もしかして2人目不妊?その原因は「ミネラル不足」かも。ミネラルバランスを整えて妊活をサポート【医師監修】

「1人目はスムーズに授かったのに、2人目がなかなかできない」というのが「2人目不妊」。栄養指導によって、未病ケアや妊活サポートに取り組まれている内科医の登坂正子先生、尾都野信子先生によると、不妊には「ミネラルバランスの崩れ」が関係していることも多いそう。とくに、第一子育児中はミネラル不足に陥りがちだとか。そこで、妊活中にミネラル不足にならないための、食事やライフスタイルについてお伺いしました。

ミネラルは妊娠・出産に欠かせない重要な成分。足りないとどうなる?

-登坂先生、尾都野先生のクリニックでは、妊娠を望むカップルに、ミネラルバランスを整える食事指導を行なっていらっしゃるとのことですが、なぜ、妊活において、ミネラルが大切なのでしょうか?

登坂:私たちは、食べ物を消化・吸収して体内に栄養素を取り込み、取り込んだ栄養素は、代謝という過程を経て毛髪・筋肉・皮膚・骨・ホルモンなど、生きていく上で必要なものすべてを作り上げていきます。

妊娠・出産にも、「健康な卵子・精子を作るための栄養」「受精や着床が行われるよう、体のコンディションを整えるための栄養」「胎児が健やかに生育するための栄養」など、さまざまな栄養が必要になります。

そして、これらの栄養を体内で十分に消化・吸収・代謝するためには酵素が必要であり、ビタミンやミネラルは酵素の働きを助けたり、酵素の構成成分として必須になります。

特にミネラルは、体内で合成できないため、不足している方は、ミネラルを含む食品を意識して摂取したり、場合によってはサプリメントなどで補う必要があります。

身体のさび付き(酸化)や焦げ付き(糖化)は卵子・精子の動きを悪くする

また、健康を害する原因として、「糖化」や「酸化」といった言葉を聞いたことがありますでしょうか?

「酸化」は活性酸素が関与する状態をいいます。そもそも活性酸素は、体内で殺菌作用などのプラスの働きをする一方、過剰に発生すると一転して体内の細胞を傷つけ始める有害なものに変わります。そうならないために、人間の体には先天的にこの活性酸素に対する防衛システムが備わっており、体内に持っている酵素や、体外から摂取するビタミンやミネラルなどで、過剰に発生した活性酸素の処理をします。しかし、その処理能力を超えると多くの細胞が損傷を受け、死滅してしまうのです。卵子や精子は、過剰な活性酸素に特に弱いのです。

「糖化」は糖質の摂りすぎによって血液中にあふれた余分な糖分が、体内のたんぱく質や脂質と結びついて変性し、老化促進物質であるAGE(糖化最終生成物)が作り出されてしまうことを言います。

酸化だけでなく糖化が進むと、活性酸素を打ち消す酵素もたんぱく質でつくられていますので、ますます過剰な活性酸素を処理することができなくなってしまいます。

現代の日本の男女はカロリー過多の「新型栄養失調」が多い

つまり、糖化や酸化は、健康に影響するだけでなく、妊活を考えている方にとっても気にする必要があるのです。体内の酸化や糖化を促進させないためには「ビタミン」や「ミネラル」をバランスよく摂取することが重要になります。

ところが、現代の日本では男女ともにビタミン・ミネラル不足。カロリーは足りている、あるいはカロリー過多の傾向にあるのに、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が不足している状態、いわゆる「新型栄養失調」になっている人が非常に多いのです。ビタミンに関して言えば、ビタミンC以外は体内で生成することができますが、ミネラルはどれも体内で生成することができないので、とくに意識して、食事などから摂取することが必要になります

第一子育児中の生活はミネラル不足に陥りやすい!

令和元年国民健康栄養調査結果より

-第一子はスムーズに妊娠できたのに、2人目がなかなかでいないという2人目不妊の原因としてはどのようなことが考えられますか?

尾都野不妊に悩むカップルのうち、男性、女性ともに検査結果に特に問題は見られず、原因が特定できないカップルが40%と言われていますが、第二子を望む場合、まず原因としてあげられるのが、年齢に伴う、体内の老化です。特に、近年は晩婚化・晩産化の傾向があり、第一子の妊娠・出産年齢も上がってきています。そして、第二子を望むときには、さらに年齢が上がっており、さきほど登坂先生がご説明した、「糖化」や「酸化」が起こりやすくなっています。したがって、卵子の質が低下したり、精子の数や働きが低下したりすることが考えられます。

また、女性は1人目の妊娠中に多くのミネラルを胎児に与えているため、母親自身の体内はミネラル不足になっていることが多いということも原因として挙げられます。また授乳によっても母親の体内のミネラルは減ってしまっています。

そこで、できるだけミネラルを補給できる食事をとるよう意識する必要があるのですが、慣れない育児に精一杯ですと、食事作りに時間をかけられず、簡単な食事で済ませることが多くなりがち。そうなると、母親の摂取する栄養バランスが崩れてしまいます。

