ゲーテの「ファウスト」はまるでSF映画? 難解なイメージもある本作のあらすじや登場人物を解説【親子で学ぶ世界名作】

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ドイツの大文豪・ゲーテの代表作とされる長編の戯曲『ファウスト』。タイトルや登場人物の名前は知っていても、作品の内容までは詳しく知らない方は多いのではないでしょうか。本記事では、『ファウスト』が書かれた背景やあらすじ、読む際におすすめの書籍等をご紹介していきます。
<上画像:ゲーテ(左)、『ファウスト』第2版の表紙(右)>

「ファウスト」とは

まずは、本作の基本情報をおさえておきましょう。

「ファウスト」の基本情報

『ファウスト』とは、ドイツの作家であるヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe, 1749~1832)によって韻文の形式で書かれた長編戯曲です。二部構成で、第一部は1808年、第二部は1833年に発表されました。

ドイツの文豪ゲーテはどんな人?

70歳のゲーテの肖像[画:ジョセフ・カール・シュティーラー] Wikimedia Commons(PD)

ゲーテはヴァイマール公国の宮廷顧問として公務を務める一方で、数多くの文学作品を生んだドイツを代表する作家です。主な作品としては、『ファウスト』のほか、『若きウェルテルの悩み』『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』『ヘルマンとドロテーア』などが挙げられます。

文学のみならず、法学や光学、植物学、地学、解剖学などの分野でも、自然科学者として成果を残しています。

ファウスト博士の伝説とは?

本作『ファウスト』は、15世紀から16世紀ごろに実在したといわれるヨハン・ゲオルク・ファウスト(ファウスト博士)に関する、当時のドイツに広く伝わっていた伝説をベースに書かれました。

その伝説とは、錬金術師・黒魔術師であると噂された学者・ファウスト博士が悪魔と契約し、最後には魂を奪われ体をばらばらにされてしまったというもの。実際に、ファウスト博士という人物は、占星術や錬金術に精通しており、実験中の爆発によって体が四散して亡くなったと言われています。

1587年に民衆本として『実伝ファウスト博士(作者不詳)』が書かれたことで広く知られ、ゲーテ以外にも様々な劇作家や小説家によって文学・劇作品の題材とされました。

あらすじ

ドラクロワ画のファウスト Wikimedia Commons(PD)

ここでは『ファウスト』のあらすじを押さえておきましょう。比較的詳しいあらすじと、簡単なあらすじの2種類にまとめました。

【第一部】

メフィストフェレスとの出会い

あらゆる知識を極めたいと願った老学者・ファウストは、哲学・法学・医学・神学の4つの学問を極めますが、自分の知識欲求を満たしきれず、人間の有限性に絶望し、自らの命を絶とうとしていました。

そこへ降り立ったのが、悪魔のメフィストフェレス。メフィストフェレスは、死後に魂を受け渡すことと引き換えにこの世では召使いのように仕え、すべての願いを叶えることをファウストに提案します。ファウストはその提案を承諾し、「時よとまれ 汝は美しい」という言葉を口にすれば、メフィストフェレスに魂を捧げるという契約をしました。

グレートヒェンとの恋と別れ

ファウストはまず、メフィストフェレスの力によって20代の姿となりました。若返ったと同時に様々な享楽にふけったファウストは、グレートヒェンという女性と出会って恋に落ちます。

しかしながら、ファウストと会うために、彼女は誤って母に致死量の睡眠薬を飲ませて死なせてしまい、ファウストとメフィストフェレスもまた、決闘の末にグレートヒェンの兄を殺害。グレートヒェンは次第に心を病んでいきます。

さらには、グレートヒェンはファウストの不在の間に産まれた彼の子どもを沼に沈めた罪によって、投獄された末に死んでしまいました。

第二部

ヘレネーとの新たな恋

絶望していたファウストは、アルプスの豊かな自然に癒されて活力を戻し、メフィストフェレスの力を借りてローマ皇帝に取り入ります。国家の経済再建に尽力する中で、「ギリシャ神話のパレスとヘレネーが見たい」という皇帝の要望にメフィストフェレスの力を使って応えますが、ファウストは古代のギリシャから時空を超えて喚び出したヘレネーの美貌に魅了されてしまいました。

ファウストはかつての弟子であったヴァーグナーが錬金術によって作り出したホムンクルス(人造人間)を伴って、古代のギリシャへ旅立ってヘレネーと結ばれます。

相次ぐ悲劇…

しかしながら、古代のギリシャでファウストとヘレネーの間に生まれた息子は、向こう見ずな性格によって崖から転落して死んでしまいます。

悲しみとともに現実の世界へと戻ったファウストでしたが、今度はメフィストフェレスの力を借りて戦争に勝利し、広大な領地を得ます。

その領地に理想の国家を作るべく、海を埋め立てる事業にのりだすファウスト。しかし、地元の老夫婦を誤って死なせてしまった報いとして、「憂い」の霊によって盲目にされてしまいます。

