親への「くっつき方」には子どもなりのルールが!【子どものアタッチメント(愛着)タイプ】から考える大人ができること

子どものアタッチメントタイプは、「安定型」「不安定型」さらに細分化されるタイプが存在しています。今回は子どものアタッチメントタイプ別に見る子どもの様子や心理について考えていきます。

※ここからは『子どものこころは大人と育つ ~ アタッチメント理論とメンタライジング』(光文社)の一部から引用・再構成しています。

SSP(ストレンジ・シチュエーション法)とアタッチメントタイプの考え方

乳児期のアタッチメントの個人差(タイプ)を調べる手段としては、ストレンジ・シチュエーション法(Strange Situation Procedure:SSP)という、エインズワースたちが考案した方法が有名です。ただし、このSSPを通して調べられるのは、ある子どもが、ある大人との間に、どのようなタイプのアタッチメント関係を持っているのかであり、子ども個人の特徴ではありません。

例えば、母子間のアタッチメントを調べたいときは、子どもと母親が実験的観察の対象となります。父子間について知りたいときは、子どもと父親が観察対象となります。以下の説明では、エインズワースらの実験でアタッチメント対象として検討された母親を例に挙げて説明しますが、父母、他にも祖父母や保育者などが、SSPの対象となりえます。

SSPの対象年齢は、1歳過ぎ頃(12~18カ月頃、大きくても2歳前)で、ある程度、自分で立ったりハイハイをしたりして大人に近づいたり、実験室内に用意されたおもちゃを使って遊んだりすることができる子どもたちです。そして、SSPで使用する実験室は、子どもにとって初めて訪れる見知らぬ場所です。出迎える実験者は、子どもとのふれあいの経験に富み、優しく接しますが、子どもにとっては見知らぬ人です。まさに、新奇(ストレンジ)な状況で行う実験です。

篠原郁子『子どものこころは大人と育つ アタッチメント理論とメンタライジング』(光文社新書)
篠原郁子『子どものこころは大人と育つ アタッチメント理論とメンタライジング』(光文社新書)より。

実験室を訪れた子どもと母親(養育者)、そして実験者は、一連の定められた手続きに沿って過ごします(図5‐1)。まず、親子ペアはしばらく自由に過ごします。実験者からの合図で、母親だけが一度、退室します。実験室では実験者が子どもと一緒に過ごします。やがて母親が部屋に戻ってきます。その後、再び母親が退室します。しばらくして母親が部屋に戻り、子どもと合流します。この一連の手続きでは、実験的に母親と子どもの「分離場面」と「再会場面」を用意し、特にその場面における子どもの行動を観察するのがポイントとなります。

アタッチメントのタイプ

SSPでは、実験対象となるすべての子どもと大人のペアに、同じ手順で同じことを経験してもらいます。しかし、子どもによって示す反応、行動には違いが見られます。その違いは大人にもあり、それぞれの子どもと大人のペアの特徴が表れます。エインズワースたちは子どもの特徴的な違いを大きくA、B、Cという3つのタイプに分類しました。Bタイプからみていきましょう。

篠原郁子『子どものこころは大人と育つ アタッチメント理論とメンタライジング』(光文社新書)
篠原郁子『子どものこころは大人と育つ アタッチメント理論とメンタライジング』(光文社新書)より。イラスト/山本重也

Bタイプ:安定型

その大人との間に安定したアタッチメント関係を形成していると考えられる子どもたちで、安定型とも呼ばれます

このタイプでは、初めて訪れる実験室でも、大人を安心の基地として利用することで落ち着いて過ごし、新しいおもちゃで遊ぶなどの探索行動が見られます。また、子どもは分離場面で相応に嫌がったり悲しんだりして泣き、むずかることはありますが、部屋に一緒にいてくれる実験者による慰めを受け入れたり、一緒に遊ぼうという誘いに応じたりして、待っていることができます。

