甲状腺の病気は女性に多い
「甲状腺」と聞いて、それがどこにあるのか、どんな働きをしているのかすぐに答えられる人は少ないのではないでしょうか。甲状腺の病気は女性の患者が多く、その症状から更年期の不調と間違えられることも多いといわれています。
そこで今回は、甲状腺の専門病院である名古屋甲状腺診療所の大江秀美院長に、甲状腺について、そして疾患があった場合の具体的な症状について伺いました。
更年期かと思ったら「甲状腺ホルモン」の分泌異常だったということも
そもそも甲状腺はどこにあり、どんな働きをしているのでしょうか?
大江先生:知らない方も多いかもしれませんが、甲状腺は首の下の方にあり、蝶々が羽を広げたような形をした臓器です。縦は4cmほど、重さは20g以下です。甲状腺は体の代謝を高める「甲状腺ホルモン」を作る働きがあります。
甲状腺ホルモンの分泌に異常があると、どんな症状が起こるのでしょうか?
大江先生:甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を上げ、様々な体の働きや成長を促進するもので、分泌が過剰になると動悸や頻脈、多汗、息切れや微熱といった症状が起こりやすくなります。
反対に甲状腺ホルモンが足りなくなると、心拍数は少なくなり、疲れやむくみなどの症状が現れます。様々な臓器の働きも悪くなるので食事があまり食べられなくなったり、便秘になったりしやすくなります。
このような病気は女性に多く、特に20~40代の方、次に50代に多いです。
・甲状腺ホルモンの分泌が過剰・・・動悸・頻脈・汗をかきやすい・微熱・暑がり・下痢・手の震え・食欲亢進・体重減少など
・甲状腺ホルモンの分泌が少ない・・・倦怠感・むくみ・寒気・冷え・汗をかきにくい・物忘れ・食欲低下・体重増加など
このような症状が更年期と似ているといわれるのですね。
大江先生:更年期の不調では、多汗やのぼせ、動悸などに加え、冷えや便秘などありとあらゆる症状が現れます。
これらの症状が甲状腺ホルモンの変動が起こった時の症状に近いため、「更年期かと思っていたら、甲状腺ホルモンの異常が原因だった」という人も少なくありません。
どちらが原因の不調なのか、症状を見分ける方法はありますか?
大江先生:甲状腺ホルモンの分泌が過剰になった時の症状と不足になった時の症状は、基本的には相反する症状が現れますが、更年期の不調では、どちらの症状(例えば冷えとのぼせなど)も現れることがあります。甲状腺の問題か更年期の不調か迷う場合は、甲状腺ホルモンの検査をしてみることをおすすめします。
また、甲状腺に異常があると、写真のように甲状腺が腫れることもあります。この写真以上に大きくなり、誰が見ても首の辺りが腫れていることがわかる人もいますが、反対にまったく腫れないという人もいます。
不調を感じたら、まずは血液検査でホルモン値をチェック
甲状腺ホルモンの分泌が正常かどうかは、どのように調べるのでしょうか?
大江先生:血液検査で調べられます。専門病院でなくても血液検査は可能ですので、かかりつけ医に相談してみてください。もし数値に異常があれば、専門病院でさらに詳しく検査することになります。
ホルモン分泌が異常だった場合は、どんな治療をするのでしょうか?
大江先生:基本的には投薬治療になります。ホルモンが低下している場合は、その分を薬で補充していくことになります。改善すれば薬なしでも生活できるようになりますが、一生涯にわたって薬を飲み続けることもあります。ただ、薬を飲んでホルモン分泌が正常に保てれば、体も元気でいられますから日常生活の制限などは特にありません。
甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる病気の代表である「バセドウ病」の場合は、投薬治療以外にもアイソトープという放射線治療や手術が必要になることもあります。
やはり、異常がある場合は早めに専門医にたどりつくことが大切ですね。
大江先生:そうなんです。体に表れている症状だけで見ると、更年期症状と似ていて紛らわしい点もあります。「こんな不調で病院に行ってもいいのかな」と躊躇せず、ちょっと気になる症状があったら、血液検査を受けて異常がないかどうか確認することが早い手立てかなと思います。健康診断や人間ドックの血液検査で甲状腺の検査を追加できることも多いです。
「甲状腺はあまりよく知られていないので、怖い病気と思われるかもしれませんが、適切に治療すれば不調が改善されて健康な人と同じ生活を送ることができます。」という大江先生。気になる症状がある場合は、早めに検査を受けてみてください。