子どもの本専門店を開いて46年!三重県四日市市「メリーゴーランド」店主・増田喜昭さんが語る本の“魔法”

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子育てをしていると、とても身近な絵本。しかし、「どんな絵本がいいのだろう」「なかなか楽しい読み聞かせの時間をつくることができないな」など、悩むこともあると思います。そこで、三重県四日市にある子どもの本専門店「メリーゴーランド」の店主増田喜昭さんにお話を伺いました。

「子どもの本専門店メリーゴーランド」とは

「メリーゴーランド」は、子どもの本専門の本屋さんですが、喫茶店・雑貨店も併設しており、遊美術(「遊び」+「美術」)や絵本塾・童話塾(絵本作家の養成)、子ども向けのキャンプ、ライブなどさまざまなワークショップや催しも行っている魅力あふれるお店です。

今回は、その店主、増田さんに絵本について、さまざまなお話を伺いました。

お話を伺ったのは…

増田喜昭さん|子どもの本専門店メリーゴーランド店主

1950年三重県四日市生まれ。1976年に子どもの本専門店「メリーゴーランド」を開く。通称「ひげのおっさん」。書店業のかたわら、子どもと子どもの本を考えるレクチャーや絵本・童話作家の養成、各地での講演や少林寺拳法の先生など、多岐にわたり活躍している。主な著書に『子どもの本屋、全力投球!』『子どもの本屋はメリー・メリーゴーランド』(共に晶文社)、『えほん・絵本・134冊 子どもと大人をつなぐ。』(学研教育みらい)などがある。2007年には、京都店を開店。

公式サイトはこちら>>

Q. どのような想いでメリーゴーランドを始められたのですか?

増田さん「もともとはサラリーマンでした。ある日、『あおくんときいろちゃん』(※1)にであい、絵本に興味をもちました。名古屋に子どもの本専門店『メルヘンハウス』ができ、見に行ったとき、小さな女の子が小さな椅子に座って本を読んでいた後ろ姿に衝撃をうけ、それをきっかけに『自分もやってみたい!』と思いました。

子どもが選ぶ絵本は決してカラフルであるとか、キャラクターとかで子どもに人気になるわけではないんですよ。

ロングセラーの絵本は、絵が単純であったり大人が見ると「?」と思う絵だったりして。

しかし、同じ絵を見ても、子どもの感受性は大人のそれと違うのですよね」

それから「子どもが本屋に行くのが楽しくなるようなお店にしたい」という理念のもと増田さんは開業されたそうです。

※1……当記事の記事末に、増田さんのお話で出てきた児童書をまとめてご紹介します。

絵本はココがすごい

子どもの本専門店をオープンした増田さんに、絵本の魅力についても教えてもらいました。

Q.絵本の魅力を教えてください。

増田さん「メルヘンハウスに行ったときに購入した絵本『りんごがたべたいねずみくん』は絵の背景に何も描かれていませんが、そこにとても惹かれました。絵本って、ごちゃごちゃかかなくても魅力的なのですよね」

児童書の選び方は

増田さんは学校に出向いて「出張本屋」もされているそう。増田さんが本を選ぶとき、どのようなことをされているのかも、伺いました。

Q.「出張本屋」をされるときは、どんな本を選ぶのですか?

増田さん「まず、年齢は幅広くせず、広くても低・中・高学年(小学校)に学校側に分けてもらい、興味がありそうな本を何冊か持っていきます。手遊びや歌遊びなどをしながら子ども達の様子を見たり周りの環境の様子を見たりし、1冊を決めて読み始めます」

-なるほど、増田さんが全身の感性を使いながら、その場で最終的に本を選ぶのですね。子どもをよく見て感じ、考えることで、子どもたちは、まるで“魔法”にかかったように、すっと本の世界に入っていく姿が想像できます!

また、子どもたちに読み聞かせをするときには次のようにお話されるとか。

増田さん「『扉』(本のタイトルや著者名が印刷されたページ)を開けるのは、先生でも親でもないよ。自分で本を開けるんだよ。子どものうちにその楽しさを知ったら幸せだよ、と子どもたちに話します。

