アトピー性皮膚炎や食物アレルギーのお子さんの数は年々、右肩上がりになっており、学校や保育園、幼稚園でも対応に追われているという話をよく耳にします。長年アレルギー疾患の子どもたちを1万人以上診断し、園医、校医としても活躍、またご自身のお子さんもアレルギー疾患に悩まされた経験をお持ちのあゆみクリニック(埼玉県春日部市)院長・藤川万規子先生に、ママの3大お悩みに対する答えを聞いてみました。第一回は「子どものアトピーはいつ治るの?」です。
目次
まずはきちんと知っておこう、アレルギー3種類
そもそも、アレルギーとは?
私たちの体には、有毒な細菌やウィルスなどの病原体から体を守る「免疫」という防衛システムがあります。 しかし、この免疫が花粉、ダニ、ホコリ、食物に対して過剰防衛反応を起こすのがアレルギーです。その結果、鼻水やくしゃみ、じんましんなどの「アレルギー反応」を起こすのです。 アレルギーの種類は、その侵入経路から大きく分けて3つです。
①口から摂り入れて起こるアレルギー(経口アレルギー)
食物アレルギー(卵・乳・小麦・そば・ピーナッツなど)、薬物アレルギー 、アトピー性皮膚炎(経口だけでなく吸入でも起こり得る)
②空中の飛散物で起こるアレルギー(吸入性アレルギー)
花粉症(スギ・カモガヤ・ブタクサなど)―鼻炎や結膜、気管支喘息(ダニ・ハウスダスト・花粉・犬や猫の毛など)、アトピー性皮膚炎(吸入だけでなく経口でも起こり得る)
③皮膚接触で起きるアレルギー
金属アレルギー 、ラテックスアレルギー 、漆かぶれ
アレルギーが発展して起こる、4つの疾患のひとつが、「アトピー性皮膚炎」
アレルギーは遺伝的な体質が関わっていますが、その体質に加えて、食生活の西洋化、食品添加物の増加、工場の煤煙や車の排気ガスなどの大気汚染の問題といった生活環境の変化がアレルギー疾患の原因となり、現代のアレルギーで悩む人が増えています。 経口、吸入アレルギーによる疾患は、症状より大きく四つの疾患に分けることができます。
①食物アレルギー
②アトピー性皮膚炎
③気管支喘息
④アレルギー性鼻炎
食物アレルギーは経口アレルギーですが、症状が重くなると呼吸器にも症状が出ます。アトピー性皮膚炎は皮膚の症状ですが、吸入アレルギーだけでなく乳幼児は経口アレルギーによることが多いのです。 食物アレルギーといっても、年齢によって起こりやすい特徴的なタイプがあります。このアレルギー反応のなかで最も注意しなければならないのが、即時型アレルギーの症状が多臓器に起こるアナフィラキシーショックです。急激に全身の血管が拡張して死に至ることもあるので、アレルギーの症状や治療を学ぶ過程で、必ずアナフィラキシーショックとその対処法については知っておかなければなりません。食物アレルギーの症状が出る可能性のあるお子さんは必ず医師と相談し、エピペンⓇを常備しておいて下さい。
遺伝的にアレルギーを起こしやすい体質も
遺伝的にアレルギー反応を起こしやすい体質を「アトピー素因」といいます。アトピー素因があると、乳児期には食物に反応しやすく、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎の症状が現れ、幼児期、児童期になるにつれ、ダニや花粉などの吸入性アレルギーの症状として気管支喘息やアレルギー性鼻炎が現れやすい傾向があります。このように成長とともにアレルギー症状が変わったり、積み重なっていったりすることを「アレルギーマーチ」と呼んでいます。
※アナフィラキシーショック 特定の起因物質により引き起こされた全身性のアレルギー反応で、短時間で強い反応が現れ死に至ることもある。
※エピペンⓇ アナフィラキシー症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療に使用されるアドレナリン自己注射製剤。
注意が必要なアレルギーマーチ
遺伝的にアレルギー反応を起こしやすい体質を「アトピー素因」といいます。アトピー素因があると、乳児期には食物に反応しやすく、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎の症状が現れ、幼児期、児童期になるにつれ、ダニや花粉などの吸入性アレルギーの症状として気管支喘息やアレルギー性鼻炎が現れやすい傾向があります。このように成長とともにアレルギー症状が変わったり、積み重なっていったりすることを「アレルギーマーチ」と呼んでいます。
子どものアトピーが治る年齢のめやすは?
