歯周病は遺伝する? 家庭内の受動喫煙もリスクに? 親から子へ受け継がれる【歯周病】に関する疑問を歯科医師が解説

「そういえば、私の親も歯周病でポロポロ歯が抜け落ちて、総入れ歯を使っていました」入れ歯の治療で来院される患者さんの中にはそう言って、「自分は入れ歯になる家系だ」と信じている方がいます。では、本当に歯周病になりやすい家系はあるのでしょうか?  今回は、歯周病に関する親の影響について、遺伝や生活習慣など様々な観点から論じます。執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

歯周病は生活習慣病の一つ

歯周病は文字通り、歯の周りの病気。歯の周囲にある歯ぐきや歯を支える骨(歯槽骨)などが歯周病菌やその毒素によって起きた炎症により破壊される病気です。

歯ぐきの腫れ・出血や口臭の要因になるほか、進行すれば歯がグラグラして最終的には抜け落ちてしまいます。

日本人の40歳以上で実に8割を超える人が罹患する、言わば国民病ですが、10歳代、20歳代の若年者でも珍しくはありません。

主な原因が歯周病菌による感染症ですので、虫歯菌による虫歯と同様、遺伝はしません(後述する一部の遺伝性疾患を除く)。

厚生労働省の疾患分類によると、歯周病は高血圧症や糖尿病などとともに「生活習慣病」の一つに挙げられていることからも、歯周病は生まれつきな(遺伝的な)要因よりも生まれてからの歯磨き習慣、食生活、生活習慣などの影響を受けやすい疾患であることが分かります。

歯周病を引き起こす、あるいは悪化させる要因として口の中の不衛生や嗜好品(タバコなど)が大きく関わりますから、親にそのような習慣があれば子どもにも少なからず影響は出ることが分かっています。

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タバコに警鐘!受動喫煙でも歯周病リスクが上がる。子どもも要注意

タバコに含まれるニコチン成分は歯ぐきの血管を収縮させて血流を妨げ、歯ぐきの健康を損なうことが明らかにされています。そのため、喫煙者の歯周病患者の割合は高くなっていますが、ニコチンへの依存性は遺伝子が関与することが判明しています。

しかも、喫煙者自身だけでなく、周りの家族などにも受動喫煙で歯周病リスクが上がることが報告されています。

2015年に国立がん研究センターが報告した研究内容によると、秋田県在住の40歳~59歳の男女1164人を対象に喫煙と歯周病の罹患率の関係について、アンケート調査と歯科健診により調べました。

その結果、喫煙者の歯周病リスクは非喫煙者の3.3倍になったのに対し、家庭および家庭外での受動喫煙のある非喫煙者の歯周病リスクは3.6倍となりました(図1)。つまり、喫煙者よりも受動喫煙のある非喫煙者のほうが歯周病リスクが高いことが明らかになったのです。

図1. 受動喫煙と歯周病リスクの関係

一方、男性では受動喫煙と歯周病リスクに相関関係があったのに対し、女性では認められなかったことから、女性はニコチンの影響を受けにくい可能性が示唆されました。

子どもの歯ぐきは大人に比べて組織が未熟でデリケートなため、ニコチンによる悪影響は不可避だと言えるでしょう。ですから、親が喫煙者の場合は家庭内での受動喫煙により子どもの歯周病リスクも上がってしまいますので、喫煙家庭では特に注意が必要です。

遺伝する歯周病もある

歯周病は、細菌等の病原体に対する抵抗力(免疫力)や破壊された組織の回復力が非常に密接に関わりますので、親にこれらの要素があれば、遺伝する可能性はあります。

遺伝が関与する歯周病の例として、症状が急速に進行する劇症型歯周病である「若年型侵襲性歯周炎」があります。これは家系内で発症する頻度が高く、遺伝子疾患と考えられています。

2017年に東京医科歯科大学の和泉雄一教授、田中敏博教授らの研究グループは、この歯周病に罹患している99人の遺伝子のゲノム解析を行い、免疫系で重要な役割を果たすNOD2という遺伝子の変異を同定しました。

