※ここからは『あなたが学校でしあわせに生きるために 子どもの権利と法律手帳』(子どもの未来社)の一部から引用・再構成しています。
Q:いじめの傍観者はいじめている人と同じ?
学校で、先生から、「いじめを見ているだけの人はいじめているのと同じ」と言われました。本当ですか。
A:いじめに気づいたからこそ、できることがあります
「いじめを見ているだけの人はいじめているのと同じ」という話は、聞いたことがあると思います。では、「いじめを見ている人」はどんなことができるのでしょう。また、むずかしいこととは何でしょう。
まずは、いじめの構造から見ていきましょう。
いじめの四層構造って?
いじめは「四層構造」であるとよくいわれます。私が行っている「弁護士による、いじめ予防授業」では、これを「ドラえもん」 の登場人物にたとえて話をします。
加害者/いじめる人→ジャイアン
被害者/いじめられる人→のび太
観衆/いじめをはやし立てる人→スネ夫
傍観者/いじめを見ている人→しずか
ちなみに、観衆を含まず、加害者・被害者・傍観者の3つに分ける考え方もあります。
傍観者はいじめている人と同じではない
ここでは、傍観者(いじめを見ている人)について考えていきます。
もしも、傍観者は必ずいじめを止めるべきだ、という意味で、止めないならいじめているのと同じ、と言われているのなら、それは私はちがうと思います。
いじめを止めに入る、というのはとてもむずかしいときがあります。いじめている側が大勢であるときや、いろいろな意味で力が強いとき、あなたはいじめを止めに入ることができるとはかぎりません。
止めに入ったら、自分が今度はいじめられる側になるかもしれない、そうでなくてもクラスの中でイヤな思いをするかもしれない。そういった心配は、むしろ当たり前のことです。
この心配を、どんなときでも乗りこえて、止めに入らなければならないとしたら、それはムリなことを求めていると思います。それができない人を、「いじめているのと同じ」と言って非難するのは、言いすぎだと私は思うのです。

いじめを止める以外にできること
では、傍観者は止めに入ることができないときは、だまって見ているだけなのでしょうか。
よく考えてみると、いくつかできることがあります。みなさんもいっしょに考えてみてください。ここに書いてある以外のことでも、できることがあるはずです。
●先生に相談する
いじめられている人は、先生に相談するのをためらうことがあります。「お前、チクっただろ」と言われ、よけいにいじめがひどくなることをこわがっているのです。
では、傍観者はどうでしょう。
傍観者は、いじめられている人とちがい、だれが先生に相談したか特定されません。特定されないように、先生に、「私が言ったということはないしょにしてください」と、お願いしておくとよいでしょう。
●いじめられている子に「ひとりじゃないよ」と伝える
いじめられている人は、ひとりぼっちだと思いこみがちです。だれも助けてくれない、だれも味方がいない、と思ってしまいがちです。そんなとき、味方がいると気づかせてあげると、大きな勇気を与えることができます。
直接話すのがむずかしければ、電話でもいいし、LINEなどのアプリを使って元気の出るスタンプを送るのもいいでしょう。
「みんなの見ている前では助けてあげられなくてごめんね、でも、いつもあなたのことを心配しています」
そういったメッセージで、「あなたはひとりぼっちじゃないよ」と伝えてみてください。きっと、いじめられている人は大きな勇気をもらうことになるはずです。
いじめを受けたら、学校はどんなことをしてくれるの?

