なぜ、イスラエルは強硬姿勢を貫くのか?長期化、激化するガザ地区への攻撃、その理由とは?【親子で語る国際問題】

世界で起こっている問題を、家庭内で子どもたちと一緒に学んでいきましょう。この連載では国際政治学者の国際政治先生が、いま知っておくべき国際問題を分かりやすく解説していきます。今回は、「なぜイスラエルは強硬姿勢を貫くのか?」について取り上げます。

ハマスVSイスラエルの抗戦は長期化、ガザ地区への攻撃が激しさを増している

パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが10月7日、イスラエル領内に向けて数千発のロケット弾を発射して以降、イスラエルはガザ地区への空爆を強化しています。既に1か月以上が経過し、パレスチナ側の犠牲者数は1万人を超え、増加の一途を辿っています。

今回の緊張の発端はハマス側による攻撃ですが、イスラエルの行動は既に自衛権の範囲を超えて過剰なものになっており、諸外国ではイスラエルへの批判が強まっています。

そして、それにも関わらずイスラエル支持の姿勢を貫く米国への不満もアラブ諸国を中心に拡がっています。

米国もハマス壊滅のための軍事行動は支持するものの、民間人の犠牲を避けるようイスラエルに求めていますが、イスラエルが攻撃を弱める気配は見えません。では、なぜイスラエルはここまでもして強硬姿勢を貫くのでしょうか。

地政学的な問題が大きく影響

その背景には、長年イスラエルが置かれる地政学的環境があります。

イスラエルの建国は1948年ですが、それ以降今日に至るまでイスラエルは周辺のアラブ諸国と4回にもわたって戦争を繰り返してきました。イスラエルの建国以前、そこに住んでいたのはパレスチナ人で、ヨルダン川西岸地区やガザ地区に追い込まれたパレスチナ人からすると、イスラエルは自らの領土を奪った存在です。その中からパレスチナの領土をイスラエルから奪い返すため台頭したのが、ハマスなのです。

イスラエルの周辺には多くの脅威がひしめく

そして、今日でもイスラエルはガザ地区を拠点とするハマスやイスラム聖戦などの過激組織の他、イスラエル北部と接するレバノン南部ではイランの支援を受ける武装勢力ヒズボラが断続的にイスラエル領内への攻撃を繰り返し、隣国シリアではイスラエルと犬猿の仲であるイランが影響力を強めています。

そういった反イスラエル勢力をけん制するため、イスラエル軍もレバノンやシリアに空爆を行うなどしており、要は、イスラエルにとっては自らを脅かす存在が目の前にあり、常に警戒しているのです。こういった地政学的な環境が、イスラエルの強硬姿勢の背景にあります。

ハマスからの襲撃を防止できなかったことからネタニヤフ政権への不満が強まる

また、今回のハマスによる襲撃を未然に防止できなかったという反省もあるでしょう。世界的に見てもイスラエルの情報機関は優秀ですが、今回の襲撃については事前にエジプトから襲撃に関する情報を提供されていたにも関わらず、十分な対応ができませんでした。

今日のネタニヤフ政権にとってこれは極めて大きい汚点となり、国民からなぜ防止できなかったのかとネタニヤフ政権への不満も強まっています。ネタニヤフ政権からすると、こういった失敗は二度と繰り返してはならないと危機感を抱くようになり、これがハマスやパレスチナ側への過剰な軍事行動を誘発していると言えます。

ここまで空爆を強化した以上、イスラエルとしても妥協することはできなくなってきています。

ハマスも完全に破壊されたわけではなく、イスラエルもここで攻勢を弱めたらハマスが組織を再生しかねない、またイスラエル周辺で活動する武装勢力が活動を活発化させる恐れがあると考えていることでしょう。イスラエルによる攻撃はハマスの組織的解体、崩壊が見えてくるまで続くと思われます。

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ポイント解説

強硬姿勢を貫かざるを得ない大きな原因

ハマス他周辺諸国との軋轢

・イスラエルは1948年に建国されたが、その後4回にもわたってアラブ諸国と戦争をしてきた。

・イスラエルはパレスチナの領土を奪う形で建国された。

・ガザ地区を拠点とする反イスラエル勢力の侵攻 イランの影響力への懸念から 常に警戒する必要がある。

記事執筆:国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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