歯周病は細菌感染症ですので、細菌に対する抵抗力(免疫力)が弱いと歯周病にかかるリスクは上昇します。ですから、NOD2遺伝子が変異することで免疫バランスが乱れると、侵襲性歯周炎になりやすくなるのです。

これと同様に、生まれつき(遺伝的に)免疫力が弱い先天性免疫不全症などの疾患でも歯周病の罹患率は上がります。

ダウン症候群も歯周病になりやすい

ダウン症候群は21番目の染色体のトリソミー(通常2本あるものが3本ある)が原因で起こる先天性疾患です。およそ700~1000人に1人の割合で出生し、出産年齢が高齢なほど率が上がります。また、心臓疾患などとともに歯周病にもなりやすいことが知られています。

ダウン症患者の90%以上が歯周疾患に罹患すると言われており、永久歯の早期喪失の原因にもなっています。

その理由として、生まれつき免疫力が弱いのに加え、歯の形が特徴的な形態(歯冠が小さく歯根も短い)を示すため(図2)、歯周病が早期発症しやすくて進行も早く、重症化しやすいと言われています。

定期的に歯科医院でチェックや口腔清掃など、必要な処置を受けるようにしましょう。

図2. ダウン症候群に特徴的な歯

体質的な歯周組織の弱さも歯周病に関係

骨を溶かすのは細菌ではない!

虫歯と歯周病はいずれも細菌が原因となる感染症ですが、根本的に大きな違いがあります。それは“細菌が直接的に組織を破壊するかどうか?”という点です。

虫歯では虫歯菌が作った酸が直接作用して歯を溶かしますが、歯周病で歯周組織を破壊するのは細菌でも細菌の毒素でもありません。

歯周病では歯の周りを支える骨(歯槽骨)が吸収されてやせていき、歯がぐらつくようになりますが、骨を溶かすのは「破骨細胞」と呼ばれる私たちヒトの細胞なのです。

細菌や毒素が原因となって炎症が起きると、歯周組織の細胞からケミカルメディエーターという生理活性物質が放出され、それらが破骨細胞を活性化させて骨を吸収します。いったん破壊された骨は周りの炎症が落ち着けばある程度回復することはありますが、完全に元通りに戻ることは通常ありません

特に糖尿病のように感染に弱く組織の治癒力が遅延する病気があれば、歯周病になるリスクは上昇します。

細菌が関与しない歯周炎もある

また、細菌が関与しない炎症も、時には歯ぐきに起きることがあります。

粘膜皮膚病変である扁平苔癬(へんぺいたいせん)尋常性天疱瘡(てんぽうそう)エリテマトーデス等では皮膚だけでなく粘膜にも広範囲に炎症が起きる疾患で、歯ぐきなど歯周組織に発赤やびらん(粘膜の荒れ)が生じたり出血が認められたりします。歯磨きでは歯ぐきに痛みを伴うため、十分な口腔清掃ができないこともあります。

代表的な膠原病である全身性エリテマトーデス(SLE)は複数の遺伝因子と後天的因子の複合によって発症に至る病気で、免疫細胞であるリンパ球が皮膚や粘膜の表皮細胞に対して攻撃して炎症を起こし、歯ぐきなどの歯周組織を破壊するメカニズムです。

ですから、遺伝性、非遺伝性に関わらず炎症が起きやすい体質であれば、さらに歯周病になりやすくなります。

*  *  *

以上より、歯周病は主として細菌感染症でありながら生活習慣病でもある他に類を見ない疾患で、その発症メカニズムは虫歯と比べてもさらに複雑です。しかも、タバコの受動喫煙など家庭環境の影響も受けますので、子どもの歯ぐきの健康を守るために、親自身が健康意識を高めることも大切なのです。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪

参考資料:
・厚生労働省:生活習慣病とは?. e-ヘルスネット.
・Ueno M et al: The association of active and secondhand smoking with oral health in adults: Japan public health center-based study. Tobacco Induced Diseases 13; 19, 2015.
・Izumi Y et al: Association of NOD2 mutations with aggressive periodontitis. Journal of Dental Research Online(2017年7月6日オンライン掲載).
・東京都立心身障害者口腔保健センター:障害のある方の口腔内の特徴を知ろう!~ダウン症の患者さんが来院したら~.センターだより第27号,平成29年10月10日.

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