いじめ防止対策推進法には、学校のやるべきこととしてたくさんのことが決められています。
一部ですが、重要なものを以下に記します。
*いじめ防止基本方針の策定(いじめ防止対策推進法(以下「法」)13条)
学校は、いじめにどう対処するかなどの方針を、「いじめ防止基本方針」にまとめなければいけません。ほとんどの学校では、この基本方針は学校のホームページに掲載されています。あなたの学校の方針を見てみてはいかがでしょうか。
*組織等の設置(法22条)
学校は、いじめの防止等の対策として、組織を設けなければいけないとされています。
構成員は、複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者、とされています。複数の教職員には、校長、副校長(教頭)などの管理職、生徒指導担当、学年主任、養護教諭、部活動担当などが考えられます。心理・福祉等に関する専門家としては、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、弁護士、医師などが考えられます。
その他の関係者としては保護者代表、児童生徒の代表、地域住民などが考えられます。
*学校への通報等
学校の教職員は、いじめの相談を受けた場合で、いじめの事実があると思われるときは、学校への通報その他の適切な措置をとらなければいけません(法23条1項)。
*事実の確認と報告
学校は、いじめの通報を受けたときその他学校の子どもがいじめを受けていると思われるときは、すぐに、いじめの有無の確認を行わなければなりません。また、その結果を、学校設置者(公立の場合は教育委員会、私立の場合は学校設置法人、国立の場合は国)に報告しなければなりません(同条2項)。
*いじめを止める
学校は、調査の結果いじめがあったと確認できた場合には、いじめをやめさせ、再発を防止するため、複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、
ア いじめられた子どもやその保護者に支援をおこなうこと
イ いじめた子どもには指導をし、又はその保護者に対してアドバイスすること
を継続的に行わなければいけません(同条3項)。
*安心して授業を受けられるようにする
学校は、必要なときは、いじめをした子どもに、いつもの教室とは別の場所で授業を受けさせるなど、いじめられた子どもやそのほかの子どもが安心して授業を受けられるよう、必要なことをしなければならなりません(同条4項)。
*警察との協力
学校は、いじめが犯罪に当たると考えたときは、警察と協力していじめに対応します(同条6項)。
LINEなどを使ったいじめについての対処法は?

LINEなどを使ったいじめが増えてきています。特に、小学生から中学生、高校生と上がっていくと、いじめ全体に占める割合が上がっていきます。
令和4年度の文部科学省調査では、いじめ全体のなかで、「パソコンや携帯電話等で、悪口を言われたりイヤなことをされる」の割合は以下のとおりとなっています。
*小学生 1.8%
*中学生 10.2%
*高校生 16.5%
LINEなどのコミュニケーションアプリは、とても便利ですが、その分、いじめが生まれやすいものでもあります。特徴としては、次のようなことがあります。
・短い言葉だけのやりとりなので、かんちがいから相手をおこらせることがある
・おとなの目につきにくい
・言葉がぽんぽんやりとりされるのでエスカレートしやすい
・ボタン一つで仲間はずれにすることができる
・家に帰っても終わらない
こういったいじめは、どうすればよいのでしょうか。いくつかやれることをあげてみましょう。
①悪口やひどい言葉を書かれたら、スクリーンショットで保存しておく
(ふつうのいじめよりも、記録が残りやすいので、残しておく)
②家の人と話して自分の家でのルール「夜○時をすぎたらスマホをいじらない」などを作り、そのことを友だちにも伝えておく
③すぐに返事をしなければならない、既読スルーは失礼だ、といった変なルールにしばられない
(返事をするのは自分の都合のよいときでいいのです。いつもすぐ返事する必要はありません)
④LINEのやりとりで話がこじれそうになったら、顔を合わせて話し合う
などです。一度、ためしてみてはいかがでしょうか。
ひどすぎるな、自分では解決できないな、と感じたら、早めに学校の先生や保護者に伝えましょう。
※ここまでは『あなたが学校でしあわせに生きるために 子どもの権利と法律手帳』(子どもの未来社)の一部から引用・再構成しています。
『あなたが学校でしあわせに生きるために 子どもの権利と法律手帳』(子ども未来社)
長年スクールロイヤーとして「いじめ問題」に取り組んできた弁護士が、子どもたちに「しあわせに生きる権利」があることを伝え、学校で人権が踏みにじられそうな時どうしたらよいかを、子どもの権利と人権の面から具体的に対策をアドバイスします。困ったときにはぜひこの本を開いて活用してください。
平尾潔(ひらお・きよし)
早稲田大学法学部卒。サラリーマンとして働く傍ら、司法試験を目指すようになり、2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。以後、一貫して子どもの権利に関する分野に携わる。「弁護士による、いじめ予防授業」を単身で始め、ライフワークとなっている。現在、日本弁護士連合会子どもの権利委員会幹事、第二東京弁護士会子どもの権利に関する委員会委員、世田谷区子どもの人権擁護機関子どもサポート委員、子どもいじめ防止学会会員。少年野球チームサクラ野球クラブ代表。著書に『いじめでだれかが死ぬ前に』(岩崎書店)。
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構成/国松薫