「おもしろい!が世界を変える」子どもの頃から生き物が大好きな松浦京佑さんが、海の子ども研究員を育てる仕事につくまで

海を再現した水槽を使って、子どもたちにさまざまな海の環境や生き物の不思議を教えている株式会社イノカの松浦京佑さん。
子どもの頃から生き物が大好きで、海に出かけてはいろいろなものを飼育してきました。そこから研究者になるのではなく、ベンチャー企業で子どもたちを育てる海の教育者という道を選び、最年少の20歳で入社、会社の取締役・教育事業部長となりました。
松浦さんが子どもの頃からどんなことを考え、どんなことを学んできたのか、お話を伺いました。

 生き物が得意でなかった両親も「好き」を応援してくれた

――幼少期の松浦さんは、どんな子どもだったのですか?

 とにかく生き物の好きな子どもでした。僕のおじいちゃんが生き物好きで、メダカや金魚を入れた池をたくさん作ったり、いろいろなものを育てていたんです。自然のある場所にもよく連れて行ってもらったことから、僕もだんだん生き物好きになっていきました。海に行った次の週は、いろんな人たちに「こんなの採ってきたんだよ」「この生き物おもしろいんだよ」と話していました。

中学の頃、海に生物観察をしに行ったとき、潮だまりにたくさんの生き物がいて、まるで水槽みたいに色とりどりの生き物たちに感動したことは、特に記憶に残っています。「なんでこんな動きをするんだろう」とか「家に持って帰って飼育すると全然うまく飼えないのはなんでだろう」とか、疑問に思うことはたくさんあって、そういうひとつひとつの経験が鮮烈でした。

 ですが、両親は全然生き物好きじゃなかったんですよ。それでも僕の好きなものを否定せず、追求できる環境を作ってくれました。海に連れて行ってくれたり、水槽を買ってくれたり。

なんでもわがままを叶えてくれたわけではなくて、ちゃんと続けられるのか、それは本当にやりたいことなのかも聞かれました。でも熱意をもって説明できれば、反対されることはなかったですね。企画展などもよく連れて行ってくれて、そういう経験は今でも記憶に残っています。

研究者より子どもたちに伝えていく仕事をしたい

――海洋生物の研究者になりたいと思ったことは?

 生き物の生態研究ももちろん魅力的ですが、勉強していくうちに「僕は研究したいわけじゃないんだな」と気づいたんです。それより生き物をどう見せるかというおもしろさに一番惹かれていました。好きな生き物と一緒にいたいという気持ちや、それをみんなに伝えたい、届けたいという思いが大きかったですね。生き物係をしていたときも、その生態をクラスのみんなに発表したり、自分が 知っていることや知識を、文章ベースで伝えることが昔から好きだったように思います。

高校を卒業したら、自分の好きな海に関われる仕事をしたい、そこに最短距離で行けるところを考えたら、専門学校という選択肢でした。業界とのおもしろい出会いもあるんじゃないかと思って、TCA東京ECO動物海洋専門学校という水族館の飼育員などを育てる専門学校で水族館アクアリスト専攻に入学しました。

 ――いまの仕事につくきっかけは何ですか?

 専門学校で、インターンプログラムに参加したことです。イノカは海の教育事業を行っていて、「教育として伝える」というおもしろさを知ったのはインターンを経験してからでした。「海洋教育」や「環境教育」というキーワードを知って、ここなら人生を通して自分がやりたいことができるんじゃないかなと思えました。

当時、イノカは起業して3年目ぐらいだったので、そもそも役員と社員含めて4人しかいませんでした。教育プログラムを作るときは、インターンの僕も一緒に基礎を作るところから参加しました。壇上で子どもたちに話す講師役も、インターン時代からもうやってましたね。

おもしろい!と感じることが人を動かすと実感

 ――イノカの教育プログラムは、”秘密研究機関イノカ”の見習い研究員になろう!というところからスタートして、子どもたちをぐっと惹きつけていましたね。

 教育目標として「おもしろい!を原動力に世界を変える人を育てる」ことを掲げています。子ども自身が好きなもの、おもしろいものは、熱意を持って取り組むことができるし、それが人を動かすところがあると思っているんです。

 たとえば、教育プログラムのひとつであるサンゴ礁ラボでは、サンゴの餌について学びます。図鑑では「サンゴはプランクトンを食べる」と紹介されていますが、もっとおもしろく学べないかと思い、チーフアクアリウムオフィサー(CAO)の増田と相談をしました。増田が「クサビライシというサンゴは食べる姿がおもしろいよ」と言うんですね。真ん中にある口まで食べ物を移動させて持っていく姿を見て、これは子どもたちに観察してほしい!と思いました。

