「選択的夫婦別姓」のメリット・デメリットをいま一度考えてみよう。国内外の状況も紹介【親子で学ぶ現代社会】

選択的夫婦別姓とはどんなものか、夫婦同姓と何が変わるのか、疑問に思っている人は多いでしょう。夫婦別姓が議論されるのは、社会的な変化が関係しています。どちらがよいのか選ぶための重要ポイントも含めて、メリット・デメリットの両方から見ていきます。

夫婦別姓が話題になっている理由

夫婦別姓は、夫婦が別々の名字でも構わないという考え方です。なぜ今話題になっているのでしょうか?  選択的夫婦別姓の内容や、夫婦別姓問題の背景にある日本や海外の動きを解説します。

「選択的夫婦別氏制度」とはどういう制度か

日本の法律では、夫婦は同じ名字を名乗ることが決められています(民法第750条)。結婚すると、二人のうち一方が相手の名字に変わります。

夫婦別姓にはさまざまなパターンが考えられるものの、現在話題になっているのは、主に「選択的夫婦別氏制度」です。法律において名字や姓は「氏」と呼ばれるため「氏」が使われています。

選択的夫婦別氏制度になると、夫婦の名字を別々のままにするか、統一するかを選べます。その点以外は現在の制度と同じです。

女性の社会進出に伴う変化

夫婦同姓を定めた法律では、男性と女性のどちらが名字を変えてもよいと決められています。しかし、厚生労働省の人口動態統計によれば、実際に名字を変えるのは女性が約94.5%(2023年時点)です。

現在は女性の社会進出が進んでいます。結婚による改姓によって、仕事や社会生活の上でデメリットを感じるという訴えが増えています。このため、結婚しても名字を変えるかどうか選べる制度を作ろう、という動きが強まっています。

国際的には選択的夫婦別姓が進んでいる

選択的夫婦別姓が話題になるもう一つの理由があります。強制的な夫婦同姓は、間接的な女性差別だとする国際的な流れです。

2010年に行った法務省の調査によれば、主な先進国の中で夫婦同氏制度があるのは日本のみです。

また1979年には、女性の権利を守るため、国連総会によって「女子差別撤廃条約」が採択されました。その取り決めに反しているとして、国連女性差別撤廃委員会は、日本にたびたび夫婦同氏制度の改善勧告を出しています。

出典:民法第750条 | e-Gov 法令検索
夫の姓・妻の姓別にみた婚姻件数|内閣府男女共同参画局

夫婦別姓が選べるメリット

夫婦の名字が変わらないことに、どんなメリットがあるのでしょうか? 夫婦別姓を必要とするのは、名字変更で起きるさまざまな悩みを解決するためです。夫婦別姓のメリットを見ていきます。

キャリアの分断や面倒な手続きを避けられる

夫婦別姓によって、名字変更による事務手続きの負担が減るのはメリットです。まず、免許証・保険証・銀行口座など、さまざまなサービスで名義変更が必要なくなります。

次に、名字の変更が職場や取引先に周知されるまで、名前の違う別人と勘違いされて混乱が起こることもありません。名前が変わることで仕事上の実績や信用が引き継がれないという、深刻な問題も避けられます。

選択的夫婦別姓なら、名字変更によって起こる仕事・生活上のデメリットを受けるか、自分で選ぶことができます。

事実婚を選ばなくても夫婦別姓になれる

選択的夫婦別姓には、「事実婚」を選ばなくても夫婦別姓になれるというメリットもあります。事実婚とは、実際には夫婦のような関係でありながら、婚姻届を出さない状態です。婚姻届を出す結婚は「法律婚」と呼んで区別します。

ただし、事実婚にはデメリットもあります。法律婚なら受けられる税金上の優遇、相続の権利を受けられません。

また、子どもが父親の名字を名乗るには、手続きが必要です(民法779条、791条)。選択的夫婦別姓は、こうしたデメリットなしに結婚前の名字を名乗れます。

出典:民法 | e-Gov 法令検索 民法779条、791条

夫婦別姓のデメリット

選択的夫婦別姓のデメリットには何があるでしょうか? 名字の扱いが変わることは、家族関係や家族以外の社会的関係にも影響を与える可能性があります。

家族の絆が弱まる可能性

選択的夫婦別姓のデメリットとして、家族の絆が弱まる可能性を心配する人もいます。夫婦や家族が違う名字になることで、家族の一体感が薄れるという意見です。たとえ選択的であっても、公的に夫婦別姓を認めることは、社会に影響を与えるかもしれません。

夫婦別姓によって、家族・先祖とのつながりや共同体意識よりも、個人の都合を重視する流れが強まるという主張もあります。ひいては、国民の倫理観を悪化させる恐れがあるという人もいます。

公的な家族関係が分かりにくくなる

現在の日本では、夫婦や親子が同じ名字なのは当たり前です。もし、家族の名字がバラバラになったらどうなるでしょうか?

