モラルハラスメント(モラハラ)とは
モラルハラスメント、「モラハラ」とは、言葉や態度などで相手の尊厳を傷つけ、心を執拗に痛めつける行為。いわば「精神的虐待」です。
なかでも家庭内でのモラハラは、最も身近な人からの「精神的DV」(ドメスティックバイオレンス)といっていいかもしれません。
モラル‐ハラスメント【moral harassment】
暴力は振るわず、言葉や態度で嫌がらせをし、いじめること。精神的暴力。精神的虐待。モラハラ。
出典:小学館デジタル大辞泉
日常にあるモラハラの種
たとえば、自分の親に「やっぱりおまえはダメだ」「おまえにできるわけがない」などと頭ごなしに否定されたり、「おまえなんて産まなければよかった」と言われたりしたら悲しくなりますよね?
あるいは、ひどい言葉で非難されたり、暴言・悪口を毎日言い聞かされたり、無視や差別されるのも、嫌な気分になるものです。
そんな無自覚に発せられる一言、どこにでもある日常風景の中に、モラハラの種は落ちています。そして、その一番の被害者となるのは子どもたちなのです。
モラハラの実態と消えない理由
親子関係カウンセラーの川島崇照さんは、家庭内で起こるモラハラの原因を、加害者側の「親が抱える心の問題」と指摘します。
川島崇照さん(以下、川島さん)「モラハラをする親のほとんどは、強い不安感やコンプレックスを抱えています。でも親は、自分にそういう問題があることに気づいていない。
だから、無意識のうちに不安を打ち消すため、自分が正しいと思い込もうとする。目の前の子どもが自分勝手でわがままに見えて、腹が立つから攻撃して傷つける。
別に、攻撃したいわけでも傷つけたいわけでもないけれど、子どもが悪いと一方的に決めつけているから、自分と同じ思いをさせて子どもを正そうなどと、良いことだと思ってやってしまうんですね。そういう人が多いからやめられない、モラハラもなくならないんだと思います」
【コンプレックス別:4タイプのモラハラ親あるある発言・チェックシート】
執着心の強い親
□「おまえのことを思ってしてあげてるのに」
□ 「おまえのことを考えて言ってあげてるのに」
□ 「おまえは何も考えてない」
□ 「おまえは自分勝手、わがままだ」
依存心の強い親
□ 「親がこんなにも苦労しているのに」
□ 「親の気持ちを考えてない」
□ 「私が子どもの頃はこんなことしなかった」
□ 「親の言うことは何でも従ってきた」
劣等感の強い親
□ 「こんなこともできないなんて、おまえはおかしい」
□ 「みんなできているのに、おまえだけダメだ」
□ 「そんな人と付き合っちゃダメ」
□ 「そんなレベルの低い学校はやめて、あっちの学校に行け」
精神的に未熟な親
□ 「ずっと家にいて親を養え」
□ 「親の介護や看病は、おまえの仕事」
□ 「結婚なんかしなくていいから、親の世話をしろ」
他、子どもにお金を使わない、子どもに関心がなく放置など
傷を抱える子どもの心理
家庭内のモラハラには、さまざまな「精神的虐待」が執拗に繰り返されるという側面もあります。加えて、外に漏れにくく、認識や理解がされにくいのも特徴のひとつ。
同じ家に暮らす家族でも、当事者以外は気づいていないこともよくあるそうで、さらに実際は、モラハラを行っている親や受けている子ども本人も、「精神的虐待」があるという認識はとても薄いのだといいます。
川島さん「カウンセラーになる前の私も、親との関係が苦しくて悩んでいました。でも当時は自分が傷ついている自覚はなくて、嫌なことがあっても、親はたくさん経験を積んできているから正しい考え方を持っているはず、親の考えを理解できない自分が間違っているんだ、などと思っていたんですね」
たとえ子どもを思っての言葉でも、「子ども自身が受け取れなければ、それは愛情ではなく押しつけ」。幼い頃から、そうした親の一方的な思い込みや決めつけの中で育つと、子どもは自分に自信が持てずに自分が悪いと思い込んだり、親と考え方が同化して判断できなくなったりします。
それで、つらさがあってもそれを心の傷とは結びつけられず、親に対する複雑な感情も「こんなこと誰にも言えない」と、ひとりで悩みを抱え込んでしまうのです。
親子問題の解決法とは?
