学校に通ってゆっくり将来を考えたいって、まとめたらどうかな?」。生徒の目が輝く。黒木が匠くんにしたのと同じ作戦を早速まねたのだ。

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井の頭ボウルで佐倉が桂に言う。「できないところじゃなくて、あの子ができることが何かを、見てあげなきゃいけなかったんですね」。塾講師を始めてすぐにこれに気づけるということは、佐倉は相当にセンスがいい。通常は何年もかかる。

残りの時間で、この物語が単なる中学受験必勝物語ではないことを示唆する伏線が大量に詰め込まれる。

 

まず佐倉のセリフ。「黒木先生、受験生のお母さんたちの苦労話も語ってました。それも、すごーく実感込めて、さも、見てきたように」。そして井の頭ボウルのマスターの娘で名門女子校に通う紗良について。マスターは「(塾には)行ってないの。知り合いにタダで教えてもらった」「今日もバイト行ってんだけど遅くなるとつい口出ししたくなっちゃう」と言う。

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一方シーンは夜のネオン街。黒木が自らの手で頭髪をくしゃくしゃにし、ネクタイをゆるめ、にやりと微笑む。あきらかに人格が変わった。そこに駆け寄るキャバ嬢2人。3人が入っていった雑居ビルには、バイトに行っているはずの紗良がいた。黒木とも顔見知りの様子だ。黒木は紗良に、茶封筒を手渡して、「気をつけて帰れよ」と告げる。

2人のキャバ嬢に連れられるようにして入っていった部屋には「STARFISH(ヒトデ)」の文字。黒木は、そして紗良は、ここで何をしているのか?

 

次回(10月30日)の放送では、桜花ゼミナール吉祥寺校でトップの成績を誇る前田花恋が、黒木の古巣である最強中学受験塾「ルトワック」への転塾を図るようだ。ルトワックには、黒木の「裏の顔」を暴こうとするライバル講師・灰谷純(加藤シゲアキ)がいる。花恋の転塾を、黒木はどう阻止するのか。

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ドラマの第2回を見逃したというひと、もう一度見たいひとは、ネットサービス「TVerで、10月30日21:59まで視聴可能だ。ドラマ公式ホームページでは「第2回」のダイジェスト動画が見られる。「第3回」を予習したいひとは、「次回予告」をどうぞ。

 

文/おおたとしまさ

二月の勝者 -絶対合格の教室』第3話は10月30日(土)夜10時より放送/日テレ系列

 

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ビックコミックスピリッツで大ヒット連載中の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』と気鋭の教育ジャーナリストのコラボレーション。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」と著者は言います。決して楽ではない中学受験という機会を通して親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面がそれぞれ対応しており、言葉と画の両面からわが子を想う親の心を鷲づかみにします。

 

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