ついに呟かれた「時よとまれ  汝は美しい」

メフィストフェレスは手下にファウストの墓穴を掘らせます。自分の墓穴とは知らず、穴を掘る音を聞いた盲目のファウストは、自分の土地の造成が進む音と聞き誤って自分が目指す国家の完成を予感しました。そんな幸福と充実感に包まれた彼は、ついに「時よとまれ  汝は美しい」と呟きます。

誓約に従ってメフィストフェレスはファウストの魂を奪おうとしますが、その時、天上から天使が降り立ちます。かつての恋人・グレートヒェンの祈りによって、ファウストの魂は救済されるのでした。

あらすじを簡単にまとめると…

老学者のファウストは、この世でのすべての願いを叶えてもらう代わりに死後に魂を渡すという契約を、悪魔・メフィストフェレスと交わします。悪魔の力によって若返ったファウストは、グレートヒェンとヘレネーという2人の女性と恋に落ちたり、国家の経済再建に尽力したり、戦争に勝利したりしますが、悪魔の策略や不運によって悲劇が相次ぎます。ファウストが死んでしまうと、その魂を奪おうとする悪魔。しかしながら、かつての恋人・グレートヒェンの祈りによって、天から天使が降りてきてファウストの魂は救済されました。

「ファウスト」の主な登場人物

ここでは、本作の登場人物をおさらいしておきましょう。

ファウスト

主人公。人間の有限性に絶望を覚えて自殺しようとしていた老学者。メフィストフェレスと契約し、若返る。

メフィストフェレス

ファウストを誘惑する悪魔。願いを叶える代わりに、ファウストの死後の魂を手に入れる契約をする。

グレートヒェン

若返ったファウストが恋に落ちるクリスチャンの女性。

ヘレネー

ギリシャ神話の世界の美女。

「ファウスト」の魅力とは

200年もの間名作として愛され続ける一方で、「難しい」「苦手」と疎まれることもある本作。スケールが壮大で大筋を掴みにくいところもありますが、じっくり読んでみると、名作といわれる理由がだんだん分かってくるはず。

ここでは、そんな『ファウスト』の魅力を考察してみました。

SF映画のようなあらすじ

上の章でご紹介したように、『ファウスト』の大筋自体は意外と単純明快です。さらに、悪魔との契約や、時空を超えたキャラクターの登場、時空を超えた旅あり、錬金術や戦闘もあり! あらすじそのものはSF映画のように面白く、読者を惹きつけます。

身につまされる名言も多数

本作の要となる「時よとまれ  汝は美しい」のほか、ゲーテによる名言が多い点も本作の魅力です。

「お前の本当の腹底から出たものでなければ、人を心から動かすことはできない」「今この時間を大切にせよ。勇気を持って行動してこそ才能と力と魔法が生まれる」等々、現代の私たちの胸にも響く言葉が登場します。

キリスト教の教えに基づいた慈愛ある結末

悪魔と契約をしてまで若返って恋愛をしたり、戦争に勝って領土を手に入れたりするファウストは、業の深い人物と言えるのではないでしょうか。

しかしながら、そんなファウストにも最後には救いの手が差し伸べられます。どんな人にも神の救いはあるという、キリスト教の教えに基づいた慈愛にあふれた結末もまた、本作が名作とされる理由のひとつでないでしょうか。

「ファウスト」を読むなら

最後に、『ファウスト』を読む際におすすめの書籍をご紹介します。

新訳決定版 ファウスト 第一部 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ G 1-1)

比較的翻訳が新しくてとっつきやすい言葉で書かれた新訳決定版の『ファウスト』。「難しい」と言われがちな『ファウスト』ですが、「これは読みやすい」と好評の一冊です。巻末の丁寧な解説も勉強になります。

ファウスト(上)― 森鴎外全集11 (ちくま文庫)

日本の文豪・森鴎外によって翻訳されたバージョン。全編にわたって可憐で美しい、森鴎外ならではの文章で綴られており、近代文学のファンなら読んでおいて損はありません。青空文庫での配信もあります。

ファウスト (まんがで読破)

難しそうでなかなか気が進まないという方には、世界の名作を漫画でわかりやすく描いた「まんがで読破」シリーズの『ファウスト』がおすすめ。原作は長編ですが、この一冊ならサクッと読んで、大筋を把握することができます。

大筋を掴んでから読むととっつきやすい? コミカライズ版もおすすめ

今回は、ゲーテによる長編戯曲『ファウスト』の基本情報やあらすじ、おすすめ書籍をご紹介してきました。

難解なイメージを抱かれやすい一方で、あらすじ自体はSF映画のように刺激的な本作。大筋を掴んでから読むと、よりとっつきやすくなるかもしれません。まずはコミカライズされたバージョンから手に取ってみるのもアリではないでしょうか。

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文・構成/羽吹理美

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