雨の日や、飛行機内で歯が痛くなる? 宇宙では歯が痛む? 環境変化で起きる歯痛について医師が解説

秋になって行楽シーズンを迎え、飛行機を使った家族旅行へ出掛ける機会があるかもしれません。でも、悪天候や飛行機で歯が痛くなったら、せっかくの旅行気分が台無しですよね。今回は環境と歯痛の関係について論じます。

執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

雨の日に歯が痛くなるのは本当?

台風や低気圧が近づくと頭痛のする人がいますが、このように気象の変化によって症状が出現したり悪化したりする病態は、天気痛気象病などと呼ばれています。

気象によって影響を受ける症状は、その他にも高血圧、心筋梗塞、熱中症、脳卒中、喘息などがあり、中でもうつ病、関節痛などは気圧の変化に関連性が深いと言われています。

では、口の中ではどうでしょうか?

2015年に岡山大学の森田学教授らの研究グループが報告した内容によると、歯周炎と天気との関連性について調査を行いました。

この調査では、岡山大学病院予防歯科を受診している「安定期にある慢性歯周炎患者」延べ2万人を調査し、慢性歯周炎の急性期の発生と気象状態との関連を分析しました。

その結果、「気圧変化の毎時変化が大きい」または「気温上昇の毎時変化が大きい」といった気象変化があった日の1~3日後に、腫れや痛みなどの急性期症状を発症しやすいことが明らかになりました。

この研究は歯周病、つまり歯ぐきに現れた症状を主に調査しましたが、気圧変化に伴って歯の痛みが起きることも報告されています。

では、どうして天気の変化で歯や歯ぐきが痛んだりするのでしょうか?

気候の変化で歯が痛むメカニズムは?

いくつかの要因が考えられますので、挙げてみましょう。

体力・免疫力の低下による炎症の悪化

元気な時は口の中も免疫力が高くて細菌などの外敵に対して抵抗力を発揮しますが、悪天候によるストレスによって体が疲れると免疫力が低下します。

その結果、歯周ポケットの歯周病菌が増殖したり、虫歯が進行して歯根の先が膿んでいる膿瘍(のうよう)に潜む虫歯菌が活発化したりすることで、落ち着いていた症状が急性化して腫れや痛みを生じやすくなります。

自律神経のバランスの乱れにより、痛みを感じやすくなる

気圧や気温の変化に体を適応させるために自然と働く自律神経ですが、激しい天候の変化があれば、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが乱れたり、ホルモン分泌に影響が出たりすることによって痛みを感じやすくなることがあります。

気圧の変化で神経が刺激される

悪天候になると低気圧となる場合が多く、気圧の変化により歯が痛くなるメカニズムが明らかにされています。

このような気圧の変化による歯の痛みは「気圧性歯痛」と呼ばれ、歯の中や周りにある空洞にかかる圧力が低気圧で影響を受けると、痛みを生じやすいと言われています。

例えば、歯の内部には血管や神経などを含んだ「歯髄腔」と呼ばれる空洞がありますが(図1)、この中の空気が気圧の低下で膨張すると歯の神経を刺激し、痛みになります。同様に、大きな虫歯も、そのリスクを伴います(図1)。

図1. 歯髄腔と虫歯

また、歯根の先端に膿の袋などがある場合(図2)、気圧の低い上空では徐々に膨張し、周りの組織を圧迫して痛みを発生させます。飛行機の中でスナック菓子の袋がパンパンに膨らむイメージですね。

図2. 根尖性歯周炎(根尖膿瘍、歯根のう胞)

このような圧変化による空隙の膨張や収縮をスクイズと呼びますが、この現象により歯だけでなく歯周病の歯周ポケット(図3)、鼻周囲の副鼻腔(図4)や耳の中耳腔、消化管などの空洞がある組織・臓器で同様の不快症状が起きることが明らかにされています。

図3. 歯周病における骨欠損
図4. 副鼻腔(上顎洞)

