映画『サバカン SABAKAN』は子どもの実写映画デビュー作にぴったりな秀作!さまざまな立場を心の目で見るけきっかけに

子役二人がW初主演という大役を務めた『サバカン SABAKAN』。友情、差別、家族関係、貧困などの人々のさまざまな状況と、昭和を舞台にしたノスタルジーあふれる世界観が絶妙に重なりあって展開されています。年代、状況や立場にとらわれず、多くの人々の心に刺さる珠玉の1作。親子二世代ならぬ三世代で観ていただきたいイチオシの夏休み映画です。

大人も子どもも心躍る“ひと夏の冒険”を描く

©2022「SABAKAN」Film Partners

 

第44回日本アカデミー賞を総なめにした草なぎ剛主演映画『ミッドナイトスワン』(20)などで知られるCULENの新作映画『サバカン SABAKAN』が、8月19日より公開となりました。

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演技初挑戦の子役を主演に迎え、草なぎ剛が大人になった少年役を演じている本作は、HugKum世代の親子はもちろん、昭和時代を懐かしめる祖父母世代も一緒に観ていただきたい秀作です。

本作で描かれるのは“ひと夏の冒険”。この響きに子どもはワクワクし、大人は胸の奥にしまってある郷愁をそそられるのではないでしょうか。「トム・ソーヤーの冒険」のような物語を思い浮かべる方も多いと思いますが、実際にそこを全面に押し出しつつも、社会においてとても大切な道徳観をも織り込んだ奥の深い作品に仕上がっています。

主演の子役2人のナチュラルな存在感がみずみずしい

©2022「SABAKAN」Film Partners

 

舞台は1986年の長崎。肝っ玉母ちゃん(尾野真千子)と、稼ぎの低い父親(竹原ピストル)、弟と4人で暮らす久田(番家一路)は、斉藤由貴とキン消し(キン肉マン消しゴム)が大好きな小学5年生です。そんな久田が、貧乏で同級生から避けられている竹本(原田琥之佑)から、イルカが見られるというブーメラン島へ一緒に行こうと誘われます。

自転車で2人乗りをして、この冒険に出かけた久田たちですが、行く先々でいろいろなトラブルが発生!でも、この冒険をきっかけに、2人はかけがえのない友情を育んでいきます。ところがある日、悲しい事件が起こり……。

なんといっても、子役のみずみずしさに心を奪われる本作。主役はドラマ出演の経験はあったけど、もちろん主演という大役は初めての番家一路くんと、本作で演技に初挑戦した原田琥之佑くん。原田くんは、2011年に亡くなった俳優・原田芳雄さんの孫ということですが、2人ともオーディションで見出された新星です。いい意味で、演技力勝負の天才子役とは一線を画す、実にナチュラルでフラットな存在感がすばらしく、そこは草なぎさんたち大人のキャスト陣もお墨付きとか。

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そんな自然体の演技を引き出したのは、TBSドラマ「半沢直樹」(20)などのテレビや舞台の脚本や演出を手掛けてきた俊英、金沢知樹監督。監督自身の体験談などが盛り込まれたオリジナル脚本の映画ですが、監督デビュー作とは思えない笑いあり涙ありのクオリティーが高い感動作となりました。

舞台が1986年、昭和61年ということで、前述の斉藤由貴の名曲やポスター、キン消し、30分10円の肩たたきなど、昭和のノスタルジーが漂うものがいろいろと登場します。でも、太陽がまぶしい夏の海辺、麦わら帽子、自転車の2人乗りといった、時代を超えて受け継がれてきた夏休み映画の鉄板要素もちゃんと踏まえているところがポイント高し。親子三世代で観れば、アフタートークが大いに盛り上がりそうです。

子どもたちが観る初めての実写映画になってほしいという思い

©2022「SABAKAN」Film Partners

 

本作は、ただのひと夏の冒険映画から少し踏み込み、ストレートに言えば“差別”に対するメッセージや、人生についてのほろ苦さも描かれていきます。

竹本が久田を冒険に誘ったのは、久田が自分たちの暮らすボロい家を見ても笑わなかったから。子どもとは残酷なもので、同級生の悪ガキたちが興味本位かつ面白半分で、貧乏な竹本の自宅を見にいったんです。ほとんどの同級生が彼の家を見てあざ笑うなか、久田だけは決して笑いませんでした。

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久田の両親は夫婦喧嘩が絶えないけど、子どもに対しては愛情深く、人としてやっていいことと悪いことをきちんと教えていたんです。本作で特筆すべき点は、そういう親のあり方も丁寧に織り込んでいる点かと。この両親と久田のやりとりが、ジャブで涙腺を刺激してきます。

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また、竹本も働き者であるシングルマザー(貫地谷しほり)の下で、弟や妹たちと慎ましやかに仲良く暮らしていることがうかがえます。たとえ家が貧しくても、心はとても豊かな家族なんだなと。それだけに後半の展開に涙を禁じえません。

私自身も映画を観てやはり涙しました。ちなみにタイトル『サバカン SABAKAN』は、本作において少年2人をつなぐ大切なアイテムとして登場します。本作を観たあと、サバカンを手に取ると、いろんな想いがこみ上げてきそうです。

ぜひ本作を多くの方に観ていただきたいので、金沢監督が本作に込めたメッセージをご紹介して、レビューを締めくくらせていただきます。

「近年は、コロナ禍で思うように人に会えないという状況でしたが、家族っていいな、友達っていいな、と大事な人に会いに行きたいと思える作品になればいいなと思います。子どもたちにも観て欲しいし、子どもたちが観る初めての実写映画になったらいいなという思いで作りました。友達って疎遠になっていきますが、やっぱりいいものだよ、と言いたいです」

文/山崎伸子

『サバカンSABAKAN』は8月19日(金)より全国公開中
監督・脚本・編集:金沢知樹 脚本:金沢知樹 萩森淳
出演:番家一路、原田琥之佑、尾野真千子、竹原ピストル、村川絵梨、福地桃子、ゴリけん、八村倫太郎(WATWING)、茅島みずき、篠原篤、泉澤祐希、貫地谷しほり、草彅剛、岩松了……ほか
公式HP:sabakan-movie.com/

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