育児ストレスや睡眠不足が体内酸化の原因にも

さらに、初めての慣れない育児でストレスを抱えている方も多いことでしょう。ストレスは妊娠を妨げる最も大きな要因です。ストレスは妊婦に必要な亜鉛はじめ様々なミネラルを消耗し、酸化の原因である活性酸素を発生させる原因となります。

そして、多くのお母さんが育児中に悩まされるのが睡眠不足。睡眠中、さまざまなホルモンが作られますが、ホルモンには、妊娠に関与するものやストレス耐性を高めるものもあります。睡眠不足によって、こうしたホルモンが作られにくくなってしまいます。

足りないミネラルを補給し、不要なミネラルをデトックスしましょう

十代以外は、接種基準量以下となっている日本人男性の亜鉛摂取量

-妊娠に関与して、特に重要な働きをするミネラルにはどのようなものがありますか?

登坂まずは妊娠にかかわるミネラルとして、男女ともに重要なのが「亜鉛」です。亜鉛は、健康な精子・卵子を作るために欠かせないミネラルです。また、活性酸素を抑えたり、有害ミネラルである水銀やカドミウムの排出をサポートします。亜鉛は男女ともに不足しているので、意識して摂取することが必要です。ただしミネラルはバランスが大事で過剰でも弊害がおきますので、サプリメントで補充する場合には、医師に相談することが望ましいです。

亜鉛

亜鉛を多く含む食材:牡蠣、卵黄、うなぎ、牛肉、レバー、大豆食品など

マンガン

「マンガン」は酸化ストレスに対抗するミネラル。男性ホルモンであるテストステロンの働きにも関与し、不足すると性機能の低下につながります。

マンガンを多く含む食材:牡蠣、栗、大豆、玄米、くるみ

セレン

「セレン」は健康な精子を作るのに重要な役割を果たします。酸化を抑える働き、細胞の老化を抑えるためにも必要なミネラルです。

セレンを多く含む食材:玉ねぎ、にんにく、赤唐辛子、レンズ豆、セロリ、えんどう豆など。

カルシウム

そして、カルシウム。体内にいちばん多く含まれているミネラルです。精液やテストステロン(男性ホルモン)の質に関わります。受精や遺伝子情報の伝達、細胞分裂、ホルモン分泌に関わり、他のミネラルを助ける働きも持っています。

カルシウムを多く含む食材:牛乳、乳製品、小魚、干しエビ、豆腐、小松菜、菜の花

ピアスが原因で有害ミネラル・ニッケルが蓄積していた例も

ピアスをやめたら、有害ミネラル・ニッケルが減った例も

また、必要なミネラルが足りていない一方、有害なミネラルが蓄積しているという方もいます。有害ミネラルは、健康的な卵子・精子の発育や活動の妨げとなります。

たとえば、ニッケル。ニッケルは、お菓子をつくるときに使用されるベーキングパウダーやチョコレート加工菓子などに含まれているので、妊活中はなるべく洋菓子を控えることをおすすめしています。またピアスが原因で体内にニッケルが蓄積しているという方もいました。ピアスをやめたら、体内のニッケルの量はぐんと減ったという事例もあります(体内ミネラル測定機器「オリゴスキャン」による結果)。

水銀量が多いので避けたい大型回遊魚

また、厚生労働省は、水銀量が多いといわれるマグロなどの大型回遊魚は、妊娠中、避けるようにと指導していますが、妊活の妨げにもなるので、できれば、妊娠を考え始めたら控えるよう心がけましょう。

とはいえ、こうした有害ミネラルは、一般的な食事に含まれていることも多いことから、完全に避けることは難しいものです。そこで、摂取したものをできるだけ排出する、デトックス効果の高い食材を意識して摂取するのがおすすめです。

デトックス効果がある野菜を積極的に摂取

玉ねぎ、長ねぎ、ニラ、にんにくといった匂いの強い野菜に含まれる「アリシン」には、強いデトックス効果がありますので、これらの食材を積極的にとって、排出力を高めましょう。

体内のミネラルバランスを知ることができる「オリゴスキャン」

ミネラルの過剰や不足を知ることは、妊活だけでなく、健康維持にとても大切ですが、普段、体内のミネラル量を自分で知ることは難しいでしょう。医療機関によっては、「オリゴスキャン」という機器によって、体内のミネラルバランスを知ることができますので、もし機会があれば、まずはこうした検査で自分の体内のミネラルバランスを調べてみることも有効です。

そのほか、腸内環境を整えて、必要なビタミン・ミネラルをスムーズに腸から吸収できるようにすることも意識しましょう。体内で生成できないビタミンCや、近年「免疫力や妊娠基礎力アップに有効」ということがわかってきたビタミンDなども、妊娠に関与します。きちんと摂取するよう心がけましょう。

自己流のサプリメント摂取は要注意! 医師のアドバイスが望ましい

 

不足しているミネラルを補うためには、食事だけでなく、サプリメントからもミネラルを摂取するとよいでしょうか?

