DNPの教育事業では、教員・生徒両方を支援
–-DNPの教育事業の内容について教えてください
吉田さん:DNPの教育事業ではメタバース空間の提供だけではなく、学校の紙テストのデジタル採点・データ分析のソフトやシステムを提供しています。採点業務の効率化だけではなく、蓄積されたデータの可視化・分析により教員の働き方改革と学びのDXを支援しています。
昨年からは、レノボジャパンさん、JMCさんと連携し、それぞれの強みをトータル的に提案させていただき、不登校や日本語指導が必要な児童・生徒に対して、3Dメタバースを使った「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム(VLP)」を東京都の事業に提供しています。DNPとしては、メタバースの空間のプラットフォームの提供だけではなく、楽しめる、居心地がいい空間をつくることをコンセプトに取り組んでいます。
3Dメタバース空間で、不登校の子が一歩を踏み出すきっかけ作りを
–メタバース空間の仕組みや内容について教えてください
吉田さん:メタバース空間では、「コミュニケーションの第一歩」を意識しています。不登校の子はコミュニケーションのハードルが高く感じていることがあるので、まずは一歩踏み出しやすいような環境づくりをしています。
メタバース空間の中には支援員がいて、子どもたちへ声がけをしています。子どもたちが少しでもリアクションしてくれたところを拾って、次のコミュニケーションに繋げているんです。
メタバース空間ではエモーションリアクションの、「いいね」や「拍手」などの機能を充実させていまして、文字チャットで話をするのはまだ躊躇するという子どもでも簡単に参加できるようにしています。リアクションを利用して、段階を踏んでコミュニケーションをとるので、徐々になじんでいけます。
また、学校で配布されているPC端末では、アプリをダウンロードすることができない場合があるので、ブラウザ上でログインできるようにしています。また、低スペックのパソコンでも、ネットワークが高速ではなくても動かせるようにカスタマイズして、誰でも参加しやすい環境をつくりました。
アバターには「頷く」、「頭を抱える」、「喜ぶ」などのアクション機能が20種類ほどあります。空間を自由に歩いたり、走ったり、ジャンプもできます。楽しめるためのスペースもつくっていて、空中階段のアトラクションなんかもあります。
例えば、空中階段にチャレンジしてる子を応援するアクションとしてカラーライトを使ったり、拍手をしたり、みんなとのコミュニケーションの場のきっかけづくりにもなります。
慣れてきたら、文字チャットでやマイクを使って支援員や先生たちとコミュニケーションをとれるようにしています。
休み時間にリラックスして過ごせるようにハンモックやテントを設置したスペースもあります。ホワイトボードの部分にはペンで文字や絵を描くこともできたり、付箋を貼って文字を残すこともできます。
ここでは、支援員を中心にレクリエーションを行っています。例えば、クイズ大会・連想ゲームなどで交流をしながら徐々に子どもたちの緊張をほぐすかたちで取り組んでいます。子どもたちが慣れてくると、自分たちでレクリエーションを企画し、先生や支援員に相談に来る姿が見られます。
企画したレクリエーションを皆で実施し、面白かった、今度もまたやりたいという声を聞くと、企画した本人は自信を持つようになり、積極的に話すだけでなく、学習する姿勢も見られます。
マイクのとなりにはカメラ機能があって、先生や大人のスタッフの顔や表情を見ることもできます。子どもたちに関わる人の顔を見せることは安心感につながります。また、慣れてきたら子どもたちにもカメラをつけてもらい表情を見て観察していきます。
「メタバース登校」が自信につながる
吉田さん:家から出られない子に、まずメタバース空間に来てもらい、ゲーム感覚でメタバースに興味を持ってもらいます。
はじめは空間に入るだけでもいいんです。そこからだんだんと支援員や先生と話をするようになり、レクリエーションを通して文字チャットなどで会話をしたりするうちにメタバース空間に毎日通えるようになって、それが自信につながる。
レクリエーションを子どもたちに企画してもらうこともありますが、まわりから評価されることでモチベーションにも繋がり、コミュニケーションを楽しむようになります。だんだんと外の世界にも出るようになり、午前中は学校に行き、午後はメタバース空間にアクセスするというように自分のスタイルで学んでいる子もいます。
学校の先生からは、「指導教室に通えなかった子どもがメタバース空間に通うようになって楽しく過ごせるようになった」とか、「表情が明るくなった」など嬉しいご報告をいただくこともあります。また、「メタバースで慣れた子どもが適応指導教室への登校ができるようになった」など、をいただいています。
ここをきっかけに外の世界に飛び出してほしい
吉田さん:メタバース空間での活動が出席日数に換算されるかどうかは校長先生の判断で決まります。そのためお住まいの区やお通いの学校によって、判断が分かれてくるところですので、一概には申し上げられませんが、このメタバース空間の中では城南進学研究社のデキタスというデジタルドリルを提供しています。
この学習支援コンテンツに取り組んだ時間を出席日数に換算する学校もあるのです。問題を解いている時間や、取り組んだ内容を管理者(先生など)が見ることができ、メタバース空間への登校中の子どもの頑張りが見える化される仕組みになっています。
ある学校では、はじめの一歩として活動したことを褒めてあげたいという想いもあり、勉強・コミュニケーションをしている記録があれば出席と認めるようにしているそうです。
メタバース空間は、他者と関わる場所づくりがひとつ大きな目的で、このメタバース空間での体験をステップに、新たな学びに繋がるように支援していきたいと考えています。
新しい選択肢が増えたことで広がる可能性
子どもたちの新たな居場所として注目されている、メタバース空間。ここをゴールとするのではなく、外の世界へ飛び出す準備の場所としてこれから広がる可能性に期待していきたいですね。
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取材・文/やまさきけいこ