「選挙行くの、めんどくさい…」をマインドセット。未来をよくするために「投票を楽しむ方法」を子どもと一緒に学ぶには? 東京大学・宇野重規先生を直撃!

突然ですが、選挙、行っていますか? お子さんが小さくて身動きが取れず、なかなか行きにくいのもよくわかります。また、いざ投票しようしても、どの人・どの政党に入れたらいいのかわからない、だいたい政治って苦手……。そんな思いを抱えてモヤモヤしている人が多いのではないでしょうか。
そこで、選挙や政治について子ども向けにわかりやすく解説した『選挙、誰に入れる?』の監修者である東京大学・宇野重規先生に、前向きに選挙に行くためのヒントを伺いました。私たちの未来を少しでもよくするために、選挙について肩肘張らずに学んでみましょう。

政治や経済などの社会課題を、わかりやすくイラストで解説した良書!

東京大学社会科学研究所所長の宇野重規先生

――宇野重規先生は東京大学教授で、民主主義を研究・教育されています。論文も数多く出されていますが、そんな中でこの本は一般向けの、かなりやわらかい本ですね。選挙のこと、今の世の中の社会課題がとてもわかりやすく書いてあります。どういうきっかけでこの本が生まれたのですか?

この本の前身は、図書館用の本だったんです。社会科の教科学習のためなどに図書館に置かれる本で、政治・経済など社会の中の課題についてイラストやデータで説明、世界各国と内容を比較して語られ、調べ学習などに使われています。全3巻のハードカバーのもので、今も図書館に置かれ、実際に通販でも買えるんですよ。

ただ、もう少し一般にも読みやすく求めやすいものを、ということで内容を1冊にまとめたのが今回の『選挙、誰に入れる?』なんです。

「選挙」というテーマだけでも、世界と比べた日本の投票率を図解したり、選挙のしくみを解説したりと多岐にわたり情報を網羅している。

この本も図書館用とコンセプトは同じです。「自分たちの未来をよくするために、選挙に行きましょう」と呼びかけ、なぜ選挙に行くべきかをまず伝えています。そして、選挙に行くには、候補者や政党が掲げている公約の争点がわかったほうがいい。そこで、いま世の中で課題になっていて選挙の争点になること――税金や医療費や教育費、経済、人権、環境問題などなどについて、世界の国々とデータで比較しながらイラストを使って4ページずつ解説しています。

3つの意見が提示されている。あなたはどれを支持しますか?

――なるほど、消費税ひとつとっても、世界の国ごとにずいぶん違うのが、イラストと数字ですぐわかります。日本は10%ですが、ハンガリーは27%、アメリカは0%。なぜ消費税が高いのか、0%のかわりにどんな税金があるのかも書いてあって、小学校中学年以上なら理解できそうです。

そして、そのうしろのページに日本の消費税の使い道や課題が書かれ、課題への意見も3つ挙げられています。3つの意見はそれぞれ違っています。こうした社会課題にはひとつだけの正解がなかなかないものです。だからこそ、実際にも政党や政治家がそれぞれの考えで政治をすすめていこうとするわけです。3つの意見を見比べながら、「自分だったらどうする?」を決めるヒントにしていただければ、と。

選挙に行くには税金のことを知っておくことも欠かせない。選挙に行く=社会とつながることだと教えてくれる。
3つの異なる意見と比較することで、自分自身の意見も浮き彫りになりやすい。

本を作る過程で出版社の人と争点の項目や内容をやりとりしていったのですが、その中でも「これは絶対必要な項目だ」「いやそれよりこっちでしょう」「この意見はどうかな」など、意見は分かれましたよ。選挙の争点としてごくあたりまえの項目もいれるべきですが、原発、夫婦別姓のような意見が大きく割れるような項目、「攻めている」項目についても「あえて入れよう」など、今の社会をリアルに考え、仕上げていったのがポイントです。

先生がポイントとなる項目を語る「原発」。世界の現状と比較し、自身の意見を持つことが大事。

選挙を棄権すると、自分の利益にならないことが公に決まってしまう!?

――選挙のときには、公約とこの本の項目を付き合わせてみると、「自分ならどの公約と意見が合いそうかな」というのがわかりやすい。とても助かります。でも、投票率はなかなか上がらないですよね。

そうなんです。本書にも記されていますが、日本の2022年の参議院選挙の投票率は52.05%でした。世界には90%を超える投票率の国もあるのに、です。国ごとに条件が違いますから単純に比較できないのですが、投票率から国民と政治の関わり方が浮かび上がってきます。

100人の有権者のうち50人しか投票しなかったら、26人の支持を得れば確実に当選できます(1つの選挙区から1人を選ぶ場合)。全体の3割にも満たない一部の支持者の意見で政治が決まってしまうなんて、民主主義といえますか? そう考えると、選挙に行かないとマズいなと思いますよね。「たかが一票」なんて思わないでほしいですよ。選挙に行く、という行動が日本の社会を変える力になるのですから。

政治や選挙の話をしにくいのは日本だけ?