これは、絵本を通してもう1つの世界に行ける、現実で嫌なことがあっても、本の中で楽しめるということです。

子どもは自分の想像力でどんどん広げていくことができ、一人一人違う世界観があるのです。

本が心に残るのは、自分で広げた世界だから忘れられないでしょう。

本は友達であり、居場所であることを子どもたちに伝えたくて……」

-「扉を開ける」ときの子どもたちを想像すると、高揚感がわいてきました!一人でも多くの子がその子にとっての大切な存在=本に出あってほしいなと思います。

最後に、増田さん、今気に入っている絵本はありますか。

Q. 増田さんが今推薦したい児童書を教えてください。

増田さん「『あおのじかん』や『たびするてんとうむし』『へんしん すがたをかえるイモムシ』がおすすめです」

-私も読んでみました。心が落ち着き、絵にすっと吸い込まれていく感じになるので「この絵本は誰かに読んでもらいながら、この素敵な絵の中に入っていってもらいたい」と心から思いました。

私たち親は、「子どものために」本を手に取ることが多いのですが、子どもの本を選びながら、大人も心を空っぽにして本の世界に入ったり好きな本を見つけたりする時間も大切だなと感じました。

今日はありがとうございました。

増田さんが考える本とは

増田さんは、執筆業や波乗り、ウクレレ、少林寺拳法と多彩な才能や趣味もお持ち。そんなパワフルな増田さんを取材したときに、印象に残ったフレーズが「人と人との間に本がある」です。

人と人との間にあるもの

「本がただ存在するわけではない。そこには必ず、人が関わっているのです。『人と人との間に本がある』のです。大人が子どもをよく見て、『この子にはこの本がいいだろうな』と考えることが尊いのです」と話された増田さんの言葉に「本当だ!!」と叫びたくなりました。誰かが誰かのことを想ってすること。それ自体が温かく、尊いことですよね。

増田さんのお話を聞いて、子どもをよく見て感じ、本に出あい、その本を通して見られる子どものキラキラした目や、心と体が触れ合う時間を大切にしたいと思いました。

私たち親は忙しく、「片付けなきゃ」「買い物行かなきゃ」などあれこれ考え、頭や心が落ち着かずに読み聞かせをしてしまうこともあると思います。

しかし、増田さんのお話を思い出し、本を通した親子の時間の中で、子どもの魅力、本の魅力に少しでも浸れるといいなと思います。きっと親自身の癒しの時間にもなります。子どもが楽しんでいる世界にお邪魔させてもらい、一緒に楽しむことができたら、より素敵な親子の時間が増えそうです。

増田さんおすすめの本はこちら

『あおくんときいろちゃん』

レオ・レオーニ 作 藤田圭雄 訳 至光社

あおくんときいろちゃんはとても仲良し。ある日、あおくんがきいろちゃんと遊びたくなり探しますが、なかなか見つかりません。やっとのことで会えた2人は、うれしくて抱き合い「みどり」になってしまいます。みどりになった訳が分かると、親達もうれしくなり……。想像力がたくさんわき、自分だけのあおくんときいろちゃんの世界を広げられる、人と人との温かさを感じられる絵本です。

りんごがたべたいねずみくん

作:なかえよしを 絵:上野紀子 ポプラ社

大きな木においしそうな赤いりんごがたくさんあります。他の動物たちは自分のよさを使って、りんごを採っていきますが、ねずみくんは上手くいきません。そこへ来たのは……。ねずみくんが懸命にりんごを採ろうとする姿がかわいらしく、最後にはほっとし、誰にでも他の人にはないよさがあると感じさせてくれる絵本です。

『あおのじかん』

イザベル・シムレール 文・絵 石津ちひろ 訳 岩波書店

太陽が沈み、夜がやってくるまでのひととき、あおいろに染まる「あおのじかん」。その時間の動物や虫、花の様子が美しいあおで描かれています。表紙を開けた瞬間に「あお」の世界に引き込まれるおだやかな絵本です。

『たびするてんとうむし』


イザベル・シムレール 文・絵 石津ちひろ 訳 岩波書店

テントウムシが、卵を産む場所を探しています。しかし見つけるところ見つけるところ、実は昆虫の擬態。邪魔扱いをされたり食べられそうになったり。ドキドキわくわくするストーリーとぐうっと引き込まれる美しい絵に読み終わると満足感たっぷりになります。

『へんしん すがたをかえるイモムシ』


作 桃山鈴子 解説・監修 井上大成 福音館書店

卵から生まれたイモムシがチョウになるまでの様子が描かれています。モンシロチョウ、ナミアゲハ、ウラギンシジミ。それぞれ卵も好む木、幼虫、イモムシの様子も違います。成長の様子が少しずつ描かれているので、変化が分かりやすく思わず「頑張れ!」と応援したくなる絵本です。

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文/佐藤多恵 ※画像提供:メリーゴーランド

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