体重の変動から「女子のいじめ」がわかった!知っておきたい、発育に表れる「心の状態」【子どもの発育の専門家が解説】

子どもの健やかな発育を確認できる成長曲線。異常があれば、早期発見できます。子どもの発育に詳しい小林正子先生に解説していただくのは、体重が上下動するパターン。体重に細かな変動があることに表れる問題とは?

成長曲線グラフの体重の変動からいじめが判明

身長は伸びていないのに体重の変動が激しかったA子さん

このグラフは、ある東京都内の中高一貫校の女子A子さんの成長曲線です。身長は、中学校1年生からほとんど伸びていないのに、体重は激しく上下動しています。

当時、発育研究のために、この学校で3カ月ごとに生徒の身長と体重を計測していた私は、A子さんのグラフを見て、最初は単にダイエットしているだけと思っていました。身長が低いので、ダイエットをして、体重を落とそうとしているのかなとしか考えていなかったのです。

でも、これはいよいよおかしいなと思ったのが、中学校3年生の終わりごろ。養護の先生に相談したら、すぐに教員に呼びかけてくださって、学校全体で情報を共有したり、生徒に聞きとりしたりしたところ、いじめが判明しました。

身長が伸びていない中学1年生から始まっていた「いじめ」

A子さんは中学校1年生のときから、ある一人のボスの子を中心に、クラス全員の子にいじめられていました。

・誰かがどこかに行って買ってきたお土産をみんなにあげるけれど、A子さんにだけあげない。

・アイドルの写真を、みんなで回して見るけれど、A子さんにだけ見せない。

そういうチクチクした陰湿ないじめがあったようです。そのボスがこわくて、他の子も従ってしまったようですね。自分もいじめられるのがいやだって。だから、いつものけ者にされていたわけです。

クラス替えをするなどして、先生達は見守っていましたが、結局、彼女自身が受けた心の傷が癒えることはなかったようです。他の子も手のひらを返して仲良くしてくれるわけでもなく、教室に居づらい感じだったのでしょうね。保健室登校になった末、卒業していきました。

阪神淡路大震災後にも、同様の事例が続出

同様の例が1995年の阪神淡路大震災のあとにも見られました。私が体重が上下動している子だけをグラフにして、この子たちの様子はどうですか、と学校に提示したところ、びっくりされました。この子たちは、みんな大きな被害を受けて、私たちが本当に心配している子ですと。先生方が特に気にかけていた子と一致していたわけです。

特にひどかったのが、4年生のときに震災にあったBくん。体重のするどいピークが繰り返されて、それが6年生まで続きました。上下動が始まると、消えることがなかった。やはりPTSDは、長く続くわけです。学校側も気をつけてみますと対処してくださいました。

悩みがあると体重のリズムが崩れます

心に問題を抱えていると、なぜ体重が上下動するのでしょう。それは体の不規則変動が多くなるからです。つまり体重のリズムが、なかなかできてこないわけです。

元気な子は、一日の中で多少の変動はあるものの、リズムを崩すほどの変動はありません。リズムを崩す子は、保健室にしょっちゅうくる子。体重変動が多い子は、保健室に来る回数が多いのです。

その子に何があるかわからないけれど、何かあると体重が変動する。リズムが崩れる。体重が上下動している子は、気をつけて見てみると背景に何かあるわけです。

実は事例で紹介したA子さんをいじめていたボスの子も、体重の上下動がけっこうあったことがわかりました。いじめっ子も心の中に何かあったということです。

体重は体の状態をあらわす「体の総合量」

ここ最近は、コロナ禍で学校もこまめに身体計測できなくなってしまいましたが、西日本や九州では体重を比較的細かく計測する傾向があります。

実は、私が発育の研究を行うきっかけが生まれたのは、夫の赴任先の長崎で子育てをしていたときでした。小学生の娘が、身長は年に3回なのに、体重は毎月、計測されて帰ってくるのです。不思議に思って、そのことについて先生にお尋ねしたら、「体重は体の総合量なので、子どもの健康を見守るために測っている」という答えが返ってきました。

東京では経験していなかったことでしたので、個人的に興味が湧き、色々と調べたところ、広島と長崎が原爆の被害を受けたことに起因している習慣であることがわかりました。

西日本・九州で頻繁に子どもの体重を量る習慣があるワケ

戦後、原爆の影響で子どもの具合がどんどん悪くなっていく。なんとかこの子たちを救わないといけない、手軽にできるスクリーニングは何かないかということで、ある医師の提案で、広島では2週間に一度の体重測定が行われることになったのです。ある女学校では、体重をこまめに測ることで、体重の変動から子どもの様子に気を配り、一人も重い病気の子を出しませんでした。この広島の経験が、長崎にも伝わり継承され、その名残で今も西日本や九州では、体重を月に一回測っている学校が多いようです。このことを知ったことがきっかけで、子どもの発育の研究の道に進むことになりました。

体重がストンと落ちたら摂食障害の恐れが

「体の総合量」である体重は、すべての体の状態をあらわすものなので、体重を月に一度、測っていれば、何か病気にかかったら、すぐに発見できます。子どもを本気で守ろうと思ったら3カ月に一度は体重を測ってほしいですね。体重に着目すると、客観的に見えることがたくさんあります。

心に悩みがある子は上下動しますし、ネグレクトの子や摂食障害の子は、体重がストンと落ちます。特に摂食障害は、短期間に6~7キロぐらい、ストンと落ちるので、非常に危険です。ストンと体重が落ちて病院に行くと、摂食障害と診断されることが多いですね。

太ったり痩せたりというのは見た目にもわかるので、ちょっと最近、見た目がよく変わるなというときは、ダイエットだけではない、何か心に問題を抱えている可能性も考えてみることが大切なのです。

 

教えてくれたのは

女子栄養大学客員教授
小林正子先生

お茶の水女子大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
東京大学教育学部助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を経て、2007年より女子栄養大学教授。2020年より現職。
発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』(小学館新書)

子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子先生が、子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱する1冊。

著/小林正子|990円(税込)

子どもの異変は、「成長曲線」のグラフに記録することで早期に発見できると、子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子氏は語ります。
子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱します。

取材・構成/池田純子 イラスト/まる

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