「キャリア形成にはパートナー選びが鍵」共働き・共育てが当たり前のミレニアル世代の本音とは

「夫婦で仕事と家庭のどちらも両立するのは当たり前」そう考えているミレニアル世代だが、どうしたら持続可能なキャリアと家庭を築いていけるのでしょうか。新刊『<共働き・共育て>世代の本音』にそのヒントがありました。キャリアコンサルタントの筆者の視点から、本書の印象的なエピソードを紹介します。

共働きが主流の昨今に、男性、女性、夫婦、上司のそれぞれの立場や状況から、仕事と家庭の両立に関するデータとインタビューで深く切り込み、社会を変えるきっかけとして一石投じている新刊『<共働き・共育て>世代の本音』。本書は、実際に仕事と家庭の両立やキャリア形成での葛藤を経験したデュアルキャリア・カップル※のエピソードが満載です。

※「デュアルキャリア・カップル」とは、本書内において、「それぞれがキャリアを自律的に考えて形成し、仕事においても家庭においても充実した生活を実現する夫婦」と定義されています。

子どもと関わる時間のない“プライベートロス”はいやだ!

女性が結婚・出産などのライフイベントなどで、マミートラックに陥るなどいわゆる「キャリアロス」が社会の問題として認識されてから久しいですが、その逆で、男性の「プライベートロス」も問題になってきています。

※マミートラックとは、産休・育休復帰後、女性社員が比較的軽い業務や補佐的な業務の担当となり、出世コースから外れてしまう状況を指します。

男性育休取得の壁

本書では、妻の里帰り出産の4か月後、母子が自宅に戻るタイミングで育休を取った山田さんの本音が紹介されています。本来は一か月の育休を希望していた山田さんですが、会社都合で2週間になってしまいました。

「育休の期間を考えるときに、昇格に影響するかなということで忖度していました。実績の評価と昇格が明確に紐づけられていなかったので、忖度は働きます。部でも昇格できる人数は決まっているので、『上司に仕えなくては』という気持ちになっていました」 ※本文より抜粋

男性の育休取得は、現在政府の方でも推進の動きがありますが、組織において育休がどう今後のキャリアに影響するか不透明なところも多いです。それは、今まで女性が産休・育休取得でキャリアアップが遅れるという前からあった問題が、男性でも育休を取る方が増えたことでより表層化したにすぎません。

また、彼らの父親が、育児や家庭のために使う時間を仕事のために諦めるという働き方をしていたのを実際に見てきたのがミレニアル世代なので、育休取得に積極的な男性も増え、男性の家庭や育児との関わり方の意識が時代を経て変わってきたことが分かります。

キャリア形成のカギを握るのは、パートナー選び

本書では、仕事と家庭における夫婦間の協業関係やパートナーシップがいかに重要か、個別のエピソードからも垣間見ることができます。

「キャリアを左右するような最も重要な決断を一つ挙げろと言われたら、私なら結婚と答えるだろう。結婚すると決めること、そしてそれがどんな相手かということは、決定的に重要だ」 ※本文より抜粋

これは、アメリカのシェリル・サンドバーグの自伝的著書『LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版社/2013年)からの引用です。

実際に、夫婦の目指すキャリアタイプについてのアンケート結果があり、男性は「(夫婦)お互い、キャリアアップを目指していく」が41.4%と最も多く、女性は「配偶者のキャリアを優先していく」が55.2%と半数を超えています。例えば、男性が転勤になると、女性が会社を辞めて帯同するケースがまだ多いので、そういった意味では至極納得の行く結果かと思われます。

しかし、日本の男性の約4割が「お互い、キャリアアップを目指していく」と答えたことは、ミレニアル世代とそれ以前の世代を比較して価値観の変遷が伺えました。確かに、パートナーの働き方や所属する企業の文化などで、どれくらい柔軟に働けるか、家庭との両立に理解のある会社かなど左右されるので、キャリア形成をする上で重要なファクターになります。

これからは、パートナーを選ぶ際にも、自身のキャリア形成の視点も考慮し、夫婦共に持続可能なキャリアと家庭が築けるのかまで考える方がますます増えていきそうです。

社員のやる気を削ぐ旧態依然のマネジメント層

現在、企業の上層部にいる40代、50代のマネジメント層は、長時間労働も厭わず滅私奉公で会社に仕えてきて上に上がって来た方が多いです。そして、家庭や育児のことは専業主婦をしている妻に任せっきりだった方が多いのではないでしょうか。

