徴兵令の日本での実態。目的や当時の情勢、徴兵免除や徴兵逃れの実情を探る【親子で歴史を学ぶ】

2022年のウクライナ情勢をみていると、「日本は平和だから関係ない」と言ってもいられなくなってきました。日本における徴兵令とはどういうものだったのか、兵役義務を免除されることはあったのか、さらに諸外国の現状も合わせてみていきます。

日本における徴兵令とは?

まず、日本で「徴兵令(ちょうへいれい)」が布告された時期、徴兵令の目的について考えてみましょう。

布告されたのは、1873年1月

日本での徴兵令は、1873年(明治6年)に当時の太政官布告として発せられました。「布告」とは現在の法律にあたるもので、基本的に成人男性は全員、兵役の義務があるとするものです。

男性は、20歳になると徴兵検査を受け、結果に応じて「甲・乙・丙・丁・戊(ぼ)」の5段階にわけられます。そのうち、「甲」と「乙」は健康・体格とも問題なしという合格判定で、「戊」は命に関わる重大な疾患があるため、入隊には不適格という判定です。

実際に徴兵される人は、合格者のなかから抽選で選ばれました。入隊後は、常備軍で3年間の兵役に就き、その後の4年間は、後備軍として戦時召集の対象となるというものです。

徴兵令の目的

明治初期の日本は、開国直後で国情が安定していなかったこともあり、大国の脅威にさらされていました。「富国強兵」の国策をかかげ、国を豊かにすること、強力な軍隊をつくることが急務だったのです。

そのような時代背景で布告された徴兵令の目的は、もちろん「強力な軍隊をつくること」です。主に、武士の子弟で構成されている職業軍人だけでは足りなかったため、徴兵令を出して、まずは兵の数を増やそうとしました。

また、職業軍人には給与や退職後の保証が必要になりますが、徴兵令で集められた兵士には、それほどお金がかからない点も大きなメリットといえます。

徴兵令で集めた兵士にお金をかけない理由は、当時、兵役は国民の義務の一つであったからです。しかし、さまざまな面で配慮のない徴兵令は「血税」などといわれ、国民の反感をかうことになりました。

朽ちた「95式軽戦車」(サイパン)。太平洋戦争時、全滅した日本軍第九連隊のもの。1944(昭和19)年6月15日、日本軍の南方の防衛線であったマリアナ諸島のサイパン島に米軍が上陸。激しい戦闘の末、徴兵された兵士も民間の日本人も痛ましい最期となった。

徴兵で使われた「赤紙」との関係

戦争がテーマのドラマや映画で、「赤紙(あかがみ)」というものを見たことがある人は多いでしょう。深刻な表情で「赤紙が来た」などというシーンがあり、受け取った人は戦場に赴くことになるのです。

赤紙の正式名称は「召集令状(しょうしゅうれいじょう)」といいます。兵が足りなくなったときに補充する充員召集令状と、戦時に出される臨時招集令状がありました。常備軍の兵役を終えた人や、徴兵検査で不合格になった人に送られたものです。

ドラマで描かれるのは、「根こそぎ動員」「国民総動員」などといわれるほど緊迫した戦争末期のシーンが多いのですが、実際は、平時にも赤紙は送られていました。

臨時召集令状(イメージ)。実際に赤い紙が使われていたことから「赤紙」と呼ばれた。

徴兵は、免除されることもある?

徴兵令の原則は国民皆兵(こくみんかいへい)ですが、例外的に徴兵を免除されることもありました。また、戦場に行くことを嫌がり、徴兵逃れの行為をする人もよく見られたようです。

免除条件があった

基本的には、20歳以上の男性全員に兵役の義務がありましたが、例外として、以下に該当する人は兵役を免れることができました。

●官庁勤務者
●公立学校生徒
●医術等修行中の者
●一家の主人と跡取り
●270円の代人料を納付した者

免除の理由は、このような人々を兵として戦死させると「国が困る」からというものです。徴兵令が布告された当初は、不平等な内容に対する国民の反発が強く、西日本を中心に各地で一揆が起こりました。

兵役免除の制度は、1889(明治22)年に撤廃されましたが、高学歴者に対してのみ例外が認められました。

徴兵逃れと呼ばれる行為も

徴兵令が布告されたばかりの頃は、北海道や沖縄では徴兵が行われていなかったため、徴兵を逃れるために北海道や沖縄に移住する人も少なくありませんでした。

また、一家の主人とその跡継ぎは兵役を免除されるので、形だけ養子縁組を行うケースも頻繁(ひんぱん)に見られました。さらには、わざと罪を犯して刑務所に入る人もいたといいます。

実際、「日清(にっしん)戦争」でも人口の5%程度しか徴集されず、徴兵逃れは横行していたようです。

世界の徴兵制度

1945(昭和20)年に、第二次世界大戦で敗戦して以降、日本では徴兵制は廃止されました。しかし、世界の国々では今でも徴兵制度を採っているところがあります。それどころか、一時期は徴兵制を廃止していたのに、近年になって復活させた国もあります。

現在も徴兵制がある国

現在では、世界の約60カ国で徴兵制が採られています。男性のみを対象とする国が多いなかで、イスラエル・スウェーデン・北朝鮮・マレーシアでは男女とも兵役の対象です。スイス・韓国のように、女性については志願制を採っている国もあります。

細かいルールは国によって異なります。たとえば、スイスでは兵役と代替勤務を選べるようになっています。健康上の理由などで兵役を務められない場合は、社会奉仕などの代替勤務を行うか、もしくは免除金を支払うのがルールです。

ほかにも、ロシアでは18~27歳の男性に1年間の兵役を課していますが、兄弟が兵役中に死亡した場合は免除されます。

世界的な傾向として、徴兵制は廃止に向かっていましたが、2014(平成26)年、ウクライナはロシアの脅威に対向するために徴兵制を復活させます。2018(平成30)年には、フランスとスウェーデンが続きました。

アメリカの徴兵制について

世界の大国・アメリカ合衆国は、徴兵制を採っていません。そのかわり、登録して軍の訓練を受ける「義務」があります。

この義務は、選抜徴兵登録制度(Selective Service System)といって、18~25歳の男性が対象です。アメリカ市民はもちろん、グリーンカード保持者・不法滞在者・難民・亡命者・市民権を持つ二重国籍者も含まれます。また、アメリカ国籍を持つ男性は、国外に住んでいても対象になるので要注意です。

これに反すると、5年以下の懲役または25万ドル以下の罰金刑に処せられます。

米軍といえば、よく問題になる普天間(ふてんま)飛行場(沖縄県宜野湾市)。在日米軍海兵隊の軍用飛行場・普天間航空基地。門前町として古くから栄えた地域で、約25%にあたる面積が基地となっている。その92%は私有地で、補償金が支払われている。

今の平和を、改めて振り返ってみて

日本の徴兵令は、明治初期に富国強兵のために出されました。それ以前は、戦うのは武士階級の仕事だったのですが、庶民が命がけで戦争に出なくてはならなくなったことから、「血税」と呼ばれたこともあります。そのため、国民の反発は強く、各地で一揆が起こったり、兵役逃れが横行したりしました。

やがて、第二次世界大戦の終結と同時に徴兵令は撤廃されたため、現在の日本に徴兵制はありません。

このように、日本にとって徴兵制は遠い昔のことですが、世界には今でも徴兵制を採る国もあり、一般市民が戦争に駆り出されています。一日でも早く、世界の平和が実現することを祈るばかりです。

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構成・文/HugKum編集部

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