子どもの歯科矯正「それでもやるべき理由」と「やるべき時期」。治療過程の詳細を歯科医が解説

歯並びを整えることのメリットについてはわかっていても、いざ我が子に歯科矯正を、という場合、何歳から始めるのがいいのか悩みますよね。また年齢によってできる治療内容が違うのも知っておきたいところ。
そこで、歯学博士で現役の歯科医でもある島谷浩幸さんに、歯科矯正を行う場合の適正年齢、年齢別の治療内容などについて解説していただきました。

歯科矯正をやるべき理由

目元、口元という言葉の表現があるように、口周りの雰囲気は顔の印象に与える大切な要素です。特に歯の存在が重要なのは言うまでもなく、「白い歯がこぼれる笑顔」は清潔で健康的なイメージを与えますよね。

このように歯は顔の見た目に大きな役割を果たしますが、歯並びや噛み合わせに問題があれば活用したいのが歯科矯正です。しかし、歯科矯正は治療期間が長く治療費も高いイメージがあるなど、ハードルの高い治療法だと感じる方も少なくないと思います。

では、実際に子どもに歯科矯正を受けさせた親がどのような理由で治療を決心したか、その詳細について調べたアンケート調査を紹介しましょう。

2017年、歯医者の検索サイト「EPARK歯科」を運営する()エンパワーヘルスケアは、EPARK歯科の利用者を対象に矯正歯科治療に関するアンケート調査を実施しました。

その結果、小児矯正を決断した理由として、「子どもの健康面」45.0%で最多となり、見た目に関係するような「歯並びが悪い26.7%、「子どものコンプレックス25.0%に対して大きく差をつけました(図1)。

図1. 小児矯正を決断した理由 ※対象人数:60人(複数回答あり、一部改変)

つまり、見た目よりも健康面を親は重視して歯科矯正を決断したことが分かります。

確かに、整った歯並びや噛み合わせは見た目にも好印象を与えますが、食事を噛む咀嚼や嚥下(飲み込み)がスムーズになると、良好な食生活から子どもの健全な成長・発育を促します。さらに滑舌よく発声できるので、友だちとのコミュニケーションにも良い影響を与えます。

歯並びは外見以外にも、多くの影響をもたらす

このように歯科矯正は様々な利点があるので、ぜひ活用したい治療法です。しかし、歯科矯正には欠点もあります。

治療期間が長い。

成長に合わせて治療するので年単位に及びます。子どもも親も根気が必要です。

治療費が高い。

公的医療保険の対象とならない場合が大半で、自費診療が中心です。

虫歯リスクが上がる。

矯正装置には複雑な構造のものがあり、しかも取り外せないタイプの装置は歯磨きを妨げます。親による仕上げ磨きも大切です。

子どものストレスになる。

慣れない矯正装置は子どものストレスになることがあります。

これらの利点や欠点を十分に考慮した上で、歯科矯正をするかどうかを決断しましょう。

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 歯科矯正をやるべき時期

一概には言えませんが、矯正治療は顎の成長が終わった成人前から始めるより、子どもの頃から始めたほうがよいと言われます。

2022年に公表された厚生労働省の調査によると、歯科矯正を受ける患者は1014歳の年代が最も多く、上位3年代を20歳未満が占めました(図2)。

図2.歯科矯正の年代別患者数

歯科矯正は小児が中心で、成人は少ないことがうかがえます。顎の成長が終わるのは個人差はありますが、男児で18歳前後、女児で15歳前後です。

小児矯正は成長期に顎骨の形や大きさを整える1期治療と、永久歯が生え揃ってから歯を移動させて歯並びや噛み合わせを整える2期治療に大別されます

1期治療

1期治療は「歯並びを改善する治療」というよりも、顎のバランスを整える「土台作り」が中心です。乳歯が生え揃う3歳頃から始めることが可能ですが、通常は永久歯が生え始める6歳頃から生え揃う12歳頃までに行います。

永久歯の生え揃っていない1期治療では骨も柔軟なため、簡単で負担・不快感の少ない装置で骨格の適切な成長にアプローチでき、成長を利用して骨の形成に働きかけます。あわせて指しゃぶりや舌を出す癖など、顎の発育に悪影響を与える習慣も正しながら、健やかな成長を促します。

顎の骨格の矯正がメインなので、取り外し式の床(しょう)矯正装置やマウスピースの使用が中心となります。子どもの成長に合わせて装置を調整・交換しながら顎の成長を導きます。

