Quadの意味とは?
ネットや新聞のニュースで、「Quad」という言葉を目にしたことはないでしょうか? 国際的な枠組みの一つで、日本も参加しています。Quadの意味や結成の経緯を見ていきます。
4カ国による戦略対話の通称
Quad(クアッド)とは、日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4カ国による国家間の枠組みです。4カ国が参加することから、「4つで1組の」を意味する英語「Quad」が通称になりました。
各国を漢字表記の一文字で順に表わし、「日米豪印戦略対話(にちべいごういんせんりゃくたいわ)」と訳すのが一般的です。豪はオーストラリア、印はインドを指します。
戦略対話とは、安全保障や経済などの分野で、どう協力するか話し合うことです。
2017年11月からは、局長級協議などが定期的に開かれるようになりました。その後、外相会合や首脳会談も開催されています。
Quadが生まれた経緯
「日本と交流のある国は多いのに、なぜこの4カ国なの?」と疑問に感じた人も多いでしょう。
4カ国の特徴は、「インド洋と太平洋を囲むように位置する大国であること」と「自由・民主主義・法の支配という基本的な価値観を共有している点」です。
つまり、Quadの目的である国際的な安全保障や経済において力を持ち、ある程度共通した立場を取れるということです。
Quad結成のきっかけとなったのは、2004年12月26日に起こった「インドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波」でした。当時、日米豪印はグループを結成し、被災地域への国際的支援を主導します。
その後、安倍晋三(あべしんぞう)元首相が日米豪印4カ国の戦略対話について重要性を訴え、2007年5月に初めて事務レベルの会合が実施されています。
Quadが目指すもの
Quadは、安全保障や経済に関する話し合いの枠組みとして結成されました。具体的には、どのような理念や目標を掲げているのでしょうか?
自由で開かれたインド太平洋の実現
Quadが目指すのは、「自由で開かれたインド太平洋の実現」です。「自由で開かれた」とは、民主主義や法的秩序などに支えられた、平和と安定を意味します。
インド洋と太平洋は今も、テロや大量破壊兵器の拡散、自然災害といった脅威にさらされています。安全面での課題も多く、貿易や航行の自由が妨げられているのが現実です。
Quadは「日米豪印首脳共同声明」の中で、共通の課題に対処し、法に基づく国際秩序を構築することを表明しました。具体的には、サイバーセキュリティー・重要技術・インフラ投資・テロ対策・人道支援などの幅広い分野で連携を強化します。
中国の影響力に対抗する狙いも
Quadは特定の国と対立するための枠組みではありませんが、海洋進出を強める中国をけん制する狙いもあるとみられます。
2013年、中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席は「一帯一路(いったいいちろ)」を打ち出しました。中央アジアを通る陸路(一帯)とインド洋を通る海路(一路)によって、アジアとヨーロッパをつなぐ巨大な経済圏を作る構想です。
この壮大な計画は、「シルクロードの現代版」といわれています。中国は、経済面だけでなく軍事面でもインド洋進出を加速させており、特に中国の隣国であるインドは警戒心を強めています。
Quadは軍事力を拡大する中国を意識しつつ、インド太平洋の経済的繁栄と平和維持を目指したものです。
近年のQuadの取り組み
Quadが結成されて以降、対面やオンラインで首脳会合が開催されています。首脳会合とは、国のトップが集まり、意見交換を行う場です。
近年に開催された会合とその成果を紹介します。
2021年9月Quad首脳会合(ワシントン)
2021年9月のQuad首脳会合は、アメリカのホワイトハウスで開催されました。対面による初の首脳会合で、日本からは菅義偉(すがよしひで)元首相が参加しています。
会合では、新型コロナウイルスや気候変動、重要・新興技術分野などの課題に対し、4カ国が共同で対処する意思が確認されました。環境への負荷が低いクリーンエネルギーや人的交流の分野でも協力体制を強めることで一致しています。
2022年5月Quad首脳会合(東京)
2022年には、3月のQuad首脳テレビ会議に続き、5月に東京の首相官邸で会合が開催されました。岸田文雄(きしだふみお)首相は、ウクライナ情勢を挙げ、武力の行使による一方的な現状変更を生じさせてはならないことを強調しています。
また、新型コロナウイルス対策・5Gテクノロジー開発などにおける取り組みの成果や、ロシアのウクライナ侵攻を巡る人道支援についても協議がされました。
同日には、次世代を担う科学者・技術者の連携を目的とした奨学金制度「クアッド・フェローシップ」の設立を歓迎すると発表しています。
日本とQuadの国々との関係性は?