飛行機やスキューバダイビングで歯が痛くなることも

気圧性歯痛は、空高くを飛ぶ飛行機の中でも起きることが知られています。このように飛行機が関与する場合は「航空機歯痛」と呼ぶこともあります。

民間の航空機の場合、高度1万メートル前後の上空を巡航します。この時、機外の環境は0.2気圧、気温はマイナス50℃という人間の生存にとって過酷な条件のため、客室内は与圧、温度・湿度調整、換気・循環などの空気調整システムによって約0.8気圧、気温は24℃前後に保ち、人工的に地上に近い環境を作り出しています。

しかし、離発着のように機体の上昇・下降が激しい時は気圧の変化を大きく受けます。特に機体の上昇時は機内の気圧変化に対して体が反応しやすいため、歯に痛みを感じやすくなります。

一方、飛行機と同様の気圧変化によって起きる歯痛は、標高の高い山への登山だけでなく、海に潜るスキューバダイビングの水圧変化などでも生じることが報告されています。

宇宙では歯痛は起きやすい?

もっと高度の高い宇宙に行けば、さらに歯痛が起きやすくなるのでは?と疑問に思われるかもしれません。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)によると、宇宙空間は0気圧ですが、宇宙船の中は地上と同じ1気圧となるように調整されていますので、気圧の変化による歯痛の心配はありません。

しかし、宇宙船や国際宇宙ステーション(ISS)のように内圧が管理された空間から外に出て、船外活動する場合はどうでしょうか?

宇宙空間には生存できるだけの酸素もなく、身を守るために必ず宇宙服を着なければなりません。宇宙服の中は機能性などの面から0.30.4気圧に設定されているため、宇宙船内よりも低圧です。そのため、歯の痛みが出る可能性があります。

ですから、航空医学研究センターの検査マニュアルに「未治療のう歯(虫歯)、歯根のう胞、根尖膿瘍及び歯髄炎等は航空業務(気圧の変化)により新たな歯痛を発生させることがあるため、すみやかに治療を受けさせること。」と記載があるように、宇宙飛行士やパイロット、客室乗務員等の空で働く人たちの歯科検診は必須項目となっています。

天気痛予報アプリの活用と注意点

近年は、気圧の変化と連動させて頭痛などの痛みの予報ができる機能を搭載した天気痛予報アプリが登場するなど、スマホで手軽に天気痛に対する予防対策までできるようになってきました。

前もって天気痛が出やすいタイミングが分かれば、鎮痛薬(痛み止め)を準備しておいたり、大事な予定を入れるのを避けたりできるなど、日常生活での痛みに備えた対策が可能になります。

いくつかの商品がありますが、警報(アラーム)機能で事前に痛みが出やすい時間を教えてくれたり、鎮痛薬をいつ何錠飲んだかなど、薬の服薬状況を記録できたりするものもありますので、自分のニーズに合ったアプリを選ぶといいでしょう。

ただし、天気痛と思い込んで、本当の病気のサインを見逃している可能性もありますので、症状が長引いたりひどくなったりするような場合は、迷わず医療機関を受診することが大切です。

*  *  *

このような便利ツールもうまく活用しながら、雨の日や飛行機で歯が痛くなりにくくするためにも、毎日の歯磨きと定期的な歯科検診で口の健康を保ってくださいね。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪

参考資料:
・Takeuchi N, Morita M et al: Relationship between Acute Phase of Chronic Periodontitis and Meteorological Factors in the Maintenance Phase of Periodontal Treatment: A Pilot Study.International journal of environmental research and public health 12; 9119-9130, 2015.
・サトウ菜保子:航空機内の環境が人体に与える影響:小児への留意点.小児科診療UP to DATE,2017.
・梅津彰ほか:気圧性歯痛の原因として上顎洞炎が考えられた1例.日本口腔外科学会雑誌45(12),829-831,1999.
・一般財団法人航空医学研究センター:航空身体検査マニュアル13.口腔及び歯牙.

 

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