仕上げ磨きの目的
子どもが小さくて自分で歯磨きできない年齢はもちろんのこと、幼児期を経て小学校に入り、自分で歯磨きできるようになっても、十分に口の中をキレイにすることは難しいです。ですから、虫歯予防のためには親の仕上げ磨きが不可欠だと言えるでしょう。
ここで、仕上げ磨きの効果についていくつか挙げてみます。
- 子どもだけで落とし切れない歯垢(プラーク)を落とすことができる。
- 子どもに正しい歯磨きを教えることができる。
- 歯磨き習慣を身に付けることができる。
- 子どもの虫歯や口腔内のトラブル(歯ぐきの炎症や口内炎など)を早期に発見できる。
- 親子のスキンシップの良い機会になる。
これらの利点があるほか、乳歯や萠出したばかりの永久歯(幼若永久歯)は歯質が柔らかくて虫歯になりやすいので、虫歯を未然に防ぐために親がしっかり磨いてあげることは大切なのです。
仕上げ磨きの実施状況と効果
2021年に日本歯科大学東京短大の志水遥佳氏らが報告した研究では、3~5歳の子どもを持つ歯科衛生士でない保護者56人を対象として、仕上げ磨きについて調査しました。
その結果、98.2%の保護者が仕上げ磨きを実施しており、「毎回」が42.9%、「1日に1回程度」が51.8%になるなど、高い頻度で行っていることが明らかになりました(図1)。
また、仕上げ磨きを行うのは「母親」が94.6%を占め、母親が中心であることも判明しました(図2)。
近年、仕上げ磨きをする親の増加に伴い、子どもの虫歯罹患率は年々減少する傾向にあります。
1993年には過半数の子どもに虫歯がありましたが(6歳:88.4%、12歳:20.3%)、2022年には6歳で30.8%、12歳で7.1%となり、大きく減少しました。
虫歯予防意識の向上や、ご両親の毎日の仕上げ磨きの成果が着実に実っていると言っても過言ではないでしょう。
仕上げ磨きを卒業する時期の目安
日本小児歯科学会の資料によると、第一大臼歯(6歳臼歯)を自分で磨けるようになる8~10歳頃までは仕上げ磨きが必要、だとしています。
しかし、実際にはもう少し高年齢(12歳前後)まで仕上げ磨きをしたほうが安全です。
その理由として、8~10歳というのはちょうど乳歯から永久歯に生えかわる時期の真っ最中ですから、歯磨きをするのが非常に難しい、言い換えれば虫歯リスクが高まる時期でもあるからです。
これに関連して、小学生に対する仕上げ磨きに焦点を当てた研究報告を紹介しましょう。
2009年に群馬県で矢島正榮氏らが実施した調査では、小学1~6年生の保護者245人を対象に仕上げ磨きの実施についてアンケートを行いました。
その結果、仕上げ磨きを「全くしない」割合が大きく増える4年生で仕上げ磨きと虫歯の有無に関連性が認められ(図3)、保護者の認識と実際の子どもの歯磨き技術の習熟度の間にズレがあることが推察されました。
ですから、実際には子どもの歯磨き技術がまだ不十分なのに、「子どもが一人で歯磨きできるから」と親が一方的に思い込んで、仕上げ磨きをやめてしまっているという実態があるのです。
仕上げ磨きをやめるための条件とは?
ではここで、仕上げ磨きを卒業し、子ども自身が歯磨きを自立するために必要な条件をまとめてみましょう。
1. 乳歯がすべて抜け終わって、第二大臼歯がほぼ生え切っていること
先述したように、乳歯と永久歯という大きさの異なる歯が混在する時期(混合歯列期)は段差ができやすくて歯磨きが困難ですが、無事に乗り切ってすべて永久歯になれば歯磨きをしやすくなります。
しかし、その頃はちょうど「12歳臼歯」と呼ばれる第二大臼歯が一番奥に生えてくる年齢と重なります。
歯の生え始めは「萌出性歯肉炎」といって一時的に歯ぐきが腫れたりして炎症が起きやすいため(関連記事)、歯磨きをしにくくなる可能性があります。
ですから、完全とは言わないまでも、第二大臼歯が半分以上生えて歯ぐきが安定するまでは、親の仕上げ磨きはしたほうが安心だと言えるでしょう。
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2. 子ども自身が歯磨きの大切さを十分に理解していること
虫歯予防に歯磨きが大切なのは何となく分かっていても、それを実際に子ども自身が実行できるかどうか、しっかりと目的意識を持って歯磨きできるかどうかで、歯の仕上がりは違ってきます。
歯磨きを怠れば虫歯になって美味しく食事ができなくなり、栄養バランスの乱れから成長や健康に悪い影響が出る可能性がある――この一連の流れを子どもが十分に理解し、歯磨きに対するモチベーションを高めておくことが大切です。
「これからは親に頼らず、自分で責任を持って歯をキレイにする」という自覚を芽生えさせて、子どもの自立を促しましょう。
3. 子ども自身で正しい歯磨きができること
奥歯の溝や歯と歯の間など、虫歯になりやすい部位をしっかり磨くことができるかどうか、が大切です。
子どもが自分できちんと歯を磨き、磨き残しがないなら仕上げ磨きは必要ありません。しかし、中学生になっても磨き残しがあるようなら、仕上げ磨きをしたほうが安心です。
仕上げ磨きの注意点など
子どもの仕上げ磨きをする前に、親自身が自分の歯の清掃・管理をしっかりできているかどうかを確認してください。子どもがきちんと歯磨きできているかを見極めるのも親の役割ですから、まずこれが大前提になります。
親の口に多数の虫歯があったり、歯ぐきが腫れ気味で歯周病が進行したりしているなら、歯磨きに問題がある可能性があります。子どもの仕上げ磨きをする前に正しい歯磨き法について、歯科医院などでアドバイスを受けましょう。
一方、口を触られるのを嫌がって口も開けてくれない子どももいますし、なかなか仕上げ磨きができなくて困ってる方も少なくないと思います。もし、そのような場合には無理矢理するようなことは控えてください。歯磨き嫌いになってしまう可能性があります。
少しでも痛みを感じると拒否反応が強くなりますので、例えば歯ぐきが赤くなって炎症が起きている部位には歯ブラシを強く当てないようにするなど、極力痛みを感じさせないように優しく仕上げ磨きしましょう。
もし、子どもが仕上げ磨きを嫌がらないなら、12歳より大きくなっても、歯の裏側のような歯ブラシが届きにくい所など、口の中の環境をチェックする意味で仕上げ磨きを続けるという選択肢もありますが、子どもの自立を促す意味で、中学生になったら自ら進んで歯科医院へ定期健診に通う習慣を持たせることも大切です。
歯磨きの自立は大人への第一歩。子どもの歯磨きを温かく見守りながら、やんわりと背中を押してあげてくださいね。
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記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・厚生労働省:歯科疾患実態調査(1993年,2022年).
・志水遥佳ほか:保護者の口腔衛生に関する知識と子どもの歯科保健行動との関連ー歯科衛生士有資格保護者と一般保護者の知識の違いが幼児期の子どもに及ぼす影響ー.日本口腔保健学雑誌11(1);103-109,2021.
・矢島正榮ほか:A村小学生の歯科保健に関する実態ー保護者の意識と行動ー.Paz-bulletin 12. 3-13, 2012.
・日本小児歯科学会:「家族みんなで歯みがき習慣」リーフレット2.