顎を広げて歯が並ぶスペースをととのえる「床矯正」
顎の成長を促して歯が並ぶスペースをととのえる「床矯正」

ただ、床矯正は歯科医師の指示通りに装着時間や使い方を守らないと治療効果が出ないだけでなく、装着を怠ると装置のフィット感の悪化や痛みにつながります。装置の作り直しや治療期間の延長により、結果的に治療費がかさんでしまう場合もあります。

永久歯が生え揃う土台がきちんと整えば、正しい位置に永久歯が生えやすくなり、大人になって抜歯や外科矯正治療をする必要性が低くなります。

1期治療で永久歯がきれいに並べば治療は完了ですが、理想的な歯並びや噛み合わせにするのは2期治療からです。ご家族や本人が納得すれば2期治療が不要なこともあります。

なお、3歳児検診などで反対咬合(受け口)を指摘されたら、速やかに矯正歯科を受診しましょう。骨格に問題のある反対咬合は幼少期から治療を始めた方が骨の成長をコントロールしやすく、効果が上がりやすいからです。骨格に問題がなければ簡便な装置で噛み合わせを改善できる場合もあります。

2期治療

2期治療の目的は大人の歯科矯正と同じく、「歯並びを整えて噛み合わせを改善すること」です。子どもの場合、永久歯が生え揃い、顎の成長が完了した時期以降に開始します。

永久歯が生え揃うのは第二大臼歯(いわゆる12歳臼歯)が萌出する頃、つまり小学校高学年から中学生(1214歳)で、2期治療はそれ以降に始めるのが一般的です。

治療法は、成人矯正治療と同じくマルチブラケット矯正が中心となります。歯の1本ずつにブラケットという留め具を付け、そこに通したワイヤーの力により歯を動かして歯並びや噛み合わせを改善します。

ブラケットによる矯正の一例

大人の矯正と同様、銀色の金属製ワイヤーを使う場合や目立ちにくいホワイトワイヤー、歯の裏側に装置を装着する裏側矯正などもあります。また、取り外し式のマウスピース矯正もありますが、大きな歯の移動には限界があります。

ここで注意したいのは、2期治療では永久歯が揃い、顎の成長もある程度進んでいるため骨格の改善が難しいということです。場合によっては抜歯をして歯を移動させるためのスペースを作ったり、反対咬合(受け口)では外科矯正により顎骨を切断して長さを変える手術をしたりする必要があります。

また、歯のサイズや生える位置が原因で歯並びが乱れる「叢生(乱ぐい歯)」では1期に床装置で顎のアーチを広げて歯が並ぶスペースを作ったり、2期治療(成人矯正)で抜歯やディスキングによりスペースを確保したりしますが、骨格的な問題がなければあえて1期治療は行わず、タイミングを見て2期治療から開始する場合もあります。年齢とともに顎骨が大きくなれば、自然と不具合が解消されることがあるからです。

個々のケースに合わせて、さまざまな矯正方法を採用・組み合わせて治療する。
個々のケースに合わせて、さまざまな矯正方法を採用、組み合わせて治療する。

 良い矯正歯科を見つけるコツ

矯正歯科治療は非常に専門性が高く、豊富な専門知識と高度な治療技術が不可欠です。しかし、歯科医師なら誰でも「矯正歯科」という標榜を看板やホームページに記載できます。つまり、その歯科医院の専門性に関係なく「矯正歯科」と標榜できることが医療法という法律で定められており、看板だけでその歯医者に歯科矯正の技量があるか否かは判断できません。

ですから、日本矯正歯科学会の認定医や臨床指導医などの適切で信頼できる資格を持っているかどうかを、事前にホームページなどで確認することが大切です。

では最後に、日本臨床矯正歯科医会が提言する医院選びの6つのポイントを紹介しましょう。以下をご参考にして頂き、安心して頼れる矯正歯科で治療を受けるようにしてくださいね。

①頭部X線規格写真(セファロ)検査をしている。

②精密検査を実施し、分析・診断した上で治療をしている。

③治療計画・治療費用について詳細に説明している。

④治療前に治療中の転医(治療中にやむを得ず診療所を替えること)や治療費清算の説明をしている。

⑤常勤の矯正歯科医がいる。

⑥専門知識のある歯科衛生士、スタッフがいる。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

参考資料:
・エンパワーヘルスケア株式会社:EPARK歯科の利用した、3歳以上の子を持つ20歳以上の男女によるアンケート調査,(2017年3月16日~3月31日実施)
・厚生労働省:令和2年患者調査
・日本臨床矯正歯科医会:安心して治療を受けていただくための6つの指針.2015.

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