そんなマネジメント層と、ミレニアル世代では、キャリアもプライベートの考え方も異なり、時には組織内での軋轢になります。

本書では、同じ技術系の仕事をしている夫と比較して、「育成」についての妻の思いが紹介されています。

男性のようなきれいなキャリアが描けない

「夫の方が、入社以来、キャリアを積み重ねている感じがします。異動して1か月の時も、バリバリやっているように見えました。夫を見ていると、会社として『この人はこういうふうに育てたい』というのがあって、キャリアが計画されているような、きれいな流れが見えるのです。
一方、自分は場当たり的に異動したり、役割が与えられている気がします。私をどう育てたいのか、自分から上長に聞いたこともありました。私の異動は、プロジェクトが立ち上がったから異動、という印象。ゴールに向かって積み上げていくというイメージとは違うのです。自分の中で焦ってきています」 
※本文より抜粋

アンコンシャスバイアスとは、誰にでもある無意識の思い込みのことを指し、なくすことができないと、本書では指摘しています。

マネジメント層の意識として、「女性はいつ妊娠・出産で長期に休むかわからない」と先回りして考えてしまい、「女性は長期の育成計画が立てづらい」といった、思い込みに繋がっていると考えられます。それが、女性のキャリア形成の難しさや、女性の仕事へのやる気を削ぐ原因となっています。

マネジメント層にも思い込みがあるという前提で、自身のキャリアについて上司と意思疎通することで、キャリアの停滞やマミートラックを回避できるかもしれません。

各家庭の創意工夫のエピソードにヒントが満載

本書を通じて、ミレニアル世代では、男性、女性関係なく仕事だけではなく家庭のことも夫婦二人三脚で取り組もうとしているデュアルキャリア・カップルが多いことが分かりました。

しかし、会社や社会の構造が、まだ共働き世代に最適化されていないことで、彼らの意識との間に歪みが生じ、それが両立を困難にしている要因かと思われました。そのため、未だにマミートラック問題や男性の育休取得も進まず、既存の構造のまま、夫婦の日々の創意工夫で仕事も家庭もなんとかうまく回して乗り切ろうとしているカップルが多い印象でした。

これからの日本は、ますます少子化・人材不足が深刻化するので、会社や社会の意識や構造を変えていかないと、立ち行かなくなると思います。今後は介護などで仕事との両立が困難な方もきっと増えるはずです。誰でも、人生のどこかでキャリアより家庭のことを優先させなければいけない時が来ます。育児中の社員のみならず、誰でもキャリアの緩急をつけて働ける社会が望ましいと思います。

本書には、各家庭や各個人のキャリアと家庭の創意工夫に関する個別エピソードが満載です。悩んでいるのは自分だけじゃないはず。きっと、同じように悩んで解決してきた夫婦や個人がたくさんいるので、その悩みの突破口のヒントとして、本書が役立つのではないでしょうか。

女性のキャリア、こちらの記事もおすすめ

何歳までにどうなっていたい?育休中や復職後の焦りを解消する「夫婦のキャリアポートフォリオ」の描き方
キャリアポートフォリオの描き方 仕事に子育てに忙しいと思いますが、一度自分、そして夫婦で向き合う時間を確保し、キャリアデザインを描いてみま...

紹介した本はこちら

〈共働き・共育て〉世代の本音 新しいキャリア観が社会を変える
本道敦子/著 山谷真名/著 和田みゆき/著
光文社新書 968円

男性育休や働き方改革が企業の重要課題となった現代。しかし、すべてのケアワークを妻に担わせて会社の仕事だけに時間をつぎ込んできた男性が大方を占めるマネジメント層と、これからの時代を担うミレニアル世代とでは、そのキャリア観に大きな隔たりがある。本書は〈共働き・共育て〉を志向するミレニアル世代にインタビュー調査を行い、仕事と子育ての両立、そのための様々な障害にどう対処しているかの事例を多数紹介。企業の経営陣、人事担当者にとってはもちろん、両立に悩むデュアルキャリア・カップル当事者のヒントにもなる本。

出版社の公式サイトはこちら>>

記事を書いたのは…

相坂サオリ|キャリアコンサルタント

株式会社LASSIC代表取締役CEO。主に法人向けにマーケティングPR支援事業と個人向けにキャリアデザイン事業を展開し、自身も国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。大手広告代理店勤務を経て、33歳で起業。自身が不妊治療と仕事の両立で悩んだ経験やキャリア迷子を経て独立した経験から、ワーママや女性のキャリア支援に尽力。会社設立から3か月後、第一子出産。現在は3歳&0歳の娘の子育てと起業に奮闘中。

株式会社LASSIC【公式】サイトはこちら>>

※写真はイメージです

 

編集部おすすめ

関連記事