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自傷行為って?
ある日「しんどいって言えない」というリーフレットを見て、子どもの自傷行為について考えさせられました。
ライターであり父親でもある筆者は、コロナが流行し、感染症対策ばかりに気を取られ、子どもの心はおざなりになっているのではないか?とふと心配になりました。そこで、そのリーフレットを仲間とともに作成された児童精神の専門家の山口有紗医師にお話を聞かせて頂きました。
―自傷行為とは、どのように定義されているのですか?
山口先生:医学的には、自傷行為は自分の体を意図的に傷つけることです。
狭義の自傷は、リストカットのような身体の表層を傷つけることに限られますが、定義によっては、過量服薬や摂食障害などの間接的に自分を傷つける行為を含む場合もあります。安全ではない性行動や夜間の外出など、みずから危険に晒す行動も、個人的には広い意味での自傷行為のように思われます。
自傷行為は「孤独な自己治療」
山口先生:自傷行為は、いろいろなストレスに対する孤独な自己治療の方法として、刹那的に機能している部分があります。
自傷行為の経験があると答えた小学校、高学年の子は6人に1人!
筆者にはこの春から新一年生になる子どもがいます。幼児や小学生でも自傷行為をしてしまう子はいるのか、気になってしまいました。
-幼児や小学生でも、自傷行為をしてしまう子はいますか?
山口先生:幼児や小学生でも自傷行為は見られますが、それぞれ意味合いが異なるかもしれません。幼児も小学生も、自傷行為がストレスに対する反応や対処行動であることがあるというのは共通しています。
幼児の場合には、リストカットというよりは、爪を噛む、皮膚をむしる、髪を抜くといった癖のような行動で現れていることが、広い意味での自傷行為として捉えられるかもしれませんし、自分を叩いたり、つねったりすることもあるでしょう。
山口先生:乳幼児の場合には、ストレスに対する反応のほかにも、純粋に何が起こるかを試している場合もあるかもしれません。
また、自閉スペクトラム症のような発達の特徴がある子どもが、感覚の刺激の行動として頭を壁に打ち付けたり手を噛んだりする行為が現れる可能性があります。
小学校高学年「死にたい」と思う子も
山口先生:一方、小学生の場合は、小学校高学年ごろの子どもにも一定の割合で自傷行為や希死念慮(死にたいと思う気持ち)があることが、国立成育医療研究センターの研究チームで私たちが実施した調査で明らかになりました(調査は小学校高学年以上が対象)。
小学校5-6年生の16%が、直近1週間で自分を傷つけたことがあると回答していて、中には毎日自傷している子どももいました。私の診察でいつから自傷行為が始まったかを尋ねると、早い子どもで小学校中学年から高学年くらいで行為が顕在化していく印象です。
コロナ下で自傷行為をする子は増えた?
大人でも、コロナの流行により社会が大きく変化したことに戸惑う人が多かったかと思います。子どもたちもストレスを感じて、自傷行為が増えたりしたのでしょうか?
-コロナ下で、自傷行為をする子供は増えましたか?
山口先生:今回の調査ではコロナ以前との比較をしていないので、コロナにより自傷行為をする子どもが増えたかはわかりません。
ただ、コロナ下における生活のルーチンが個人・集団単位で変わることや行動制限のような、さまざまなストレスが影響している可能性はあります。
ここで保護者を対象とした調査結果もご紹介します。
子どものSOSのサインは?
自傷行為があると、将来の自殺のリスクが50~数百倍と言われています。できれば、自傷行為をする子どもや、その前にも子どものSOSに気づきたいですよね。そのあたりについてもお答えをいただきました。
-子どもはどのようなSOSのサインを出すのでしょうか?
山口先生:自傷行為をしている子どもの話を聞くと、自傷行為にいたる前に、既にいろいろなサインを出してくれているんだなと感じます。
例えば、周囲にちょっと相談しようとしたり、身体の不調を訴えったり、学校に行きにくくなったりなどもサインとして挙げられます。
-親御さんや学校の先生は、相談してほしい!と思うはずですよね。
山口先生:「相談する」と一口に言ってもそのプロセスは複雑で、大人に直接的に助けを求めようとする子どもは多くありません。
まず、自分のしんどさに気がつき、助けが必要であると判断し、相談する人が思い浮かび、助けを求めようと決断して、自分の想いを言語化し、さらに相手の反応を受け止め、咀嚼する。大人でも簡単にできることではありません。「相談してね」と子どもの責任にする前に、既に出ている間接的なサインをきちんと受け取るという視点を持つことが大事です。
―確かにそうですね。では、子どものSOSのサインを見つけたときにどうすればよいでしょうか?
山口先生:「がんばって学校に行きなさい」、「気のせいだよ」と言われたり、忙しそうで反応してもらえなかったりすることが少しずつ積み重なると、子どもは相談するのを諦め、自分でなんとかしようと追い詰められていきます。それが自傷行為につながるケースもあります。子どもが求めているのは、指導や評価でありません。言葉にならない気持ちを抱えているしんどさに、子どもと一緒にただ留まることが、癒しにつながることもあると思います。
-小さな声で優しいSOSが既に出ているかもしれないという視点でよく観察し、まずはありのままを受け入れ、子どもに寄り添うのが大切なのですね。今日はありがとうございました。
SOSのサインを見逃さないために心がけたいこと~今サインが出ている可能性を考える~
小学高学年で6人に1人が自傷経験あるという結果は、筆者の想像を大きく超えた数字で衝撃を受けました。普段何気なくスルーしていたところに子どものSOSが隠れているかもしれません。何かのきっかけがあれば、どの子どもにも起こりうることです。山口先生のお話を聞いて、子どもの自傷行為は稀な出来事ではないことが分かりました。
子どもが自傷行為したときの対処法や医療機関の選び方、親のケアなどについても教えていただきましたので、こちらの記事もぜひ参考にしてみて下さい。
お話を伺ったのは…
国立成育医療研究センターこころの診療部臨床研究員、こども家庭庁有識者会議構成委員。内閣官房こども家庭庁設立準備室室員。ジョンズホプキンス大学公衆衛生修士課程在学中。 一児の母。
取材・文/峯 あきら