『聊斎志異(りょうさいしい)』の妖しい魅力。キツネ、幽霊、妖怪が登場する中国の有名古典小説とは【大人の教養】

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『聊斎志異(りょうさいしい)』とは、中国の清代の前期に描かれた短編小説集。キツネや幽霊、妖怪、美しい女性などが登場する、不思議な魅力に包まれた、中国の古典小説のなかでも有名な作品です。そんな『聊斎志異』は、いつ、だれが作ったものなのでしょうか? 代表的な物語とあらすじをご紹介します。

『聊斎志異』とは?

『聊斎志異(りょうさいしい)』は、およそ500話にも及ぶ短編小説集で、18世紀の初めころに作られました。中国の古典小説のなかでも、最高峰のひとつと言われる『聊斎志異』は、だれが、いつ作ったのでしょうか?

中国の蒲松齢の作品(作者情報)

『聊斎志異』を書いたのは、蒲松齢(ほ しょうれい)という作家。中国の清の時代の作家です。作者が生存していたときから評判を呼んでいましたが、作者の死後約50年たってから、刊行されたと言われています。

国: 中国
作者:蒲松齢
発表年:1670年頃

聊斎志異
『聊斎志異』は、中国の清の時代につくられた作品です。

蒲松齢ってどんな人?

『聊斎志異』の作者である蒲松齢は、1640年に中国の現在の山東省で生まれました。生涯を通して、塾の講師として生計を立てていましたが、20歳から小説の執筆を開始。通りを通った人を呼び止めては、さまざまな話を聞いて、気に入るものがあればそれをもとにストーリーを作っていたと言われています。

蒲松齢が40歳になる頃には、400以上もの話を集めた『聊斎志異』が完成。その後も、死の直前まで仲間の文人の助けを借りながら、執筆を行っていたそうです。

いつの時代の話?

蒲松齢が生きていたのは、清の時代。清は、1616年に満州に建国され、1644年から1912年まで続いた王朝です。そんな時代に人々の間で語られた物語などが描かれているのです。しかも、民話をそのまままとめたのではなく、キツネ、鬼(幽霊)、化け物などが頻繁に登場し、特異な物語として描かれているのが『聊斎志異』の特徴です。

『聊斎志異』の代表的な物語とあらすじ

『聊斎志異 : 和訳』王政の章 大正8年/玄文社. 国立国会図書館デジタルコレクション

500近くになる短編小説を集めた『聊斎志異』の中から、代表的な物語とそのあらすじをご紹介しましょう。

王成

旧家の子どもである王成は、怠け者で妻と貧しい生活を送っていました。あるとき、かんざしを拾った王成。そこにはある印がついていました。すると、そこにある女が現れて、そのかんざしについて聞いてきたのです。実はこの女はキツネで、その結果お金を取られたり、不運が続いてしまうことに……。

瞳人語(どうじんご)

女性が大好きなある男性が主人公。彼は、里帰りしていた若くて美しい既婚女性を見つけ、その後を追いかけていました。すると土を投げられてしまい、それによって失明してしまうのです。すると、その後、目の下のほうから小さな声が聞こえてくるではありませんか。なんと目の中に、小さな小人が住みついていたのです……。

香玉

ある日、主人公が窓から外を見ていると、白い服を着た女性が花の間を歩いていることに気づきました。すぐに外に出てみたのですが、女性は消えてしまっていました。同じようなことが続くので、今度は茂みのなかで女性を待っていました。すると、女性は赤い服を着た女性と一緒に現れました。これは、白い牡丹と赤い椿の精霊だったようなのです……。

阿繊

旅する商人があるとき、雨に見舞われてしまいました。そこで宿までたどり着けずにいたため、ある家に泊めてもらうことになりました。その家には美しい娘がいて、そのまま娘と結婚する話に。しかし、幸せな生活は続きませんでした。その理由は、その娘の正体に関連していたのです……。

