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脳の専門家・黒川伊保子さんと数学教師・井本陽久さんが対談、テーマは思春期の男子!
黒川伊保子さん
株式会社感性リサーチ代表取締役社長、人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事。
人工知能エンジニアとして自然言語解析の現場に早くから従事。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピュータの日本語対話に成功。語感の正体を発見し数値化にも成功する。人工知能のために培った「人間学」から著作を始める。2018年には『妻のトリセツ』がベストセラーに。『思春期のトリセツ』で思春期を脳科学で解説。
井本陽久さん
いもいも教室共同代表/栄光学園数学科講師。1969年生まれ。
いきなり小5で息子の「不機嫌」がやってきた
――では、これからおふたりに専門家の知見をからめて、思春期に関してのパパママの質問にお答えいただきます。まず次の質問です。
「これまで『ママ、ママ』と慕ってくれていたのに、小5になったらぶっきらぼうで不機嫌な顔ばかりで、戸惑っています。いったい子どもの頭の中でどんなことが起きているのでしょうか」。典型的な思春期の様相のようですね。
黒川:私は教育の専門家ではないので、脳の解説をします。小脳の機能がとりそろうのがだいたい8歳の誕生日から8歳半位の間、ここで空間認知ができ、世界観がやっと把握できるんですよ。客観的に世の中が見えるようになり、因果関係が大人のようにわかってくる。
すると、社会一般のことと母親がやっていることとの乖離に気づくんですね。だから、8歳以降、11歳くらいまではよく、子どもに説教くらっていました。「家族ってなんですか」って。「僕はいっしょにごはんを食べるのが家族なんだと思う、うちはパパもママもいっしょにごはんを食べていない」と。母親がやることがゼッタイではないと確信するわけです。
母と子は「同志」になるのがコツ?
これは成長の一種です。「幼い頃はママ、ママって言っていたのにむっつりして不機嫌」になったのは、おそらく支配型だったからではないでしょうか。相手には相手の人生がある、相手の脳には相手の見え方があるって思ったら、ここから仲良しになれるんじゃないかと思うんです。脳の回路の理論上そうです。
私は子どもがそのような年齢の頃は、会社であったことの相談をしていました。「後輩になめられて困ってるのよ私」って。そうしたら「俺も1年生になめられた」と(笑)。9,10,11歳は母と子は「同志」になってはどうかと思います。
子どもの不機嫌は子離れを促してくれる
井本:黒川先生の深い説明のあとでは何を言っても浅くなりますが……。子どもって意外に親離れがすぐできてしまうものです。親のほうからすると、ずっと関わって心配するのがくせのようになっているし、心配しなくなることは難しいけれど、子どもに反抗期が起こることで子どもから「あっち行って!」ってやられてしまう。つらいですよね。
でも、反抗期のおかげで子どもも大人も親離れ・子離れできるのです。いざやろうと思うと難しい子離れを、子どものほうがちゃんとさせてくれているなと思います。幼児期の反抗期よりも思春期の反抗期は、パパママはもっと傷つくかもしれませんが、その時期まで覚悟しながら少しずつ慣れていただくということでしょうか。
男の子には、自分の気持ちを整理することが必要
黒川:おっしゃるとおりですね。ただ、放任もダメなんですよ。特に12歳までの男の子には、その子の気持ちを自分で言葉にできるようにすることが必要です。「あなたはどう思ったの?」って聞きながら、心の中の思いを言語化し、認識し、整理することが必要です。
井本:子どもによって、反抗をしやすい子とそうでもない子って、特性としてもありませんか?
黒川:あります、あります。脳って生まれつきせっかちとかのんびりがあるんです。
親子の組み合わせの特性もありますね、せっかちでスピーディな母親×息子だと激しく感情を行き交わせることもあります。おっとり×おっとりだと、それほどバトルはひどくないかもしれません。そうやって俯瞰してみたら、いろんな工夫のしかたがあると思うな。
小2で常に激しい口調の子には要注意?
――そういう意味では次の質問のお子さんは早い時期からせっかちかもしれません。「小2ですが、『ふざけんな』とか感情おさえられなくてけったりします。対処法は?」
黒川:おかあさんが「絶対的な存在」だと思うからそんなことができるんじゃないかな。
井本:相手をたたいたり、汚い言葉を投げつけたりすることで相手と関係を作ろうとする、いわゆる「愛情障害」のケースの場合、それを見過ごしていると、そのふるまいをますます強化させてしまうことになります。この場合ははっきりと「No!」と拒否しなければなりません。
また、子どもが「死ね」とか過激なことを言っても先生が流していると、集団のムードづくりを過激な言動をする子どもに明け渡すことになります。そうなると、周囲の子は二手に分かれます。一方は自分もそれにのっかることでやられる側にならないようにする。もう一方はできるだけ目立たないようにしてやられる側にならないようにする。つまり活発に見えて、実はクラス全体が緊張状態になります。
一度明け渡すと、次は大人が引き取ると言っても簡単にはできません。だからそういう場合、過激な言葉と言えその場でNoと止めなければなりません。止めるときは、子どもの人格はぜったいに傷つけない。「それ、やな感じだよ」ってパッと短い言葉で止めることですね。
「ダメ」「無理」には暗黙の主語がついている
黒川:いきなり「ダメ」っていうのは日本語の特性なんですね。でも、考え方の違いに対して人がイエスもノーもないので。「ダメ」と「無理」っていうのは、暗黙の主語がついていています。「ふつう無理でしょ」っていうのも、世間全体が無理と言っている、という言い方で相手を全否定してかかっています。世間をかさにきた全否定で人格否定です。
井本:そう、たしなめるほうも、けっこう軽く考えないほうがいいですね。
黒川:家族の手に負えないと思ったら専門家に相談するのも手ですね。
12歳半くらいから18歳前くらいまで、テストステロンというホルモンの分泌が増え、男の子を好戦的にすることがわかっています。縄張り意識が働いて、たとえば自分の机の上を勝手にかたづけられるとひどく逆上することがあります。いずれにしても、この時期は、子ども自身が聖域だと思っている場所を勝手にさわったり、友達の悪口を言うのは避けたほうがいいでしょう。
片付けられない、宿題もしないわが子は…理系の天才?