アタッチメント対象である大人が部屋に帰ってくる再会場面では喜びを表し、近くに歩み寄ったり抱き上げてもらったりして、安心した様子を示します。

Aタイプ:回避型

安定型のBタイプに対して、AタイプとCタイプは共に安定型ではない、「不安定型」と呼ばれます。Aタイプの子どもは、大人が部屋を出ていく分離場面では、もちろんそれに気づいているわけですが、特に大きく泣いたり、大人の後を追ったりはせず、行動としては強い感情的反応は示しません。再会場面においても、ドアが開いて大人が戻ってきたことを認めていますが、大きく喜んだり近寄ったりはしないという感じです。

どちらかというと、大人が何をしていようと、子どもは特段に大きな反応は示さずに、部屋の中で過ごしている、という印象を与える子どもたちです。このアタッチメントタイプは回避型と呼ばれることもあります。

Cタイプ:アンヴィバレント型

このタイプは、Aタイプと対比的で、全体として感情的な反応を大きく示す子どもたちです。新奇な部屋の中では大人にしがみついていて、おもちゃで遊ぶという探索行動はあまり見られません。

分離場面では非常に激しく泣き、大人が部屋から出ていくことに抵抗します。再会場面では、大人にすぐに近寄ろうとし、抱き上げてもらいます。ただ、よく見てみると、子どもは再会を喜ぶだけではなくて、自分を部屋に置いていってしまったこと、待っている間がつらかったことを怒っているようで、機嫌が直るのに時間がかかります。このタイプはアンヴィバレント(両価)型と呼ばれることもあります。

Aタイプは家庭観察では違う結果に

SSPにおいて、子どもによって反応や行動が違うというのは面白い発見ですね。ただ、1歳過ぎの子ども、まだ赤ちゃんと呼んでもいい幼い子どもにとって、知らない場所に連れてこられて、頼みの綱であるアタッチメント対象が部屋から出ていってしまう(しかも2回も!)というのは、かなりの危機を感じる経験ですし、普段とは大きく異なるシチュエーションです。

そこで、エインズワースたちはSSPと並行して家庭観察も行いました。そして、SSPで観察される子どもの様子は、日常の慣れ親しんだ家庭内での様子とは違うことも示しています。

Bタイプ:安定型

Bタイプの子どもは、他のタイプよりも、家庭内で泣いていることが少なく、機嫌よく過ごしています。家庭内で親が部屋を出ていくと後追いをし、多少泣きますが、親が戻ってくると喜びます。家庭内でも親を安心の基地、安全な避難所として信頼し、利用できていると考えられます。また、親が抱っこから子どもを降ろそうとするとき、他のタイプの子どもよりも嫌がりません。抱っこされている間にしっかりと安心感を得ていて、探索活動の準備ができていると考えられます。

Aタイプ:回避型

SSPでのAタイプとCタイプはかなり印象が異なりますが、家庭内での両者は似ています。両タイプともに、Bタイプよりも家庭内で長く泣き、怒っています。

Aタイプの子どもは、家庭では親が部屋を出ていくとよく泣き、よく後追いします。また、抱っこから降ろそうとすると、どのタイプの子どもよりも嫌がります。まだ十分に安心感がない、探索の準備はできていないよ、とでも言いたげです。Aタイプは回避型なんて呼ばれますが、親を回避しているのではなく、分離は嫌ですし、親から安心感を得たいのです。

エインズワースはSSPと家庭での子どもの行動の意味にはつながりがあると指摘しています。Aタイプの子どもはSSPではあまり泣く様子が見えませんが、家庭での行動から、その心ではとても強く親を探しており、近くにいたいと思っていることが分かります。

ただAタイプの場合、親に近接したいけれども、行動として身体的に実際にくっつくことはしたくないという葛藤が強いと考えられます。これまでの日常経験の中で、近接したいときに親から応じてもらえなかったり、逆に親からの関わりが子どもにとって強すぎたりして嫌だった、というように、近接欲求がうまい心地に満たされることが少なかったのでしょう。近接欲求が高まると、同時に、またこの気持ちはうまくなだめてもらえないのだろうなという怒りや、恐れも湧いてきてしまうのでしょうね。

