ラーメン店の行列に「〇名お待ちです」とは言わない。そのワケは?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

ラーメン店の行列に「〇名お待ちです」とは言わないワケ

人の数を表すとき、「~人(にん)」と言ったり「~名(めい)」と言ったりします。何か違いはあるのでしょうか?

個人を 特定できるかできないか

もちろん実質的な数に違いはありません。でも、「~人」と「~名」では、意味のうえで違いがあります。それは、その人たちを個人として特定できない場合は「人」、個人として特定できる場合は「名」を使うということです。

たとえばラーメン店で順番待ちをしている人は個人として特定できませんから、「10人」のように「人」を使います。

これに対して、参加者や出席者、名簿に記載されている人の数を数える際には「名」を使います。「名」の方が「人」よりも丁寧な言い方になると考えていいでしょう。

名前を書いて待つ場合は、「〇名」を使うほうが〇

これをラーメン屋さんで順番待ちをしている人で考えてみます。店の人に「お名前を書いてお待ちください」と言われることがあると思います。このような場合は、店の人は客の名前がある程度特定できるわけです。従って、客に聞こえるときは、「お待ちは○人(様)です」ではなく「お待ちは○名(様)です」と言った方がいいわけです。

ただ、その使い分けは、そうしなければいけないという決まりがあるわけではありません。あくまでも習慣的なものです。

そのため時と場合によって、あるいは人によって、適宜使い分けがなされているようです。たとえば、新聞では「人間は『人』で数える。『名』は使わない」(共同通信『記者ハンドブック』第14版)としています。

新聞記事では敬意を込めて書くということは、おそらくほとんどないでしょうから「人」に統一しても問題はないのです。

でも、一般には個人を特定できるかどうかで、「人」と「名」を使い分けるといいと思います。

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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