カースト制度とは
「カースト制度」とは、具体的にどのような制度なのでしょうか。カーストの名前の由来も、あわせて見ていきましょう。
インドの宗教に基づく身分制度
カースト制度は、インドの宗教「ヒンズー教」に基づいて、古くから社会に根付いている身分制度を指します。単純にいくつかの身分で階級分けするのではなく、「ヴァルナ」「ジャーティ」と呼ばれる二つの概念が存在するのが特徴です。
ヴァルナは、いわゆる身分のことで、四つの階級に分かれています。ジャーティは、血縁・職業などで結束された共同体を表す言葉です。インド全体で、2,000~3,000のジャーティがあるといわれています。
もともとカーストは、外部から持ち込まれた
カースト制度は、紀元前1500年頃に中央アジアからインドに進出したアーリア人が持ち込んだものです。先住民を征服する過程で、肌の色で差別したのが起源、とする説が有力です。
ただし、当時からカーストと呼ばれていたわけではありません。カーストの名称は、ポルトガル語の「カスタ(casta)」に由来します。
カスタとは、血統や人種を意味する言葉です。16世紀末に航海でインドを訪れたポルトガル人が、現地で目にした社会的な慣行を、自国語のカスタに当てはめたと伝わっています。
カースト制度における身分と歴史
カースト制度は、他の宗教や外国の介入を受けた時代もありましたが、基本的な内容は変わることなく長く続いています。各身分の詳細や、たどってきた歴史を見ていきましょう。
4つの身分と、カースト外の身分
カースト制度として、以下の4つの身分(ヴァルナ)があります。
●バラモン
●クシャトリア
●ヴァイシャ
●シュードラ
バラモンは、カーストの頂点にあり、宗教的な権威を持つ支配者層です。知識人が多く、大学教授などもたくさんいます。クシャトリアは王族・貴族を指し、行政や司法を担ってきました。
ヴァイシャは、主に商業を生業(なりわい)とする市民階級で、身分は高くないものの高い経済力を持っています。シュードラは、農業や製造業などに従事する、一般的な労働者階級です。
また、シュードラの下には「ダリット」という身分があります。ダリットは、動物の加工や汚物処理などの仕事に就いていました。彼らは「不可触民」とも呼ばれる、他の身分の人が近付いてはならない存在であり、カーストには数えられません。
原点とされるのは「リグ・ヴェーダ」
カースト制度の原点は、ヒンズー教の聖典の一つ「リグ・ヴェーダ」にあるとされています。「リグ・ヴェーダ」には、神に捧げる賛歌が書かれていて、その中の「プルシャ賛歌」にヴァルナを表現する記述があります。
プルシャとは、万物の元となる原人を意味する言葉です。神々が祭祀(さいし)のためにプルシャを殺したところ、口からバラモン(司祭)・腕からクシャトリア(王侯・士族)・腿(もも)からヴァイシャ(庶民)・足からシュードラ(隷属民)が生まれたといいます。
他宗教とカースト制度
紀元前5世紀頃、カースト制度を否定する思想を持った宗教がいくつか生まれます。その代表的なものが、クシャトリア出身のゴータマが開いた「仏教」です。
15世紀末にはイスラム教が普及し、ヒンズー教と併存するようになります。このときもカースト制度を批判し、人々は平等であるとする思想や宗教が新しく生まれています。
ただし、いずれの思想や宗教も、インド社会とは相容(あいい)れず、ヒンズー教に基づくカースト制度が廃止されることはありませんでした。
イギリスによる植民地化時代
19世紀の中頃から、インドではイギリスによる植民地化が始まります。イギリスはこのとき、インド国内に存在する宗教的・身分的な対立関係を利用して分割統治を行いました。
宗教的対立とは、ヒンズー教とイスラム教のことです。身分的な対立は、異なる身分や不可触民との対立を指します。こうしたイギリスの政策が100年近く続いたために、カースト制度は従来よりも不合理で強固なものになったともいわれています。
カースト制度は、現在も残っている?
インドでは、現在もカースト制度が残っているのでしょうか。イギリスの支配から独立した後の様子を見ていきましょう。
カーストによる差別は禁止されている
1947年、インドはイギリスからの独立を果たし、1950年には憲法を制定します。憲法ではカーストに基づく差別の禁止と、不可触民制の廃止が規定されました。
ただし、憲法の規定は「差別をなくす」ことが目的で、カースト制度そのものは習慣として残っています。下位の身分に対する差別も根強く、特に元不可触民は社会的にも経済的にも、大変厳しい状況に置かれているのが現状です。
なおインド政府は、元不可触民救済のため、大学入試や公務員採用に優先枠を設けるなどの対策をとっています。一方では、優先枠のおかげで上位カーストに属する人が希望する大学に入れないといった、逆差別問題も起きているようです。
インドにおいて、本当の意味で差別がなくなり、皆が「平等」を感じる時代はもう少し先になるかもしれません。
世界の制度や考え方に触れてみよう
身分制度自体は特に珍しいものではなく、かつての日本にもありました。しかし近代化を経て、日本を含む多くの国では「人は皆平等」とする考え方に変わっています。
一方で、インドのように特有の制度や考え方が根強く残っている国や地域もあります。この機会に、親子でさまざまな国の状況に触れてみると、よい勉強になるでしょう。
構成・文/HugKum編集部