「他の国にはない」こども家庭庁を設立したい
2023年4月1日に発足した、こども家庭庁の生みの親といえば、野田聖子議員。きっかけはどんなことだったのでしょうか。
HugKum編集部:こども家庭庁ができるまでを教えてください。
野田議員:始まりは37歳の時、私は、独身で当然子どももいないときです。
それでも、日本の国会で初めてできた「少子化対策推進関係閣僚会議」のメンバーになったことがきっかけで、少子化について勉強会を立ち上げたんです。
少子化対策は、まず役所や法律などの「受け皿」が必要だと感じた
野田議員:約一年弱、少子化対策推進関係閣僚会議の正規メンバーとして議論に加わっていたものの、なかなか思うような活動ができず、次の仕事として少子化対策を優先的にやらねば、と思いました。そこで、まずは専一の受け皿となる場所をつくろうと考えたんです。
HugKum編集部:専一の受け皿とは?
野田議員:日本では、見えると割とスムーズに事が運ぶことが多いんですよね。役所があるとか、法律があるとか。
そういった見える受け皿があると、進行が変わるということを政治家になって知り、20年ほど前から、仲間たちと少子化対策の見える化に力を入れ出しました。
総裁選挙に出たのは、総理総裁になりたいからではなかった
野田議員:また、こども家庭庁を設立するには権力も必要だと思ったため、総裁選にも立候補しました。ありがたいことに、総理にならなくても十数年を経て、ようやく子どものための役所「こども家庭庁」を設立することができました。
やっとできたからこそ、充実した内容になったと思います。
HugKum編集部:ここまでくるのに最も大変だったこともお聞きしていいですか?
野田議員:「だから女の議員はな」という意見ですかね(苦笑)。おじ様方は、「国会議員は、領土のこと、戦闘機のこと、大企業とのつながり」などが立派だと勘違いしている人が多くて……。私が20年前に子ども一途な政策を打ち出すと「やっぱり女はそんなことしか言えないのか」と片付けられました。
でも、ほら、ようやく少子化対策がいかに大事なことかと気付いたではないですか。
こども家庭庁の「こども」がひらがな表記、「家庭」が入っているワケは
こども家庭庁は、はじめは「子ども庁」と言う仮名称、そこから「子ども家庭庁」と家庭が追加され、さらに子どもが「こども」とひらがなになって、「こども家庭庁」と最終的になりましたよね。
HugKum編集部:なぜ、こども家庭庁の“こども”はひらがなにされたのでしょうか。
野田議員:今までの子ども政策や子育て支援は、「見える子ども」を育てることでした。でも、こども家庭庁では、子どもが見える前の結婚支援から始めたいと思ったんですよ。
こども家庭庁は、単に、子どものお世話をするだけではなく、人口減少の傾向を回復させていくという大きなミッションがあります。
そこで、結婚のサポートから行うことで、実は目には見えない子ども支援にも繋がっていると考えたんですよね。この表を見てください。私が作りました。結婚支援から、18歳以降までフォローしていく体制です。
未婚の親はだらしないという固定観念
野田議員:なぜ出産前から支援が始まるかと言うと、G7先進7か国の中で、LGBTQだけではなく法律婚をしないと、子どもが産みづらい国って日本だけなんです。
日本国民の意識の中には、どうも未婚の親はだらしないという固定観念があります。実際、中絶の理由の中にも「経済的なこと」と「結婚していないから」ということが多いんですよね。
そんな状況を少しでも減らすべく、未婚でも出産できるよう相談にのったり、お子さんを待っている人にきちんと責任をもってお世話していくなど、命を大事にするということをこども家庭庁でプラットフォームにしていきたいという思いがあります。
野田議員:こども家庭庁領域と、子育て支援は厚生労働省と内閣府、幼稚園は文部科学省、認定こども園は内閣府。これを合体させて、最終的には一つにしようと思っています。
幼児教育は、こども家庭庁に集合
子ども中心に考え、標準的なコンテンツを合わせて義務教育になった時にみんなが同じところからスタートできるよう、幼児教育に向けた環境づくりもします。
そして幼児教育に関することは、厚生労働省や文部科学省からこども家庭庁に集合させていきます。
環境づくりということで目指すのは、事件事故に巻き込まれやすい未就学児、未就園児全員がバーチャルであれ、どこかの園に属するということです。
まずは包括的にレベルを合わせて、小学1年生では一斉にスタートが切れるようにすることがこども家庭庁のミッションになります。
こども家庭庁に「家庭」がある理由
こども庁ではなく、こども家庭庁と「家庭」を入れたのは、どんな意味合いがあるのでしょう。家庭も全部見るよということでしょうか。
野田議員:その通りです。血が繋がってない家族も家庭があるし、新しい家庭をいろんなところにつくっていきたいなというのが私の想いです。私自身も卵子提供で出産していることから、子どもとは血が繋がっていません。けれど、家庭を営んでいるわけですし、その私が言うんだから間違いないでしょう?
▼野田議員の卵子提供での出産、子育てについてはこちらを。
こども家庭庁の将来は、子どもの社会保障をも変える!
今まで社会保障はおじいちゃん、おばあちゃんのために用意されているだけでしたが、子どもの支援もやりますと、野田議員は言います。しかし、そこには大きな落とし穴もあるそうです。
野田議員:障がい児は入っていなかったんですよね。子どもは厚生労働省や文部科学省にいたのに障がい児は別のところにあったのが原因です。これからは障がい児を知ることでSDGsや多様性がわかり、健常者の意識も高まるはず。
今まで分断されていた障がい児も、こども家庭庁に入れることでサポートが充実できる、そして親も力を抜いて育てられるような社会にしたい!
これは、障がい児の母であり、こども家庭庁の生みの親である私の気持ちです。
よこしまな気持ちはなし
最後に取材をさせていただいた応接室に飾られていた、書が気になり質問を。
野田議員に伺うと「これは、思(おも)い邪(よこしま)なし、と読み、まさに私の事だなと思って飾っています。私が邪なら、もっと出世していたと思うから(笑)」
笑顔と実直さで野田議員の一挙手一投足に目が離せなく、お話を聞いていてとても楽しかったです。ここまでに、たくさんの苦労があったと思いますが、ご自身がワーママだからこそ、女性や子どもに対する優しい気持ちも伝わってきました。これから出産を考えている人や、現在育児に悩んでいる人は、こども家庭庁があってよかった!と感じてもらえることでしょう。それがきっと野田議員が最も嬉しいことなのではと思いました。
取材・文/森岡陽子・HugKum編集部 撮影/五十嵐美弥