Cタイプ:アンヴィバレント型

一方、Cタイプの子どもは、その大人がちゃんと自分に応じてくれるのか、利用可能であるのかをもっとちゃんと確かめなくては、という不安があるようです。Cタイプは、家庭でもよく泣き、機嫌が悪く、抱っこしても満足げではないし、しかし抱っこを降ろすと嫌がります。もっと大人から関わってほしい、身体的に近くにいたいという気持ちが強く表れています。

SSPのようにアタッチメント欲求が強く活性化される状況ではなおのこと、自分が求めている関わりや近接をちゃんと得られるだろうかと不安になり、強く大人にくっつこうとしているのだと考えられています。

世界でも日本でも、Bタイプが最も多い

SSPは、現在までに世界中で多くの子どもたちを対象に実施されています。各国で行われた測定結果を眺めてみると、どのような国や地域であっても、ABCという各タイプの存在が見いだされています。そして、どの調査結果においても、分布としてはBタイプが最も多く、だいたい6割程度を占める形で認められます。そして、おおまかに4割くらいは不安定型に分類されます

各国や地域には、文化的特徴の違いのみならず、子どもの養育や生活のスタイルにも様々な多様性があるでしょう。にもかかわらず、各タイプが同じくらいの割合で分布しているのは興味深く思われます。文化とアタッチメントに関する研究もたくさんなされています。

日本でも、Bタイプが6割程度であり、不安定型のうちCタイプがやや多いといった特徴が見られています。ただし、日本では1歳の赤ちゃんが親子分離を経験する機会がそもそもあまり多くありません。このため、SSPの分離場面で経験する不安の程度が極度に高く、激しい泣きや抵抗が多く引き出されているのではないかという指摘もあります。

アタッチメントは子どもなりのルール

こうした研究を紹介すると、アタッチメントが「不安定」だと、何か問題があるのではという声が聞こえてきそうです。

「不安定」というネーミングから、否定的な印象が感じられやすいかもしれませんので、少し補足しましょう。

子どもの、健康で適応的な心理社会的発達を考える上では、安定しているかどうか(SSPでいうと安定型か不安定型か)という見方ではなく、一定の方略を持っているか、組織化されているかどうかという視点で理解することが重要です。

組織化されているというのは、その子どもなりに一定のルール(方略)を持って、アタッチメント対象との関係を保ち、その大人を安心の基地、安全な避難所として利用できるという意味です。どんなルールを持つかに違いがあっても、その子どもなりのルールが形成されていて、それを用いることで特定のアタッチメント対象を一定程度、利用することができるなら大丈夫という考え方です。

Bタイプ:安定型

Bタイプ、安定型の子どもにおいては、自分に困ったことや嫌なこと、怖いことがあって、自分が泣いたり近寄ったりしたら、大人は自分を迎え入れて守ってくれるだろう、安心させてくれるだろうという見通しを持っていると考えられます。「自分がこうしたら、相手はこうするだろう」という子どもなりの見通しがあると、不安やストレスを感じる場面でもアタッチメント対象にくっついて、安心・安全をとり戻すことができるでしょう。この見通しと、それに沿った行動パターンというのがルール、方略ですね。

Aタイプ::回避型

Aタイプの子どもは、Bタイプとは違う内容ながら、見通しとルールを持っています。

アタッチメント欲求を一貫して最小化するというルールを使っていて、自分から大人に近づいたり、感情的な表現をあまり示さないと考えられます。というのも、Aタイプの子どもの親は、子どもが泣いたり、後追いをしてきたり、親のまわりにまとわりつくようなことが、ちょっと苦手であるようです。子どもが近づこうとすると、親が不快になって遠くに行ってしまうので、それならばいっそ自分が動かないでいる方がよさそうだ、と子どもは学ぶのかもしれません。

