佐々木正美先生の言葉は、子育て中の親に普遍的に響く
保育園や幼稚園にわが子を通わせていると、他の子との違いにどうしても目が行ってしまいます。例えば周りのお友達はどんどんオムツが取れてきているのに、わが子だけがなかなかとれず、焦ってしまう…。周りのお友達との関係の中で、わが子だけが「遅れている」と感じてしまったら、心のモヤモヤをどう処理すればいいのでしょうか。
そこで今回は、昨年惜しまれつつ亡くなった児童精神科の名医・佐々木正美先生の著書『育てたように子は育つ』(小学館)から、わが子の成長の「遅れ」が気になるママが、心に留めておきたい名言を幾つか紹介します。
「何でも育てることが上手な人は、待つことが上手な人」
草花や農作物を育ててみると分かりますが、どれだけ栄養を与えても、どれだけ土壌を豊かにしても、種が芽吹き、花を咲かせ、果実を実らせるまでに、長い時間を待たなければいけません。「まだ芽が出てこない」と焦って土をほじくり返してしまえば、種は芽を出さないまま、死んでしまいます。
佐々木先生によれば子育ても同じで、草花でも農作物でも、育て上手=待ち上手なのだとか。最善を尽くした上で、結果を問わない気持ちができていれば、待つ時間は喜びや楽しみに変わると言います。
ちょっとくらい子どもの成長が「遅れている」ように見えたとしても、結果を問わずに最善を尽くし、気長に待てる心のゆとりを持ちたいですね。
「欠点などそう簡単に直せるものではない。自分の胸に手を当てて考えてみれば分かること」
子どもの「欠点」や「遅れ」は、とにかく目につきますよね。「うちの子は同世代の子と比べてできていない」と考え始めると、いよいよ「欠点」を直そう、「遅れ」を取り戻そうと変な力が入ってしまいます。
しかし、欠点など直そうと思っても、直らないですよね。大人である親も同じはず。佐々木正美先生によると、簡単には直せない欠点はそのままにして、長所を見つけて伸ばしてあげた方が、将来的に子どもはその長所を頼りに生きていけるようになるのだとか。
子どもの持っている長所に気づいて、その長所にほれぼれしてあげる、子ども自身にも自分の長所を気づかせてあげるというスタンスが、最も重要なようです。
「(条件をつけない)愛情が与えられれば、子どもは必ず生まれ持ったものを豊かに開花する」
わが子が周りの子どもと比べて劣っている、遅れていると感じて焦り始めると、「〇〇ができれば褒めてあげる」、「〇〇ができなかったから褒めてあげない」といった条件付きの愛情表現になってしまいがち。
例えば保育園児の発表会で、わが子が友達の陰に隠れて歌も踊りも披露できずにオドオドしていたとします。親としては「情けない。〇〇くんや××ちゃんは歌ってたじゃない。あなたはどうして、あんなに練習したのにできないの?」と、子どもを責めてしまうかもしれません。
しかし、何かができれば喜んであげるというスタンスでいると、できなかったときの劣等感が余計に大きくなってしまうのだとか。
「そのままでいい」という無条件の承認こそが、子どもに対する最高の愛情表現なんですね。
以上、わが子の成長が人と比べて「遅れている」と感じてしまったときに思い出したい佐々木正美先生の名言を幾つか紹介しましたが、いかがでしたか? 佐々木先生の著書には、
<「いのちいっぱいに生きればいいぞ」と、ただそれだけ言ってやればよいのに、私たち大人は、他に余計なことを言って、道を見失ってしまう子どもにしてしまう>(『育てたように子は育つ』より引用)
という言葉もあります。親としての見えや自己顕示欲、競争心、社会から押し付けられる価値観などに右往左往して、つい子どもに余計なことを言ってしまう人は少なくないと思います。
わが子の成長が人と比べて「遅れている」と感じてしまったときは、上述した佐々木正美先生の言葉を思い出したいですね。
佐々木正美先生の著書はこちら
『育てたように子は育つ』
相田みつを/著・佐々木正美/著
教えてくれたのは
1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。
文/坂本正敬 写真/繁延あづさ