そこで、子どもにも身近なご飯やおかずをサンゴに食べてもらうのはどうかと思ってラボで試してみたら、豚肉は口に運ぶのに、豆腐は食べないなどの生態が見えてきたんです。

生き物好きのアクアリストや研究者たちと話をしていく中で、子どもの興味をひく教育プログラムのヒントをもらっています。

子どもたちにサンゴの給餌実験を体験してもらう松浦さん

イノカのメンバーは個性的な生き物好きが集まっていて、自宅に巨大なサンゴ水槽があったり、マングローブ林があったりするメンバーがいるんですよ。イノカが取り組んでいるサンゴ礁やマングローブなどの保全技術も、誰かに頼まれたわけではなく、好きを追求して生まれた技術がビジネス的価値を生み出しています。好きなものを守るためにはどうするか、真剣に考えるんです。

子どもたちにも、好きだな、おもしろいなと思った気持ちを、もっと追求していってもらいたいと思っています。好きを追求することが、こんなにも社会の発展、地球の発展というところに繋がっていくんだよ、というのを実感できるようなプログラムを日々意識していますね。

好きなことなら、もっともっと学びたくなる

――好きを仕事につなげて考えるために、勉強は必要だと思いますか?

僕は勉強は好きではなかったですが、自分の「好き」にどんなふうに繋がるかと常に考えて勉強できれば、関心を持ちやすかったのではと思います。海外の生き物を見るためにもっと英語をやっておけばよかったとか、研究者の話を聞いたときに、もっと数学や理科の予備知識があれば理解できたと感じることは多いです。正直なところ今が人生で一番勉強している気がします。

でも僕は常に、そのとき番おもしろいと思えることをやってきたつもりなので、その感覚は大事にしています。おもしろいからもっと知りたい、そのためにこれが絶対必要だと、取捨選択してきたものはとても強いと思います。そういうものを持てる体験を子どもたちに届けたいです。

いまやっている教育プログラムでは、楽しかっただけで終わらずに、自分の立てた仮説が違ったという経験、そこから次はどうしようと考える考察などを通して一緒に研究したいと思っています。その先に、新しいデータが生まれて、新しい技術に繋がるようなストーリーを追いかけられたらいいなと思って作ったプログラムです。実験で知識と違うことが起こることもありますし、匂いなど五感で生き物を感じることができるのは、本物があるからこそ届けられる体験かなと思っています。

――本物を届けるために工夫していることはありますか?

僕が仕事をしているイノカという会社は、海にある環境を切り取って、別の場に再現できる「環境移送」という技術を持っているベンチャー企業です。

環境移送技術は、水槽の中に海を再現することができるので、たとえば海の研究をしている人がどこでも研究できるようになります。具体的には、その海の環境を分解研究して、人工海水を使って成分を近づけたり、砂の粒度を合わせたり、いろいろな項目をクリアして、水槽の中に海を再構築します。

そういう技術を通せば、もっと手軽に環境教育ができます。環境教育というとちょっと難しそうですが、実際に本物に触れ、楽しく学んでもらえるプログラムを全国に届けることにチャレンジしています。

会社はたくさんの水槽が置かれたショールームにもなっている。研究室にも水槽がいっぱい

――これからやってみたい夢は何かありますか。

子どもたちに、自分自身で水槽を作ってもらって、自分で仮説を検証するプログラムはもっと作っていきたいと思っています。1人ずつの仮説を聞いて、こんな生き物を育ててみたい、こう育てたいといったところを聞いてみたいです。大人のアクアリストや研究者とディスカッションして、地球貢献に繋がるプロジェクトがつくれたらいいですね。僕らがサポートしながら、一緒におもしろい研究をやれたらいいなと思っています。

松浦京佑(まつうら・きょうすけ)

株式会社イノカ 取締役

2002年生まれ。神奈川県出身。TCA東京ECO動物海洋専門学校 水族館・アクアリウム専攻卒業。専門学校1年生の冬から「サンゴ礁ラボ」運営インターンとしてイノカに関わり、202210月、最年少の正社員として20歳で入社。イノカの掲げる環境エデュテインメントの拡大に貢献し、20235月より教育・イベント事業部長に就任。「世界中の人々の笑顔を10%増やす」を目標に、笑顔で奮闘中。

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取材/日下淳子 撮影/横田紋子(小学館写真室)

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