子ども自身がそういうルールで行動している限り、大人が子どもから離れていくことはないということを、子どもは経験を通して学んでいる可能性があります。

Cタイプ:アンヴィバレント型

反対に、Cタイプの子どもは、大人の近くにいたい、離れたくないというアタッチメント欲求を常に最大化して表現するルールを持っています。大人にとっては、よく泣く、いつもくっついてきて困ると感じられる行動かもしれません。ただ、子どもなりのこのルールは、子どもから見ると予想しにくい、反応が時によって違うことがある親への対処法とも考えられます。

子どもは、できるだけ大きく泣いたり、親にくっついてそもそも離れないでいれば、親を安心の基地、安全な避難所としてより確実に利用できると考えているのかもしれません。

個々のタイプの子どもへの大人の関わり方が肝に

子どもは、自分が泣いたり近づいたりする行動をとったときに、その大人がどんなふうに応答してくれるかを観察し、経験しています。そして、大人から思うような反応がうまく得られなかったならば、子どもは方略を練り直し、次善の策をとるようになると考えられています。このぐらい泣いたらどうなるだろう、泣かなかったらどうなるだろう、と試行錯誤をしてみて、何とかうまくいきそうな方略を探していくのでしょうね。

それは、Aタイプにおける、自分が泣かずに動かずにいることで、今の大人との距離を保とうとするルール(低活性方略)であり、Cタイプにおける、できるだけ大きく表現するか、最初から大人とくっついているルール(過活性方略)であろうと考えられます。

わずか1歳の子どもが、親や養育者との間で「次善策」をとっているということを初めて学んだとき、私は言葉にできないくらいの衝撃を受けました。多分それは、赤ちゃんにとってたまたま眼前にいるその大人を自分にひきつけ、活用することで生き伸びるということが、何よりも大きな、まさに生存をかけた命題であるからだろうと思います。大人が子どもにてんてこ舞いになることよりも、赤ちゃんの方がはるかに懸命に、今目の前にいる、い続けてくれる、その大人のもとで生きようとしているということなのだろうと思います。

なお、当然のこととして、一人ひとりの赤ちゃんには、個別に認められる、泣きやすい、機嫌が直りにくい、といった生得的な気質と呼ばれる特徴があります。あるいは、人間の赤ちゃんが持っている、人の顔や声が好き、といった癖もあります。これらは、大人とのやりとりの成立やその内容、質にも影響を与えています。子どもと大人の関係を考える上で、本来、それらを抜きにして考えることはできません。子どもから大人に及ぶ影響も、強く、大きく、豊かにあることは、確認しておきたい点です。

ただ、それでも、ことに幼い赤ちゃんと大人の関係においては、コミュニケーションの成立においても、アタッチメント欲求に応えることについても、現実的に発達が進んでいる大人の側に、子どものためにできることが多くあるでしょう。アタッチメントのタイプ形成には、子ども側が持っている特徴による影響も検討されてきました。それでもなお、そうした個々の特徴を持つ子どもに、どのように応じて関わっているのかという大人の存在が、重視されています

※ここまでは『子どものこころは大人と育つ ~ アタッチメント理論とメンタライジング』(光文社)の一部から引用・再構成しています。

ABCどれにも当てはまらないDタイプ(無秩序・無方向性)や愛着障害については著書をチェック

著・篠原郁子光文社990円(税込)

ジョン・ボウルビィが提唱したアタッチメント(愛着)は母子間の特別な絆と考えられがちだが、実際には子どもにとって重要なすべての大人との間に形成されうる。本書では、子どもが身近な大人との関わりの中でどのように心を育て、生きる力を磨いていくのかを、心で心を思うこと(メンタライジング)をベースにわかりやすく解説する。家庭の養育者や幼児教育・保育、学校の先生はもちろん、子どもたちを愛するすべての大人に読んでほしいアタッチメント理論の新たな入門書。「この本が、子どもの心を思い、子どもに関わる大人の心を思い、そしてあなたの心を思う時の灯になれば幸いです(終章より)。」

 

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