早い子で1歳半、遅くても6歳頃までには治ることが多い
生まれて間もなく乳児湿疹が出現し、食物アレルギーがあると、原因食物に対する耐性ができるまで、湿疹が続くことがあります。私自身も子どもが1歳半過ぎまで湿疹が続いたので不安になった時期があります。けれども、正しく治療すれば早い子は1歳半過ぎくらいに、遅い子でも6歳頃までには小児のアトピー性皮膚炎は治ります。大切なことは、大人のアトピーに移行させないことです。大人のアトピーに移行させないためには、以下のことに気をつけましょう。
子どものアトピーが治る、4つの方法とは
●経口減感作療法
経口減感作療法で原因食物への耐性を獲得させる。
●環境因子に気をつける
環境因子(窒素化合物などを含んだ悪い空気、紫外線、食品添加物等)に気をつけ、活性酸素を増やさないことを心がける
※食品添加物 食品製造の際に添加する物質のこと。合成保存料、合成着色料、酸化防止剤、甘味料、香料など。 ※活性酸素 酸化力の強い酸素のことで、老化や病気の原因になるという物質。活性酸素を増やさないことを心がける。
●ビタミンやミネラルをしっかり摂る。
野菜や果物から摂れる良質なビタミン、ミネラルをしっかり補給し、強いからだを作ることが不可欠。
●乾燥対策と正しいスキンケア
湿疹の管理をきちんとして、正しいスキンケアを心がける。
子どもの気管支喘息は、いつ治る?
小児喘息のほとんどは小学校卒業までに治る
3歳未満の場合は、気管支自体が細く、そこに感染などの要因が加わり、喘息様気管支炎という状況がよく起こりますが、3歳以上の子どもで風邪をひいていないのに喘鳴が起きるのは、ほとんどが気管支喘息です。小児喘息のほとんどは小学校卒業までに治ります。 一方で、大人の気管支喘息にはアレルギー性のものとそうでないものがあります。アレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)がわからないものを非アトピー型(非アレルギー型)といいますが、風邪、過労、ストレスやタバコの煙、工場の煤煙などの刺激が原因で起こるといわれています。
大人の食物アレルギーに移行しないよう、注意が必要
大人のアレルギーの原因は多岐にわたる
子どもの食物アレルギーは食物減感作療法によって耐性を獲得しやすい、つまり治りやすいアレルギーであることに対して、大人の食物アレルギーは、子どもの頃のアレルギーをそのまま持ち越す場合と、大人になって突然発症する場合があります。毎日同じ物を食べることによって起こるケースもあります。大人のアレルギーの原因は多岐にわたるので、ストレスや便秘に気をつけ、毎日同じ物ばかり食べないようにします。 減感作療法という治療法は大人の食物アレルギーには当てはまりませんが、ある程度の少量は食べられることが多いので、一度にたくさん食べないように注意するなど留意しながら、うまく食物アレルギーとつきあうことが、大人のアレルギーの対処法といえるでしょう。
お話を伺ったのは…
藤川 万規子先生
あゆみクリニック(埼玉県春日部市)院長。1985年東邦大学医学部卒業。民間病院勤務を経て2000年に内科、小児科の「あゆみクリニック」を開院。これまでに1万人以上の子どもを診察。園医、校医としても活躍。医師、母親、両方の立場からの親身なアドバイスが反響を呼び、地元ではもちろん、遠方からも来院する患者が後を絶たない。「命の大切さ」を子どもたちに伝える授業や講演活動も積極的におこなっている。
出典:『即、役立つ 治療とケア 治せる!楽になる! 子どもアレルギー診察室』
本の中にはアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど、ママが気になるアレルギーへのお悩みがQ&A形式でたくさん掲載されています。ぜひ手にとってみてください。
イラスト/松永えりか 写真/繁延あづさ 再構成/HugKum編集部