傷を抱えたまま成長し、大人になってからも親との関係に人知れず苦しんでいる人は多くいます。その支えとなって、サポート活動に取り組んでいるのが「おとなの親子関係相談所」。
代表を務める川島さんのもとには、全国各地から毎日さまざまな相談が寄せられています。
「気づき」と「心の境界線」
川島さん「相談者の方へのカウンセリングは日々行っていますが、過去に経験がある私には、すごく共感できる心の変化みたいなものが、手に取るようにわかるときがあるんですね。
やはり最初は、親への恐怖心や罪悪感があったり、自分がどう傷ついているか理解していない人が多い。ですが、対話を重ねていくうちに、徐々に親との間に“心の境界線”が引けて、いろいろなことに気づけるようになる。
ずっと悩んでいた問題が、実は自分のせいじゃなく親の問題だったというふうに、仕分けができるようになるんです」
子ども自身の気づきと心の境界線。それは、解決への扉を開く糸口となるものですが、本当の問題解決には、さらにもっと必要なものもあります。それは、親が子どもの身になって考える“意識”を持つこと。
川島さん「相談に来られる多くの人が、親との関係が苦しい。でも良好な関係になりたいと思っているんです。
けれども、親が相変わらず子どもの身になって考えないと、子どもの気持ちを理解しようと努力しないのであれば、もう子ども側がいくら頑張ったとしてもうまくいきません。
逆に、親にそういう意識がない場合は、今までどんなに普通に平和に暮らしてきたとしても、ある日突然、モラハラの当事者になる可能性は、誰にでもあるのです」
親に求められるもの
自分には生きていく力がないように思える。このままだと不幸になりそうで怖い。誰かに支えてもらいたい……。そういった強い不安感は、無意識のうちに誰もが持っているもの。
だから、常々ちゃんと“自分の力で生きる”ことを心がけていないといけないし、ストレスになるような考え方、感じ方はなるべく避けて、不安のもとを作り出さないことが大切、と川島さんは言います。
川島さん「たとえば今、あなたはすごくイライラしている。それは、目の前の子どもに直接傷つけられたからなのか? そうではないなら、子どもが思い通りにならないから、あなたはイライラしているのかもしれない。でも実はそれ、あなたが子どもに期待しすぎているだけで、子どもには責任も直接因果関係もない話では?
そう考えれば、子どもに期待しすぎないようにしようとか。子どもの生き方を尊重しようとか。あなた自身の問題として対処できて、子どもにぶつけないで済みます。
そういう線引きも、心の境界線のひとつ。だから親も、常にその境界線を意識しておくことは、すごく重要かなと思いますね」
もし、そのイライラを子どもにぶつけてしまったら?との質問に、川島さんは「まずは、とにかく謝ること」と即答。子どもを傷つけてしまったら真摯に謝罪する。そして、もうしないと決めて、それを相手にも伝えて、その通りに気を付けていく。
さらに大切なのは、反省して、その反省をし続けること。特にストレスのもとになる強い不安感が出たときは、これは子どものせいじゃない、私の問題だと、毎回毎回思って反省し続けることが重要だと、強く訴えます。
川島さん「親には子どもに対する責任も、いろいろなことを伝えたり導いていく役割もあります。ただ、子どもと一緒に反省し続けながら学んでいく、共に成長するという感覚もないと、どうしても自分が正しくて、その正しさに従わない子どもが間違っているように見えてしまう。
うまくいかないことも失敗もある。けれど、それは自分だってそうだし、子どもにとっては失敗も経験で、大事なのはそこから何を学ぶかですよね?
親である皆さんには、ぜひ子どもの気持ちを支え、応援し続ける存在であってほしいのです。間違いを正すのではなく、過ちがあってもそこから何かを学んで一緒に成長していくような。実際そう考えるほうが、親だって気持ちが楽になりますよね」
▼さらに深くモラハラ度をチェックする
話を伺ったのは
1974年生まれ。幼い頃、家庭内では日常的に怒鳴り声が飛び交っており、ストレスを抱えた親から毎日のように否定や罵倒を受けていた。2011年にカウンセラーとして独立した後『おとなの親子関係相談所』を設立。今までにサポートしてきた相談者数は延べ4万人。日々毒親との関係に悩む人たちのカウンセリングを行いながら、毒親の支配や依存から脱出していくためのサポートや傷つけられた心の回復を目指すためのトレーニングなどを実施している。
著書に『嫌いな親との離れ方』(すばる舎)、YouTubeやポッドキャストで『親子の悩み解決ラジオ』を配信。
Facebook:毒親脱出の専門家 川島たかあき≪
X:毒親脱出専門家 川島崇照≪
川島崇照さんの著書
4万人以上の悩みを解決してきた親子関係の専門家/川島崇照が、自身の経験や相談事例等を挙げながら、様々な問題を抱える親について解説。そうした親との間に「境界線」を引くことの大切さやその境界線の引き方、自分の人生の歩み方、心のケアの仕方なども、わかりやすく詳しく紹介されている。
構成・文/増田ひとみ