社会科学研究所のキャラクター、SHAKENのぬいぐるみを手にした宇野先生

 ――日本では政治のことや、「選挙でだれに投票するか」などをフランクに話す機会は少ないのではないでしょうか。たとえ仲のいい友人でも、夫婦でも、政治の話をすると気まずくなる気がして……。これは日本独特の傾向ですか?

日本だけでなくてアメリカでも「宗教と政治の話はしない。すると険悪な関係になりがち」と言われます。日本だけの現象ではないですね。とはいえ、連日報道されているように、アメリカの大学のキャンパスではパレスチナ問題の抗議行動があちこちでおこります。日本に比べると、アメリカやフランスは政治の話を忌避しない傾向にあるといえるでしょう。教師や医師も自身の意見を主張をしないと始まらないと考えています。逆に自分の意見を言わない方が険悪になる、というのが根本にあるのかもしれません。

アメリカやフランスでは移民も多く、出自や価値観が違うのはあたりまえなんですね。ですから、なるべく早く話して、どこが同じ価値観なのか、何を言ったら大げんかになるのか、相手の理解のため、そして相手との適切な距離を知るために政治の話をすることが必要、と考えます。違いをみつけて共存をはかる。

でも、日本の場合ははっきり意見をいってしまうと気まずくなる。たとえば会議でも流れが見えるまでみんなずっと黙っているようなところがありますね。同調できるポイントがわかるまで語らないし、同調できないとわかったら語らない。そこが違うのです。

社会課題への意見はひとつでなくていい!

――でも、さきほどもおっしゃられたように、政治についての考えに正解はないのだから、ひとつの意見にまとめる必要も同調する必要もないのですよね?

そうです。最初からひとつのわけないんです。どんなテーマでも違う意見があり、3つくらいはまともな意見があると思っていますし、そのどれにも「なるほど」と思うところがある。むしろ無理にひとつに決定すると社会に亀裂が生じます。

夫婦別姓の問題、しかり。意見の違いは恐くない、乗り越えていけると信じましょう。問題が難しいと感じるときは、時間をおいたらいい。絶対の答えでなくて、暫定的な答えでもいい。意見をまとめるより、本書のように問題を可視化することを大事にしましょう。

同姓しか認めない日本の結婚制度は、世界の中では珍しい。日本で議論され続けている「選択的夫婦別姓」はどうなる?

家庭では、できるだけ楽しく政治の話を

――選挙は、投票した後もモヤモヤします。選挙演説ではあんなに熱を込めて話していたのに、当選した後は公約など忘れてしまったんじゃないか、と思えるような政治家もいます。

そんなときは、公開質問状(政治家に対する質問をメディアに掲載する)を出すのもひとつの手です。政党に答えさせるべくプレッシャーをかけるんです。うやむやにするような政党を明るみに出して否が応でも答えさせる。

市会議員など地元の議員に「もっとちゃんとやってほしい」と思うなら、手紙を書いて送るのも効力があります。地域住民の要望に対しては敏感に答える市会議員は多いですよ。レベルの低い政治活動を許してしまうのも国民だし、ただして変えていくのも国民の仕事です。

人間の投票行動は、若い頃から始めるほど習慣化して長く続くそうです。昔は若い人たちもそこそこ投票に行ったから、高齢者は今もよく投票に行くんですね。だから、今、保護者の皆さんは、まずはご自身がお子さんを連れて投票に行き、投票する姿をお子さんに見せましょう。家庭内でもどんどん選挙や政治の話をしましょう。できるだけ楽しそうに話してください。そうしたらお子さんたちも投票に行く確率が高くなります。これは重要な親の使命ですよ。

今どきはSNSで政治の話をするといろいろと面倒なことになりますが、家庭内はSNSと違いますからね。安心して意見を言える場ですから、子どもたちともこの本を手に、意見を交わしてくださいね。

 

宇野重規 監修学研1650円

「選挙、誰に入れる?」子どもにそう尋ねられたとき、あなたは自信をもって答えられますか? 政治が暮らしと密接に結びついているのはわかっていても、なんだか難しく感じる人も少なくないでしょう。
この本は、税金、社会保障、給与、エネルギー、多様性、選挙のあり方など、ちょっとでも良い未来を「選ぶ」ために知っておいてほしい様々なテーマを、豊富なデータと図解でわかりやすく解説しています。

お話を伺ったのは

宇野重規|東京大学社会科学研究所所長

1967年生まれ。東京大学社会科学研究所所長。専門は政治思想史、政治哲学。主な著書に、『〈私〉時代のデモクラシー』、『政治哲学的考察――リベラルとソーシャルの間』、『保守主義とは何か――反フランス革命から現代日本まで』など。

取材・文/三輪 泉

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