「自分には価値がない」は誰かに吹き込まれた言葉ーー惑わされずそれぞれの幸せの形を見つけた「セクシー田中さん」最終回レビュー【連載第10回】

木南晴夏主演ドラマ「セクシー田中さん」最終回となる第10話が放送。毎回放送されるたびにリアルな台詞が大きな反響を呼んできましたが、最終回もこれまでに繰り返し語られてきた名台詞や味わい深い言葉のオンパレードとなりました!

女性の幸せの価値観をいろんな世代から問うドラマ

「セクシー田中さん」10話 ©日本テレビ

会社ではAIのごとく淡々と仕事をこなす地味なOL、でも夜になれば、ド派手メイクのベリーダンサー「Sali」に大変身するという「セクシー田中さん」(TVerにて最新話無料配信中、Huluにて全話配信中)。遂に迎えた最終回では、田中さん(木南晴夏)、朱里(生見愛瑠)をはじめとするレギュラー陣がすべて登場し、非常に見応えのある回となりました。

本ドラマで綴られたのは、令和を生きる我々の心に響くリアルや恋愛観や結婚観、そして人生観。それを20代からシニア世代まで様々な登場人物たちを通して、生々しい台詞として届けることで、視聴者の方々もあまり普段は考えない「自分の幸せ」について、思いを馳せた瞬間があったかもしれません。

令和5 年、多様性が叫ばれる中、人が願う幸せは、きっと人ぞれぞれに違うはず。大切なことは、背筋を伸ばして前へ進むことだなと、私自身もこのドラマに教えてもらった気がします。もはや幸せは他力本願で手に入れるのではなく、自分が動いてつかみとることが大事なんだなと実感しました。

きっと「セクシー田中さん」ロスの方も多いかと思いますが、惜しまれながら迎えた最終回を振り返っておきましょう。

背筋を伸ばし、夢へと羽ばたく田中さんたち

「セクシー田中さん」10話 ©日本テレビ

フィナーレとなる第10話では、なんと田中さんがちょっぴり“背筋が曲がった状態”で登場。すなわち大ピンチからの幕開けとなりました。どうやら“本命”だったはずの三好(安田顕)からいきなりキスを迫られ、思わず逃げてしまったようで、今や自分の気持ちがわからなくなってしまった田中さん。

©芦原妃名子/小学館

え、なぜ!? 田中さんは、あんなに三好のことが好きだったはずなのに! もちろん田中さんだけではなく、拒絶された三好自身も戸惑ったようです。

一方、見合い相手のふみか(朝倉あき)との交際が一見、順調そうな笙野(毎熊克哉)ですが、今ひとつ田中さんへの想いにふんぎりがつけられない様子。そんな中で「Sabalan」を訪れた笙野は、三好に自分の本音を打ち明けます。それは、無難な人生を送る自分には、自由でパワフルに生きる田中さんよりも、ふみかのような結婚相手のほうがハマる気がするという笙野らしい古風な考え方でした。

「セクシー田中さん」10話 ©日本テレビ

でも、そんな笙野に対して、人生経験が豊富な三好は「みんなそれぞれ誰かの人生にハマるなんてくるしいよ」とアドバイス。また、田中さんにふられたことを笙野に告げた三好は「みんな案外自分で自分の気持ちなんてわからないんだよ。コントロールできない。気持ちも感情も。明日、何が起こるのかなんてわからないけど、ワクワクしない? 無難な人生なんて僕は存在しないと思うけど」とアドバイス。

最終回にて、人間としての懐の大きさを見せた三好。確かにそのとおりで、どんな人生においても、自分が動かないと何も始まりません。そしてどうやらこの言葉は、迷える笙野の心に、一筋の光を差し込めたようです。

一方、心がくすぶっていて、ベリーダンスにも身が入らなくなってしまった田中さん。帰国した愛子(未唯mie)やMiki先生(高橋メアリージュン)からもそのことを指摘されますが、田中さん自身は、今のダメな自分をどう打開すればいいのか、わからない様子。

©芦原妃名子/小学館

でも、今の田中さんには、困った時にSOSを発信できる大切な友人・朱里という存在がいます。以前、田中さんに背筋を伸ばすことの大切さを教えてもらった朱里。今度は自分がそのお返しをしようと、田中さんを励ますべく、いろんなところに彼女を連れ出します。

朱里と田中さんが大笑いのスケートデートを楽しみます。そんな中で朱里は「ずっと自信がなかった」「真っすぐ自分を見るのが嫌だった」…と、今までの自分を振り返ります。そのうちに「なんで皆は自分には大した価値がないとすぐに思っちゃうんだろう?誰に吹き込まれたんだろう」と、自信をなくさせていたのが自分自身だったと気づき、これから新しい一歩を踏み出そうとするシーンが描かれました。そして見事、田中さんも朱里からエネルギーチャージをしてもらい復活!

朱里はメイクの仕事に生きがいを見い出し、そして、田中さん自身もダンス留学することを決めました。2人ともきちんと背筋を伸ばし、夢へと邁進していくようでとても頼もしい。

予定調和じゃない最終回だからこそ心に染みるそれぞれの門出

「セクシー田中さん」10話 ©日本テレビ

最終回というのは、いろんな人間関係を丸くおさめて一件落着となることも多いですが、「セクシー田中さん」は、敢えてそうしなかった点が、実にリアルだなと思いました。笙野がふみかとの交際を白紙に戻したり、笙野の母親が夫に熟年離婚について切り込んで大喧嘩したり、朱里にプロポーズした小西が「即OK」をもらえなかったりしたことは、とても自然な流れだなと思いました。

それらの決断は、みんながそれぞれ、自分の幸せは何か?ときちんと向き合った上で出した答えです。そこまでの過程が丁寧に紡がれていたからこそ、すんなりといろんな人々を応援したくなったのではないかと。また、朱里が田中さんに、そして田中さんが笙野の母に教えた、毎日小さな幸せを積み重ねることの尊さも、劇中でリピートされました。

「セクシー田中さん」10話 ©日本テレビ

言われてみれば本当にそのとおりで、映画のようなドラマチックな展開はそうそう起こらないけれども、日常を探せば、自分を笑顔にできる要素はたくさんあります。また、人と人との出会いは、本当に人生そのものを豊かにしてくれる宝物だなと再確認しました。

残念ながら、ドラマは終わってしまいましたが、田中さんたちがくれた素敵な言葉たちは、自分自身の心にもモをして残しておきたいです。

最後に「セクシー田中さん」本当にすてきなドラマでした!心からありがとうございます!

セクシー田中さん

TVerにて最新話無料配信中、Huluにて全話配信中

 

原作コミック「セクシー田中さん」は今なら期間限定まるごと試し読みも!

原作: 芦原妃名子
1~7集発売中|定価550円(税込)

姉系プチコミックで連載中
優秀な経理部員だけどアラフォー地味女の田中さん。婚活に励む23歳OL・朱里は最近そんな田中さんが気になって仕方ない…そしてついに、その素顔
はまさかのセクシー○○○〇であることを発見!すっかり田中さんのファンになってしまった朱里は、婚活そっちのけで田中さんの追っかけと化すが…!?
朱里の腐れ縁男・進吾や、婚活相手のこじらせ男・笙野、チャラすぎる既婚者・三好…秘密を抱えた田中さんを巡り、5人の「いい大人」がすれ違いまくりの恋を繰り広げる、新境地ドラマです!

文/山崎伸子

編集部おすすめ

関連記事