夫婦別姓のデメリットには、外から見た場合に夫婦・親子関係が分かりにくいという不便さが挙げられます。夫婦別姓裁判において最高裁は2015年と2021年の2度、国が夫婦別姓を認めないのは憲法に違反しないと判断しました。

その理由の一つは「名字は家族への所属を表す呼び名でもあるため、個人の自由で決めるのは不適切だ」という意見です。選択的夫婦別姓について決めるには、名字の持つ社会的役割も考える必要があります。

選択的夫婦別氏制度で問題になっていること

夫婦同姓と選択的夫婦別姓には、それぞれメリット・デメリットがあります。どちらを選ぶべきか、夫婦の名字問題について判断するポイントを見ていきましょう。

夫婦同氏制度は本当に不便なのか?

現在の法律を変えて選択的夫婦別姓にするには、夫婦同氏制度が本当に不便なのかを考える必要があります。

2021年12月~2022年1月にかけて、全国18歳以上の日本国籍を有する者を対象に、内閣府と法務省は家族の法制に関する世論調査を行いました。

この調査によれば、結婚による改姓が不便・不利益だという意見が全体の52.1%でした。不便・不利益があると答えた割合は、大都市に住む人で多くなっています。そして、実際に改姓することが多い女性でも高く、年齢で見た場合は18~29歳から50歳代で高い結果です。

特に、夫婦同氏制度がない海外での仕事や、旧姓が認められない契約書類・登記などの手続きでは、トラブルが起こりやすいといわれています。

出典:3ページ目-家族の法制に関する世論調査(令和3年12月調査) | 世論調査 | 内閣府

旧姓の通称使用ではダメなのか?

改姓による混乱を避けるため、「ビジネスネーム」として旧姓を通称に使う人もいます。改姓した後の名字と旧姓を並べて表記する人も増えています。

このような方法で不便さを避けることはできないのでしょうか? 上記の世論調査では、「通称使用で問題が解決する」と答えた人は全体の37.1%、解決しないと答えた人は59.3%です。

解決しないと答えた割合は女性で高く、年齢では40歳代で高くなっています。この結果から、現在の夫婦同氏制度のままでは解決できない問題があると分かります。

夫婦別姓は家族関係に影響するのか?

選択的夫婦別姓の反対理由である、家族の一体感が薄れるという主張は現実的でしょうか?

上記の世論調査では、夫婦別姓で「家族や絆に影響はない」と考える人は61.6%です。「義父母との関係に影響はない」と考える人は80.3%になりました。

たとえ名字が違っても、家族の絆が薄れることはないと考える人が多いようです。ただし、夫婦別姓によって家族や義父母との関係が薄くなると考える人も、一定数いることが分かります。

同時に、夫婦別姓が子どもに与える影響については、好ましくない影響があると答えた人の割合が69.0%でした。

具体的には、子どもが「親子の名字が違うと周囲に言われて嫌な思いをする」「親子関係に違和感・不安感を感じる」という心配です。選択的夫婦別姓が実現するかは、親子関係への影響が大きな鍵になるでしょう。

日本にとって夫婦別姓は必要か考えよう

日本で結婚した男女のうち、実際に名字を変えるのは女性が9割以上です。選択的夫婦別姓が議論される背景には、女性の社会進出が進んでいることや、男女平等への意識の高まりがあります。一方、夫婦別姓が家族の絆を希薄にしたり、社会的混乱を起こしたりするという反対意見もあります。

国の世論調査を見るときにも、なぜ性別や年齢などで意見が分かれるか、回答した人の置かれた立場を想像すると理解が深まるかもしれません。

選択的夫婦別氏制度は、あくまで「選択的」なので、結婚後に夫婦同姓を選ぶこともできます。日本にとって夫婦別姓が必要か、当事者夫婦だけでなく、次世代を生きる子どもを相手に親子で話し合ってみることも意義のあることでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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