〝共同養育〟に向けてクリアすべきポイントとは。「共同養育」支援団体・りむすび代表のしばはしさんのQ&Aから見えてくること

離婚後、両親双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入を柱とした民法改正案が、2024年3月、政府閣議で決定されました。さまざまな意見が論議されていますが、それ以前から「共同養育」に注目し支援してきた「りむすび」代表のしばはし聡子さんの著書から、この問題についてフォーカスしてみました。

離婚をしても一緒に育てる「共同養育」とは?

HugKum」編集部では、以前、離婚後、父親と母親が協力して子どもを育てていく「共同養育」について、離婚家庭の共同養育のサポートを行っている一般社団法人「りむすび」の共同養育コンサルタント・上條まゆみさんのお話をもとに紹介。大きな反響をいただきました。

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日本では明治以来〝単独親権〟制度を導入 欧米を中心とした諸外国では、離婚後、父親と母親が共に子どもに対して親権を持つ〝共同親権〟が多く導入...

そこで、今回は「りむすび」の代表・しばはし聡子さんのご著書『離婚の新常識!わかれてもふたりで子育て』から、実際に「共同養育」を行っていくときにクリアすべきポイントを紹介します。

著者のしばはしさんは、自身も子連れ離婚をされた経験者で、「りむすび」は彼女の経験を活かして別居や離婚をしている家庭の手助けをしたいという思いから設立しています。

「りむすび」代表:しばはし聡子さん(りむすびオフィシャルサイトより)

紹介する著書には、離婚後、彼女が元夫と子どもとの面会交流によって得た体験談をはじめ、「りむすび」を通して目にした多くの離婚家庭の「共同養育」の実例をもとにした‶共同養育を実践するときのコツ〟が簡潔に解説されています。

まずは「離婚をするかどうか」から、自身の心の中を整理する!

しばはしさんの著書(笑がお書房  税込1,450円

しばはしさんの著書によれば、「共同養育」を行うには、まず自分の気持ちだけでなく周りの人の気持ちに寄り添って、また、自分の置かれた状況を把握して、どんな離婚をしたいのか自身の考えを整理しておくことが大切のようです。

著書の中では全6章のうち3章を割いて、「読者がどんな離婚をしたいのか」「読者が抱く離婚後の生活イメージ」を明確にしていくために必要なポイントを解説しています。

考えるべきは、まず「自分の気持ち」(第1章)。そして、「子どもの気持ち」(第2章)と「対立する夫婦の気持ち」(第3章)。著書では章ごとにそれぞれの立場や状況、それに伴う各人の心境を解説した上で、「こうした各人の心境を冷静に見つめ、自分の感情と切り離して行動を起こすことが大切」と説いています。

このとき重要なのは「自分の感情を否定しないこと」。「自分のありのままの気持ちを認めてあげることから作業は始まる」としばはしさんは言います。「人の心は複雑で割り切れないもので、自分自身を認めてあげなければ離婚で押しつぶされてしまうから」と解説しています。

本の冒頭では、離婚をしようとしている読者が悩んだときに知っておきたい相談場所や、これから辿る離婚の流れなども解説されていますが、こうした関連情報をできるだけ集積しておくことも、離婚当事者にとっては重要だと感じました。

しばはしさんは「離婚でただでさえ傷ついている自分の心を外部の正論から守りつつ、そんな気持ちを受け入れる第三者の誰かがいてくれると、共同養育に前向きになれる第一歩になるかもしれません」と言います。

「共同養育」のさまざまなノウハウを知った上で、あなた自身の「共同養育」を実践する

以上のような道のりを経て、自分の置かれた状況や考えがまとまったら、次にすべきは、共同養育へ向けて派生する課題をクリアすることです。

しばはしさんは著書の4章以降から、まずは、「共同養育とはどういったものなのか、共同養育のメリット・デメリット」を解説しています。

また、共同養育をするときに必要なポイントは、「別れた者同士がいい関係を作ること」と力説。そうした関係づくりをするために知っておきたい心構えやコツも多数解説しています。

中でも、私(本記事筆者)がもっとも注目したのは、章の終わりに添えられた「ワンポイントアドバイス」のコーナーです。共同養育をしようとしている当事者が知りたいと思う、リアルで素朴な疑問がQ&A形式で解説されていました。

たとえば、第4章『新常識! 離婚しても育児を分担「共同養育」」では以下の通り。

Q 今まで会わせていなかったので、今更手遅れではないですか?

