2/3の氷河が消えている北極。世界の国々が虎視眈々と狙うのは? 北極をめぐる対立構造をひもとく【親子で語る国際問題】

今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は世界から関心が集まっている北極について学びます。

2/3の氷河が消え、生態系が破壊されている北極

一年中氷河に覆われ、人々が近づかないイメージが強い北極。地球温暖化による影響はさまざまな地域で顕著に見られますが、北極の気温上昇は地球全体の4倍もの速さで進行し、この35年の間に北極全体の氷河は3分の2が消えたとも言われています。

それにより、ホッキョクグマの生活する場所がなくなったり、痩せ細ったホッキョクグマが目撃されたりと、北極の生態系は破壊されつつあります。

北極で何が起こっているかについて、国際社会はもっと真剣に考えていかなければならないわけですが、一方で、新たな大国間競争の場所になりつつあります。

北極海を通る航路の開拓や資源に注目が集まる

北極の氷河面積が縮小することで、国際社会の間では北極海航路の開拓、北極海に眠る資源への注目が集まっています。

例えば、アジアと欧州を結ぶ海上貿易路を考えた場合、東京・ロンドンの間ではスエズ運河経由でもパナマ運河経由でも片道2万キロを超えますが、北極海を航行するルートだと1万6000キロほどになり、大幅なショートカットになります。

ブリザードなど、北極の厳しい気象条件を考えると決して安全な航行ルートとは言えませんが、かかる日数や輸送燃料費などからすると北極海航路は極めて魅力的な選択肢となるでしょう。

また、各国の間でエネルギー資源をめぐる獲得競争が激しくなる中、北極海には世界で未発見の石油13%、天然ガスの30%があるとも指摘され、諸外国は北極へのアクセスを強化しようとしています。

北極への関与に積極的な中国

冷戦以降、北極海の管理については1996年のオタワ宣言に基づき、その沿岸8か国の米国、カナダ、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアが主体的な役割を担ってきました。

これまで、世界では米国が他国を圧倒する国力を持っていたので、米国と対立するような大国は存在せず、北極海の管理について大国間対立のようなものはありませんでした。

しかし、21世紀以降、中国は大国として台頭するにつれて北極への関心を強めるようになり、2018年1月には初めて北極白書という、中国が北極にどう関与していくのかという文書を公表。経済的利権を獲得するためでした。

北極海に領海や排他的経済水域を持つ国は、米国とロシア、カナダ、ノルウェー、デンマークの5カ国。この5カ国が中心となる北極評議会で北極海の行方について話し合ってきましたが、中国はオブザーバー国として長年これに参加し、北極開発のルール作りで影響力を高めようとしています。

また、中国はロシアやノルウェー沿岸、アイスランドやデンマーク領グリーンランドなどへの投資を拡大したり、独自の砕氷船で北極海横断を成功させたりするなど、北極への積極的な関与を見せています。

「北極海を新たな南シナ海にしてはならない」米国は中国をけん制

中国の北極への積極的な関与に対し、米国は警戒を強めています。

例えば、米国のポンペオ国務長官(当時)は2019年5月、訪問先のフィンランドで北極海を巡る情勢について演説し、「北極に諸外国の関心が集まっているが、関係各国は共通のルールに基づいて行動するべき」との認識を示し、「北極海を新たな南シナ海にしてはならない」と中国を強くけん制しました。

ロシアによるウクライナ侵攻により、北極評議会の中の7か国がNATOに加盟

北極を巡って米中の間で亀裂が見える中、2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻により、大国間の対立もエスカレートしています。

ウクライナ侵攻直後の一昨年3月、ロシアを除く北極評議会の7か国はロシアとの協力を停止することを発表しました。

その後、ロシアと1000キロ以上にわたって国境を接するフィンランドとスウェーデンが相次いでNATOに加盟し、それによって北極評議会ではロシア以外は全てNATO加盟国となりました。

北極の資源に触手を伸ばしたい中国は、今後ロシアとの関係を強化すると考えられます。両国は2023年4月に北極海の沿岸警備で協力を強化することで合意し、両国の艦船が米国アラスカ州のアリューシャン列島付近の海域で大規模な哨戒活動を行うなどしており、資源獲得を目指した大国間の対立は北極でも顕在化しているのです。

この記事のポイント

①北極の氷河面積が縮小することで、国際社会の間では航路の開拓、北極海に眠る資源への注目が集まっている

②中国は「氷上のシルクロード構想」を打ち出し、北極への積極的な関与を見せている

③米国は中国をけん制。また、ロシアによるウクライナ侵攻により、北極評議会の中でもロシアとその他の国々との対立構図が顕著になっている

記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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