「脳波」がもたらす新たな可能性。テクノロジーとの融合は社会を変える?

脳波を測定することで、外からは見えない脳活動の様子を把握できます。近年の技術革新により、脳波を活用した画期的な商品やサービスが生まれているのをご存じでしょうか? 子どもの脳波に関する調査事例やブレインテックの可能性を解説します。

脳波とはどんなもの?

そもそも、脳波とはどのようなものでしょうか? 脳波の正体と種類など、基礎知識をチェックしましょう。

脳の活動で生じる電気信号

脳波の正体は、ニューロンが情報伝達を行うときに生じる電気信号です。ニューロンとは、人間の脳にある無数の神経細胞のことで、「細胞体」「軸索(じくさく)」「樹状突起(じゅじょうとっき)」から成り立っています。

ニューロンの構造。ニューロンとは、脳を構成する神経細胞のこと

私たちが考えたり、体を動かしたりするときは、ニューロンの間で「電気信号」を利用した情報伝達が行われます。「神経伝達物質」とよばれる化学物質を介して、樹状突起に受信された電気信号は、軸索を通ってまた別のニューロンに伝達される仕組みです。

頭皮に電極を取り付けて電気信号を検出し、脳波計で増幅したものが脳波です。脳波測定により、外側から見えない脳の機能や活動状態が分かります。

脳波の測定 Photo by Antoine Lutz, Wikimedia Commons(PD)

脳波の種類

脳波は常に一定ではなく、脳の活動状態によって周波数が変わるのが特徴です。周波数帯の違いで見ると、脳波は以下のように区別されます。

●ベータ波(14~30Hz)
●アルファ波(8~13Hz)
●シータ波(4~7Hz)
●デルタ波(4Hz以下)

「ベータ波」は、目覚めているときの脳波です。思考したり、何かに集中したりしているときに多く見られますが、緊張状態でも20Hz以上のベータ波が生じます。

「アルファ」波は、リラックスをしているときの脳波です。さらにまどろんだ状態になると、「シータ波」に変わります。4Hz以下の「デルタ波」は、主に熟睡中に見られます。

子どもの脳波に関する研究や調査事例

近年は、脳波に関するさまざまな研究が行われており、脳の活動についての新たな事実も判明しています。子どもの脳に関する研究や、調査の事例を紹介しましょう。

新聞を使った知育ゲームで集中力が向上

日本新聞協会は、「しんぶんち(新聞知)ゲーム」が子どもの脳に与える影響を脳波測定によって調査しました。しんぶんちゲームとは、新聞を活用した知育ゲームの一種で、アクション・コミュニケーション・スピードの三つの遊び方があります。

例えば、スピードでは、「お題」の文字や写真を紙面の中から探し、その速さを競います。脳波の測定結果は、ゲーム開始前に比べ、各ゲームで子どもの「集中度」と「興味度」が高くなり、「ストレス度」が低下しました。一部のゲームでは、集中度は20%増加、興味度は30%増加と高い結果が出ています。

触れられる経験が脳の学習機能を促進

京都大学では、「体に触れられながら音声を聞く経験」が、乳児の脳活動にどのような影響を与えるのかを調査しました。対象は生後7カ月の乳児28人で、それぞれの乳児ごとに「体に触れられずに単語を聞く場合」と「体に触れられながら単語を聞く場合」で脳波活動を測定・比較します。

結果、体に触れられながら単語を聞いたほうが脳波活動が高く、中でも「触れられた際によく笑顔を見せた乳児」は、より高い脳波活動を示しました。

このことは、発達初期の乳児には、他者との身体接触によって脳の学習機能が促進される特性があることを示しています。

出典:【調査結果】子どもの脳に良い影響!「おうち学習」にしんぶんちゲーム| 新聞科学研究所
しんぶんの“ワッ!” | 新聞科学研究所
触れて話しかけられた乳児は脳活動が促進される|京都大学の研究(英語)

脳科学とテクノロジー融合の活用事例

近年は、脳科学の知見とテクノロジーを融合させた「ブレインテック」の研究が進んでいます。特に、医療や教育、マーケティングの分野では、これまでになかった画期的な商品やサービスが誕生しています。実用化されれば、人間のパフォーマンスや利便性が大きく向上するでしょう。

医療分野

医療分野では、BMI(Brain Machine Interface)の研究・開発が行われています。脳と機械を直接的に接続する技術で、機能は「脳から機械に情報を送る」「機械から脳に情報を送る」「脳内の情報処理の過程に介入する」に区別されます。

脳から機械に情報を送るタイプのBMIを導入すれば、念じるだけで機械の操作が可能なため、まひや障害で体が動かない人の大きな助けになるでしょう。

AIの導入は脳波を正確に読み取る技術を向上させました。現在、意思疎通やリハビリでの実用化に向けた開発が行われており、安全面での課題がクリアできれば、一般にも広く普及する可能性があります。

教育分野

教育分野では、生徒の脳波を分析する試みが行われています。学習中の生徒の脳波をリアルタイムでモニタリングすれば、集中力が高まる学習環境やより効果的な学習方法が分かるでしょう。この技術を応用すれば、その人に合った学習スタイルの確立に役立ちます。

また、最近の職業適性検査は面談や、紙の試験が主流です。しかし、紙の試験を受けているときの脳波を測定すれば、興味や集中力の度合いなどから、学生本人にも自覚のない職業適性を割り出すサポートができます。

マーケティング分野

マーケティング分野では、脳波や視線の動きを活用した「ニューロマーケティング」が注目されています。従来のアンケート調査や聞き取り調査は、消費者の主観的な意見を拾うのに適していますが、無意識の感情までは分かりません。

ニューロマーケティングを実施すれば、「消費者インサイト」、つまり消費者本人も意識していない感情や動機が可視化されます。例えば、MRI技術によって脳の活動を読むことで、より精度の高いデータが取れます。

消費者インサイトを利用すれば、潜在的なニーズに応じた商品・サービスの提供につながるでしょう。

脳波の活用で社会や暮らしが変わる

脳波とは、脳活動によって生じた微細な電気信号を記録したものです。これまで、脳波の測定や解析はあまり身近なものではありませんでしたが、技術革新に伴い、研究や開発がスピードアップしています。

脳波の調査結果からは、知育ゲームや身体接触を伴う関わりが子どもの脳活動に影響を与えることが判明しています。

今後は、脳科学とデジタル技術を融合させた画期的な商品・サービスが多く生み出されるでしょう。脳波の活用によって、社会や暮らしが大きく変わることが予想できます。

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構成・文/HugKum編集部

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