A 気づいた時が最速。手遅れとは気づいた時にやらないこと。

今まで子どもに父親を合わせていないと、今更父親のことを話題に出すことに躊躇してしまうかもしれません。ただ、子どもは自分から口火を切って父親の話はしてはいけないと思っているでしょう。なぜならあなたが嫌な思いをすると思っているからです。

元夫さんへの連絡手段があるのであれば、まず会ってもらえるように確認し、その後お子さんに伝えてみてはいかがでしょう。「パパが会いたいって言っているよ」と伝えてあげたら戸惑いながらもきっと喜びますよ。パパが会いたいと思っていることもですが、ママからパパの話が出たことも嬉しいのではないでしょうか。

もし、元夫さんと連絡がつかない場合でも、「パパに会えるといいなと思って今連絡先を探しているの」と笑顔で伝えてあげたらいいですね。パパの話をママの前でしていいんだと思えることはお子さんにとって、とても気持ちが楽になるでしょう。その後、パパの話をいろいろしてあげましょう。

そして、これを機に父親を本気で探してお子さんと会えるようにしてあげられると良いですね。生きているからこそ会えるわけですから早いに越したことはありません。

ほかにも、同じ第4章では以下のようなQ&Aが掲載されています。

Q 今まで育児をしてこなかったのにいきなり父親づらしてくるのが嫌でたまらないのです。

A 今までの分も父親として関わってもらう

さらに第6章『共同養育のコツ』では、番外編として父親向けのアドバイスも解説されています。

Q 元妻とのやりとりのコツは?

A 返事はシンプルに「3行ルール」

以上はQ&Aの一部で、かつ見出しだけを紹介したものですが、掲載されている問答はどれもリアルな内容です。

ここに挙げられたような問題を解決していくヒントをたくさん集積しておくことで、これから「共同養育」をしようとしていく人にとっては、大きな支えになると思いました。

「共同養育」は当事者のハートが動けばすぐに実践できる行動です

本の最後に、しばはしさんは以下のような言葉を述べています。

 共同親権は「ハード」いわばしくみです。対して、共同養育は「ハート」心の面です。共同親権にするには法改正など時間もかかりますし自分の意思だけでどうにかできるものではありません。

一方で共同養育を実践するのは自分次第。今日からでもすぐにできること。相手が頑なに嫌がるのだとしたら、共同養育をしてもいい相手になればいいのです。相手が何に不満だったのか、どうしたら前向きになるのか、しくみや正論だけではなく、相手と親同士の関係になっていくために自分と向き合うことで、「ハート」のほうは「ハード」よりも先に実践することができるのです。

ハードとハート、どちらかだけではなく両輪となって、それぞれが推進していくことを願うばかりです。

この原稿を書いている4月1日現在、国会では「共同親権」に向けての民法改正案がまさに審議されている最中。そして、これまでの経緯をみていると、おおむね「共同親権」が認められる方向のようです。

しかし、「共同親権」導入後も「単独親権」を選ぶこともでき、また、現在「単独親権」を選んで離婚している元夫婦の間でも「共同親権」に変更できる可能性が生じるため、「単独親権」と「共同親権」のどちらを選ぶのか、改正民法施工後は、裁判所の態勢整備など多くの課題が生まれそうです。

令和4年(2022)2月に公表された内閣府男女共同参画局が作成したデータ「結婚と家庭をめぐる基礎データ」1.pdf (gender.go.jp)によれば、令和2年(2020)の離婚件数は193万件。そのうち未成年の子どもがいる離婚件数は約11万1千件で、全体の約6割をも占めています。そして、親が離婚した未成年の子は、毎年20万人ずつ生じていると報告されています。

毎年多くの子連れ離婚が派生しているというこのデータを見る限り、民法が改正されて「共同親権」が導入されても、「共同親権」を選ぶ家庭のすべてに十分な公的支援が得られるとは到底思えません。どんな離婚をするかは各家庭の状況や考え方によりますが、もしこれから「共同養育」を考えているのなら、まずはこの本をはじめ、実際のケースを知る人、団体などから情報収集をしてみてはいかがでしょう。なんらかの道筋が見えてくるのではないかと思います。

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この記事で紹介した「りむすび」とは

 一般社団法人 りむすび

協議離婚や子どもとの面会交流サポート・共同養育実践に向けた講座・コミュニティ運営などを行い、講演・執筆による共同養育普及にも尽力。代表は自らの離婚経験から共同養育の必要性を実感している、しばはし聡子。「争うよりも歩み寄り」をモットーに、離婚前の夫婦問題から離婚後の子育てまですべてのサポートを行っている。
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http://www.rimusubi.com/soudankai

構成・文/山津京子

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