尾都野:妊娠に必要な栄養素を補うために食事だけでは不十分と考えられる場合、サプリメントの併用をおすすめすることもあります。不足しているミネラルがあり、それが妊活の妨げになっていると考えられる場合、食事に気をつけつつ、サプリメントでしっかり補充することで、体内のミネラルバランスは3ヵ月~半年くらいで改善することが多いです。

妊活中の方の中にはサプリメントをご自身でネット通販やドラッグストアで購入して飲んでいらっしゃる方もいらっしゃるでしょう。このとき、気をつけていただきたいのは、むやみに複数のサプリメントをとらないようにすることです。

妊娠に必要な栄養素として知られる「葉酸」には摂取量に上限があります

「医学的な不妊治療以外にどのような妊活を行っていますか?(複数選択可)」と質問したところ、『サプリの摂取(48.7%)』と回答した方が最も多い結果でした。食事では摂りきれない分の葉酸をサプリで摂取している方も多いことが予測できます。(調査対象:20代~40代女性 調査人数:1005人 データ提供/ゼネラルリサーチ)

たとえば、妊娠前から必要なビタミンとして、ビタミンB群の一つである「葉酸」がよく知られていることと思います。葉酸はそもそも食品中に含まれる量は少ないですし、水溶性ビタミンなので通常は不要な分は尿として排出され、過剰摂取になることはあまりありません。

ですが、葉酸にも摂取量に上限があります。特に習慣的にサプリメントを摂取する場合は、健康被害を起こす可能性のある耐容上限量を超えないほうようにしましょう。葉酸の耐容上限量は、生殖可能年齢の男女においては900~1000㎍です。過剰に摂取した場合、亜鉛の吸収を阻害する危険性があります。亜鉛不足は、卵子の質を低下させたり、精子の数や運動が悪くなったり、といった妊娠力の低下につながるので、注意が必要です。

一般に、サプリメントというのは、1つの成分からできておるわけではなく、どこの会社も、1つのサプリメントで、さまざまなビタミン・ミネラルが取れるように考えて配合している場合が多いのです。ですから、複数のサプリメントを飲むと、重複して必要以上にとってしまう成分が出てきてしまい、過剰摂取につながることがあります。

それぞれのサプリメントに含まれる成分量を、自分でチェックして上限を超えないようにするというのは難しいもの。やはり、信頼できる医師や薬剤師の指導のもとに摂取するのが安心です。

ミネラル摂取で体内年齢を若々しく保つことは健康寿命にも効果

-そのほか、妊娠を望む場合、生活の中で気を付けるべきことはありますか?

尾都野:最も妊活の妨げになると言われているのがストレス。まず、ストレスをできるだけ減らすようにしたいものです。「どうしても妊娠しなくては」という緊張状態から解放されることで、妊娠に至ったケースも多くあります。

ですから、ミネラルバランスを整えるための食事を私たちは指導していますが、こうした知識も「妊娠のため」と考えるのではなく、自分自身の健康を維持し、健康寿命を伸ばして充実した人生を送るためのもの、といったん妊活とは切り離して考えるようにとお伝えしています。

登坂:私のところに診察にいらしたカップルにはまず、「もし、お子さんができなかった場合、どんな人生を送りたいですか?」と伺います。お子さんがいなくても楽しい人生をまずイメージしてもらってから、「その先にお子さんがいたらさらに幸せが増える」という気持ちでいきましょう、とお話しします。

また、私がよくいうのは、「実年齢」と「体内年齢」は違うということです。これは未病ケアにも通じることですが、実年齢が同じ40歳の人でも、生活習慣に気をつけていることで30歳の状態を保っている人もいれば、栄養バランスが悪く、喫煙などの不摂生な生活で50代以上の体内年齢になっている方もいます。

ミネラルの知識は、健康維持に役立ち、健康寿命を伸ばすなど、ご自身やパートナーとの一生涯の幸福な生活に役立つものです。ぜひ、「妊活のためだけ」と考えずに、将来の心と体の健康のために、というお気持ちで、ミネラルバランスを整える生活を意識してみてください。

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記事監修

登坂正子先生|医療法人 淳信会 ホリスティキュア メディカルクリニック院長

東京女子医科大学卒業。米国コロラド州NTI認定栄養コンサルタント。米国PHYTOMEDIC LABS認定栄養&酵素セラピスト。2014年、米国ベストドクターズ社日本支部から「医師が自分自身や家族が病気になった場合受診したいベストの医師」として、Best Doctors in Japanに選出される。心身の健康管理を含めた、働く女性のサポートにも力を入れており、企業での女性新入社員の研修や、地域の働く女性のネットワーク作りを行っている。ホリスティキュア公式サイト:https://www.green-heart.co.jp/

尾都野信子先生|まさこメディカルクリニック 医師

医療法人 淳信会 ホリスティキュア メディカルクリニック 医師。藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)卒業後、附属大学病院で臨床研修。その後リウマチ・感染症内科へ入局。 臨床、研究、学位取得。 自身の体調不良を食事や生活習慣の改善によって克服した経験をもとに、オリゴスキャンなどの検査機器を用いて『目に見える体内栄養素バランスの改善』をコンセプトに診療を行う。

取材・構成/瀬戸由美子

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