日本語と中国語では反対の意味の「愛人」
日本語で「愛人」というと、普通は夫や妻以外の性愛関係のある異性のことを指します。
でも、中国では「愛人」は別の意味で使われているのです。何かというと、夫、妻、配偶者のことです。
ただ、中国語の「愛人」は中華人民共和国成立後に定着した語のようで、台湾では使われず、大陸でも「太太」「先生」などという言い方もあります(中国語の漢字は正しくは簡体字。以下同じ)。
同じ表記なのに、意味が違うなんておもしろいと思いませんか。「愛人」もそうですが、中国語の「先生」も人の夫や自分の夫に対して使うことがあるというのですから、日本語とずいぶん違います。
ちなみに日本で言う「愛人」は、中国語では「情婦」「情夫」「第三者」「情人」などと言います。
「愛人」はいつから使われた?きっかけは、西郷隆盛
ところで、日本ではいつ頃から「愛人」を夫や妻以外の愛している異性の意味で使うようになったのでしょうか。
そもそも「愛人」は人を愛することという意味の語です。
西郷隆盛の座右の銘として知られる「敬天愛人(けいてんあいじん)」の「愛人」もこの意味です。「敬天愛人」は天をおそれうやまい、人を愛することという意味です。この場合の「人」は異性のことではなく人間一般=人間愛を指します。
西郷のことばとして知られていますが、実際には西郷のことばではなく、幕末・明治の啓蒙思想家で教育家だった中村正直(まさなお)が1868年に『敬天愛人説』を著わしてから知られるようになったようです。
この人を愛する意味の「愛人」が、ほぼ同時期に英語のhoney, lover などの翻訳語としても使われるようになります。そして、第二次世界大戦後に「情婦」「情夫」の婉曲的表現として新聞や雑誌などで用いられるようになり、今のような意味が一般に広まったと考えられています。
類語の「情婦」「情夫」「間男」
ただ、「情婦」「情夫」も比較的新しい語です。これらの語は中国語と同じですね。日本ではさらに古くは、相手が女性の場合「忍妻(しのびづま)」、男性の場合「忍び夫(つま)」「密夫(みっぷ)」「間男(まおとこ)」などという語もありました。
いずれにしましても、今回の話はことばの知識だけにとどめておいた方が無難なようです。