Quadのメンバーは民主主義国という点では共通していますが、国際的スタンスの異なる点もあります。アメリカ・オーストラリア・インドは、日本とどのような関係があるのでしょうか?
日本とアメリカ
アメリカと日本は、日米安全保障体制(にちべいあんぜんほしょうたいせい)を中心とした日米同盟を結んでいます。日米安全保障体制とは、日本とアジア太平洋地域における平和と安定を目的としたものです。
もし、日本が他国から武力攻撃を受けた場合、米軍と日本の自衛隊は、共同で国を防衛しなければなりません。日米地位協定と呼ばれる取り決めにより、日本は米軍の国内駐留を認めています。
経済面での結び付きも強く、日本にとってアメリカは、主要な貿易相手国の一つです。日本はアメリカに半導体などの製造装置や自動車・自動車部品などを輸出し、アメリカからはエンジン・航空機類・肉類・医薬品などを輸入しています。
2021年と2022年のQuad首脳会合には、第46代大統領のジョー・バイデン大統領が出席しました。
日本とオーストラリア
両国の貿易関係は、日本がオーストラリア産の石炭や羊毛を輸入した1800年代末から始まります。同じ頃、オーストラリアの農業や真珠の採取などに従事するため、多くの日本人が海を渡りました。
現在、日本はオーストラリアから、天然資源や牛肉、乳製品などを輸入しています。観光や留学での人的交流も盛んで、日本語を学ぶ人も多いようです。
オーストラリアは、アメリカと「米豪同盟関係」を締結しており、アメリカの重要なパートナーである日本とも、防衛や安全保障で戦略的なパートナーシップを築いています。
2022年5月のQuad首脳会合には、同年5月に就任したばかりのアンソニー・アルバニージー首相が参加しました。
日本とインド
インドは、人口増加や経済発展が目立つ国の一つです。日本はインドに対して、資金の貸し付けによる経済協力を行い、インフラ整備を支援しています。一方、先進的なIT人材が豊富なインドは、IT化が立ち遅れる日本に対して、デジタル面での協力を行っています。
インドは他の3カ国と異なり、中国との陸上国境を抱える国です。実際に国境地域では、兵士が死亡するほどの衝突も起きています。Quadにインドが加わったのは、中国の領土拡張を抑える狙いがあるとみられています。
2021年と2022年のQuad首脳会合には、2019年5月の総選挙で再選されたナレンドラ・モディ首相が出席しました。
出典:外務省: よくある質問集 北米
オーストラリアと日本|在日オーストラリア大使館
Quadと混同しやすい国際的な枠組み
世界には、政治や経済に関するさまざまな枠組みがあります。Quadと混同しやすいものとして、「AUKUS」「TPP(CPTPP)」を解説します。
AUKUS
AUKUS(オーカス)は、「オーストラリア(Australia)」「イギリス(United Kingdom)」「アメリカ(United States)」の頭文字を取ったものです。
3カ国による軍事面も含めた安全保障の枠組みで、インド太平洋における中国の影響力に対抗する目的があります。
具体的な取り組み例として、2023年3月に、イギリスとアメリカがオーストラリアに原子力潜水艦の配備を支援する計画が発表されています。
TPPとCPTPP
Trans-Pacific Partnershipの略称であるTPP(ティーピーピー)は、日本語で「環太平洋パートナーシップ」または「環太平洋連携協定」と呼ばれます。太平洋を取り巻く国・地域の間で、自由貿易や投資などの共通ルールを作る枠組みのことです。
貿易や投資などの国際的なルールは、「WTO(世界貿易機構)」によって規定されていますが、ルールの決定や変更は加盟国の全会一致が原則です。国の間で意見が分かれると、機能しなくなるケースがあり、TPPのような一部の地域間、または2国間での枠組みが拡大しました。
TPPには日本を含む12カ国が加盟していましたが、2017年1月にアメリカが離脱します。2018年3月に残りの11カ国で「CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)」が締結されています。
出典:本当にわかるTPP~世界とともに生きていくために|経団連
Quadの目的や取り組みを理解しよう
Quadは、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指すための枠組みで、日本を含む4カ国で結成されています。日米豪印には、インド太平洋地域に位置する民主主義国家として、地震や津波による災害支援を主導した実績があり、今後も地域の安定と平和に向けた取り組みが期待されます。
Quadが結成された経緯や取り組み、他の国との関係性などについて、親子で調べたり話し合ったりしてみるのも、よい勉強になるでしょう。
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構成・文/HugKum編集部