――さて、次はその片付けの問題です。「うちの子、思春期になったら片付けないし、『宿題しなさい』っていっても無視です。イライラします」
井本:あ、これは……僕はアドバイスできないです。僕も片付けができないんです(笑)。それと、宿題は小学校のときにはしたことがない。「出ていたかな?」とすらも思ってなかったし、親にもまったく何もいわれなかったので。今も、教室で片付けられなくてあまりにも散らかしている子を見ると、「しょうがないな」と言いながら大好きで(笑)。片付けられない自分も好きだし。
黒川:男の子は片付けすぎないほうがいいです(きっぱり)。理系の子は、脳の中の概念世界と現実と、二つ世界を持っているんです。
我が家の息子は成人して家庭を持って一緒に住んでいるんですが、彼が片付けなくていいような家をつくりました。リビングの近くにクロゼットの部屋を造り、彼が脱ぎ散らかしたものは、すぐ彼のクロゼットに足で押し込む。
また、理系の子は12歳くらいまで、人の言っていることが理解しにくいんです。宿題が出ていることに気がつきません。アインシュタインの伝記を読むと17歳まで宿題が出ているのに気がつかなくて、ガールフレンドが「宿題出ているよ」って言うとびっくりしていましたって。うちの息子もやはり宿題はやりませんでした。それでいいんです。
井本:やったー(笑)!
黒川:ですから、ご質問の方の息子さんも、理系の天才である可能性が高いです(笑)。
12歳~15歳は脳が誤作動している!
――では、最後に先生方に、思春期男子についてまとめていただきたいと思います。
黒川:脳は12歳までは「子ども脳型」といって、あらゆる記憶に感性が付帯して右脳と左脳の連携がいいのです。やがて15歳からは大人脳にかわって、すべての記憶を過去の類似体験と比較して共通点と差分という形で記憶するようになります。その間の3年間は脳が誤作動していく、この3年間に言動がいつもと違うのはあまり気にすることなく見守っていくことが大事なんですね。
よく、「プロセスが大事」と言いますが、プロセスは右脳と左脳の連携信号なんですね。そこは12歳までは第一優先なんだけれど、受験やゲームで勝ち負けを報酬に結びつけるようになると、右脳と左脳の連携信号がうすくなっていくんです。ですから、12歳まではとにかくさくたんのことを感じ、言葉にすることを親も手伝ってあげましょう。
12歳までは過程を言葉にすることに重きを
親が結果を急ぐことしかいわない、たとえば「早くご飯食べてお風呂に入ってこれしてあれして」って言い続けると、右脳と左脳の連携が行われないんですよ。まず過程の中に会話をしっかり入れていくこと。連携信号が働いていると報酬型のゲームなどの依存になりにくいっていうのがありますね。まあそれでも「くそばばぁ」って言われるかもしれないけれど、それは大人になっているということで、お赤飯でも炊いて、「ハイハイ来ました」って余裕を持って受け止めてあげてください。
子どもの思春期がきたら、親も切り替えて
井本:今日、黒川さんの話を聞いて、男の子の思春期の行動には、ちゃんと理由があるんだなって思いましたね。小学生もそうなんですが、中学生は特に思春期まっただ中で、親の言うことは聞かないですよね。そんな子に「おかあさんすごくうるさいの?」って聞くと、「別になにもいわないけど」って。「じゃ、なにでムカつくの?」って聞くと、「今、自分のことを考えているんだろうなと思うだけでムカツク」って。反抗期って一番お母さん、お父さんが言われたら傷つくことを選んで言うから、きっとみなさんも苦しみますよね。
でもね、子どもたちに僕、こう言ってみたんですよ。「みんなちっちゃい頃はおかあさんが忙しいときでもすがりついて『こっち向いて、こっち向いて』ってやってたけど、振り向かせたら今度はいきなりバーンって足蹴にする。それ、結婚詐欺みたいなもんだぞ」って。そしたらみんな笑ってました。わかってるんです、子どもも。おかあさんを傷つけちゃってるってこと。
おかあさんの側も、中にはスゴイうまいなって思う人もいて、中学生で反抗期がひどくなったら、パッと切り替えて、「じゃ私楽しんじゃおう」とか言って、ママ友と遊んだりね。そうやって切り替えを上手にして、子どもの思春期によって、おかあさんも子離れを上手にできるとね、いいと思いますね。
取材・文/三輪泉
この記事は花まる学習会主宰の講演会(11/14開催)黒川 伊保子氏 × 井本 陽久「ママはお手上げ!思春期男子のトリセツ」から抜粋しました。