台湾に進出する日本企業が減少
近年、米国と中国の間では、スーパーコンピューターやAIに欠かせない先端半導体を巡って覇権競争が激しくなっていますが、世界の半導体市場を席巻するのが台湾です。
TSMCといった台湾の半導体企業は最先端を走っており、TSMCは熊本に半導体製造工場を作り、半導体分野での日本と台湾の関係も強固なものになっています。
半導体は自動車やテレビなどあらゆる製造品に欠かせないもので、先端分野であるこの半導体を巡って、国家間の競争はいっそう激しくなることは間違いないでしょう。日本にとって台湾の重要性は高まるばかりです。

しかし、帝国データバンクが昨年11月に発表した企業統計によりますと、昨年7月の時点で、台湾に進出する日本企業は2022年に3,124社に達したものの、昨年は4.4%減少の2,988社となりました。
台湾へ進出する日本企業は近年増加傾向にありましたが、今回の減少の背景には何があるのでしょうか。
中国との軍事的緊張が高まり、エアガンの使い方を学ぶ若者も
企業によって事情が異なるので、
2022年8月、当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問し、それにより中国が台湾本土を包囲するような大規模な海上軍事演習を初めて実施。大陸側から複数の弾道ミサイルが発射されました。中国・台湾間の軍事的緊張はそれ以前からも続いていましたが、台湾を包囲するような海上軍事演習、中国大陸から発射された弾道ミサイルが日本のEEZにも着弾したという事実により、日本企業の間では台湾有事(たいわんゆうじ:中国による軍事侵攻など台湾で紛争が起きること)をめぐる懸念が広がっていきました。
また、時期をほぼ同じくして、台湾国内でも有事への備え、市民の警戒感が行動として顕著に現れるようになりました。
例えば、台湾市民の間では軍隊に入隊する需要が広がっており、有事に備えた退避対策や自己防衛対策、食糧の蓄えや応急手当などのノウハウを身に付けようとする動きが活発化しています。
また、台湾の警備会社の売り上げが右肩上がりとなり、若者たちが警備会社主催の軍事訓練に参加し、エアガンの使い方などを学ぶ機会が増えています。
台湾政府は防空壕の探し方など市民向けハンドブックを提供

台湾政府も有事を想定した備えを強化し、2022年4月には中国による軍事侵攻に備えて民間防衛に関する市民向けハンドブックを発表しました。
このハンドブックには、スマートフォンアプリを使った防空壕の探し方、水や食料の補給方法、救急箱の準備方法、空襲警報の識別情報などが記述されており、有事の際に市民が迅速な対応が取ることが期待されています。
2023年4月にも、
台湾には日本統治時代の防空壕も残っており、建築法でマンションや工場、学校や映画館など5~6階以上のビルに防空壕の設置が義務づけられ、台湾全土で10万以上の防空壕が存在するとされます。
この2年間で台湾に進出する日本企業の数が150社近くも減少した背景には、台湾有事をめぐる軍事的緊張、台湾社会の変化というものが影響していることが考えらます。
この記事のポイント
①日本にとって台湾の重要性は高まっているが、日本企業の台湾進出は減少傾向
②背景には、台湾と中国の軍事的緊張がある
③台湾政府や市民は、有事を想定して対策を行っている
記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。
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