子どもの希死念慮とは何か
実は、希死念慮(きしねんりょ)経験のある子どもたちは少なくありません。「わが子が自殺や死を考えていたら…」と心配になる親は多いのではないでしょうか? 希死念慮の意味と、若年層の自殺を巡る状況を解説します。
死にたいと思う気持ちのこと
「希死念慮」とは、死にたいと思う気持ちです。「このまま目覚めなければいい」「自分なんて消えてしまえばいい」「生きているのがつらい」など、死へのぼんやりとした願望も含みます。
自殺願望(自殺念慮)との違いはあいまいで、どちらも自らの死を望む点では共通しています。自殺願望は「自殺という手段で人生を終わらせたい気持ち」であるのに対し、希死念慮は自殺までは考えていない状態です。具体的な計画はなく、死にたいという思いが散発的に出現するケースが多いでしょう。
希死念慮経験者と自殺者の割合
思春期の子どもたちが希死念慮や自殺願望を持つのは、残念ながら珍しくないことです。日本財団が2022年11月に実施した自殺意識調査によると、国内の若年層(18歳~29歳)の44.8%が、希死念慮経験があると答えました。さらに、希死念慮経験者の約40%が自殺未遂の経験を持っています。
国が公表する「令和5年中における自殺の状況」では、20歳未満の自殺者数は810人で、うち小中高生の自殺者数は513人です。小学生は13人、中学生は153人、高校生は347人であり、子どもが大人へと成長する思春期に自殺者が増えています。
出典:日本財団子どもの生きていく力 サポートプロジェクト『日本財団第5回自殺意識調査』報告書|日本財団
:令和5年中における自殺の状況|厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課
子どもが本気で死を考える背景
日本財団の報告書によれば、希死念慮経験者の約60%は「希死念慮につながる経験」をしています。人間関係の悪化・いじめ・進路不安・学業不振・暴力・虐待などの悩みを抱えているケースが多く、「困難な経験はない」と答えた人は37%にとどまりました。
また、小児期に虐待やネグレクト、親との別離といった「逆境的体験」がある子どもほど、希死念慮経験を持ちやすい事実が分かっています。
「令和5年中における自殺の状況」によると、小中高生の自殺の動機は、学校問題(261件)が最も多く、健康問題(147件)や家庭問題(116件)が続きます。
「理由はないけど死にたい」という子どもは、単に理由を認識できていないだけかもしれません。小児期からの小さな経験の積み重ねが、希死念慮につながっている場合も多いようです。
希死念慮が高まっているサインとは?
希死念慮が強くなると、自殺願望へと変化する恐れがあります。親は子どものSOSを見逃さないようにしなければなりません。「希死念慮が高い」と判断できるのは、どのようなサインがあったときでしょうか?
行動や態度に変化が現れる
希死念慮が強くなればなるほど、行動や態度に明らかな変化が現われます。小学校低学年ぐらいまでは、あまり自分の気持ちをうまく言い表せないため、親が注意深く観察する必要があるでしょう。
希死念慮や自殺のサインとしては、以下のような例が挙げられます。
●集中力が散漫し、簡単な課題にも取り組むのが難しくなる
●不眠・食欲不振などの不調を訴える
●友人との交際をやめて、家に引きこもる
●不安やいらつきが多くなる
●弱い者いじめをするようになる
これらは、思春期の子どもによく見られる言動かもしれません。「よくある行動だから…」といって軽視すると、子どもを救えるタイミングを逃す恐れがあります。
自殺をほのめかすことも
死にたい気持ちが強まると、自殺をほのめかす場合があります。自殺の意思が固まると、以下のようなサインが見られるでしょう。
●自殺を予告する
●長年会っていなかった友人に会いにいく
●遺書を用意する
●自殺の計画を立てる
●私物を整理する
計画が具体性を増すほど、自殺を実行する危険性は高いといえます。このような心理状態では、親の何気ない言葉や態度が自殺の引き金になるケースもあります。
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わが子が「死にたい」と言ったときは?
わが子から希死念慮を告げられたら、親は何をすればよいのか分からず動揺するのが当たり前です。「あのとき、こうすればよかった」と後悔しないためにも、対応のポイントを確認しておきましょう。
「TALKの原則」で子どもと向き合う
わが子が希死念慮を抱くと、「ばかを言うな」「もっと前向きになれ」と叱咤激励したくなる親は多いものです。子どもを思っての発言とはいえ、当の本人は否定されたと感じてしまいます。「TALKの原則」で子どもの気持ちに寄り添いましょう。
●Tell:心配している気持ちを言葉で伝える
●Ask :死にたい気持ちについて尋ねる
●Listen: 話に耳を傾ける
●Keep safe: 安全を確保する
相手の考えを無理に変えようとせず、「つらいんだね」と気持ちを受け止めた上で、「死んでほしくない」「何があっても味方」という思いをはっきりと伝える点が重要です。
話をよく聞いた後は、できるだけまめに様子を見ると同時に、どうすればつらさが和らぐか子どもに尋ね、問題を冷静に整理・解決する手助けをしましょう。
専門機関に相談・連絡する
自殺に至るまでには長い道のりがあり、死にたいと口にしたからといって、すぐに行動に移すとは限りません。ただし、すでに自殺を企てている状態にあれば、ささいな出来事が引き金になる恐れがあります。
これまで、自殺は個人の問題と捉えられてきました。しかし近年は、社会全体で自殺を予防する取り組みが広まっています。
当人がうつ病を発症している可能性もあるため、保健所や精神保健福祉センター、心療内科といった専門機関への相談が必要な場合もあります。危険な行動を起こそうとしているなど、非常事態のときは警察を呼びましょう。
子どもの希死念慮はSOSのサイン
調査結果からも分かるように、子どもの希死念慮は珍しいものではありません。ただし、「死にたい」「消えたい」の裏側には「死ぬほどつらい、助けて」というSOSが潜んでいるケースが多く、見過ごせば自殺につながる可能性があります。
いつもとは違うサインが見られたら、「TALKの原則」で子どもと向き合う機会を増やしましょう。自分に寄り添ってくれる人がいると分かれば、孤独感や絶望感が和らぎます。親も全ての問題を背負おうとせずに、必要に応じて専門機関への相談が大切です。
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構成・文/HugKum編集部