五通

五通は人に憑いて悪さをする神。例えば、女性に憑くと、その女性は数日は寝込んでしまうのです。そんな五通を、勇敢な男性が追い出す物語です。

璉瑣

主人公が引っ越しを行うと、その引っ越し先は古いお墓の近くでした。ある夜、風の音に交じって詩をよむ声が聞こえてきます。そのうち、詩にあわせて一緒に読むうちに、その声の主である女性と親しくなっていきます。しかし、その女性の本性は、恐ろしい鬼だったのです……。

江城

江城という女性と幼馴染だった主人公。大きくなって再会すると、江城はすっかり美しい娘になっていました。江城の家は貧しかったため2人の結婚は周囲から反対されるのですが、2人はめでたく結婚することに。しかし江城は強い女性で、主人公をすっかり尻に敷いてしまうのです。

聊斎志異が読み継がれている理由

刊行から200年以上も経っているのに、中国古典の代表作のひとつとして、世界中に翻訳されているという『聊斎志異』。その魅力は何なのでしょうか?

聊斎志異が読み継がれている理由
聊斎志異が読み継がれている理由とは

不思議な怪異譚

『聊斎志異』は、怪異譚(かいいたん)のひとつと表現されます。怪異譚とは、現実にはない、不思議な物語のこと。キツネ、幽霊、妖怪、美女などがよく登場し、優れた表現力でそれらが描かれています。人間の世界とあの世が交錯するような不思議な世界に引き込まれていきます。

さまざまな外国語に翻訳されている

『聊斎志異』は、日本語をはじめさまざまな外国語に翻訳され、世界中で読まれている作品です。中国の清の時代背景にひきこまれながら、不思議な怪奇の世界に魅了される人がきっと多いのでしょう。

映画・ドラマ化

『聊斎志異』は、映画やドラマの作品にもなっています。1987年公開の『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』は、『聊斎志異』の一説を原作として作られました。それ以外にも、ドラマなどにもなっています。

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人間世界を皮肉に批判

キツネや幽霊、美女などが出てくる不思議な『聊斎志異』のストーリーを通して、作者の蒲松齢は、封建社会の科挙制度を批判していると言われています。

科挙制度とは、清の時代に行われていた高級国家公務員資格の試験制度。蒲松齢は科挙の試験を受けたものの合格できなかったことで、それらに対する満たされない心があったのかもしれません。また人間世界にある冷酷な面などを皮肉っている部分もあります。

名作「聊斎志異」を読むなら

『聊斎志異』に興味を持ったら、一度手に取って読んでみてはいかがでしょう? 全集を読まなくても、人気の話を集めたものなどもあります。

『聊斎志異(上)』

「耳の中の小人ー耳中人」「宿屋の怪ー尸変」「壁画の天女ー画壁」など、92編を選んで新訳した一冊。怪奇の世界と人間の世界を交錯しながら、人間性を表現しています。

『完訳聊斎志異 第1巻』

大正8年に刊行された際の柴田天馬による翻訳の『完訳聊斎志異』。全12巻あるうちの第1巻で、最終巻の巻末には訳者の解説もついています。

『聊斎志異 和訳』

『聊斎志異』の中からとくに面白い35編を選び和訳。中国語の原文を残しながら、独特のルビづかいで読ませる内容で、原文の雰囲気も味わえます。現代風の装丁からも物語の妖しい魅力が。

幽霊や妖怪も出てくる『聊斎志異』

『聊斎志異』は清の時代にできた中国の古典文学で、今でもドラマや映画などになっている有名な作品のひとつです。キツネ、幽霊、妖怪、美女などが出てきて、人間と妖怪の交流なども描かれるとても不思議な物語です。500近くある話はどれも短編小説なので、気になったものを読んでみてもいいでしょう。

作者の手法と巧みな構成で、独特な世界に引き込まれていくこの作品。中国や歴史に興味のある方はもちろん、怪奇物語として現代でも楽しめる小説集ですから、ぜひ手に取ってみてはいかがですか?

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文・構成/HugKum編集部

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