「不安は怒りでは解消されない」子どもへの怒り、その本当の感情に向き合うために【心理学・脳科学の観点から識者が指摘】

普段から勉強や宿題を自らしない子どもにイライラ! 思わず「ゲームの前に宿題やりなさい!」「勉強しなさい!」などと怒鳴ってしまい、後から罪悪感にかられるなんてことはよくあること。そのイライラや怒りの感情の裏にあるのは「子どもの将来への不安」かもしれません。けれども心理学的に考えると、不安は怒りでは一向に解消されないと言われます。ではどうすれば?

今回は、『子育てママに知ってほしい ホンモノの自己肯定感』の著者でリザルトデザイン株式会社の代表取締役である井上顕滋先生に、心理学と脳科学の観点から子どもへのイライラとその背後にある不安という感情にうまく対処する方法をうかがいました。

怒りやイライラをぶつけるのはやはりNG!子どもへの影響は?

(以下、井上先生談:)幼い頃からしっかりと愛情を感じて、親に対する信頼感が固まっている場合は、親の怒りやイライラが自分に向けられた場合でも「優しいお母さんがこれほど怒ることを自分はしたのだ」と解釈できるので、それほど問題にはなりません。

問題となり得るのは、幼い頃から親がかなりの頻度で「子どもにイライラしている」「子どもに怒りをぶつける」ケースです。この場合は子どもがそのイライラや怒りに対して「自分の行動や選択がお母さんを怒らせている」という解釈にはなりにくく、「自分は愛されていないから(わたしのことが大切じゃないから・ぼくより弟のほうが大事だから)、こんなに怒られるんだ」といったような歪曲(わいきょく)した解釈をしやすくなります。

こうした解釈をしてしまうと、無条件に自分を肯定する感覚である「自己肯定感」が確実に下がります。自己肯定感は親から受ける無条件の愛情が最も重要で影響が大きいため、注意が必要です。後から努力によってさまざまな結果を残し、自分には“できる”という感覚である「自己効力感」によって表面的な自信を獲得することはできても、心の深いところが不安定になります。

また親から自分に向けられる怒りは「恐怖」だけでなく「悲しみ」も生み出します。自分なりの言い分がある場合は「怒り」も生み出します。それをその場で、子ども自身が感じられればそれほど問題にはなりませんが、多くの場合、感情を内側に溜め込み、その溜め込んだネガティブな感情が長期間にわたってさまざまな問題を引き起こすということを知っておいていただきたいです。

子どもが心理的な問題を抱えるというのは親にとって深刻な問題であると考えます。

怒りやイライラの感情の裏にある本当の心とは?

(井上先生:)「子どもによって自分のスケジュールが乱されるストレス」や「何度言っても子どもが言うことを聞かないことによる、自分が馬鹿にされているような感覚」から純粋な怒りを感じるということもよくあります。

しかし、子どもを心から愛している親が「イライラ・怒り」を感じる場合は、子どもの将来に対する不安や、自分の言葉を受け取ってくれない悲しさが「本当の感情」であるケースがほとんどです。

例えば勉強をしない子どもを見て、「将来、こうなってしまうのではないか?」と望まない未来を想像して不安になり、その不安を「怒り」として表現してしまうといったことはよくあります。

子どもへ「怒り」を感じたら「本当の感情」にアクセスする

(井上先生:)怒りを感じたときに、まずは「私は今、何が不安なの?」「何が悲しいの?」と自分自身に質問してみてください。そうすると「本当はこれが不安なのだ」「本当はこれが悲しかったのだ」と気づくことができます。

その本当の感情にしっかりアクセスできれば、怒りの感情は消えているはずです。

そして、隠れていた不安や悲しみと向き合い、それをそのまま子どもに伝えたり、自分の中の感情を受け入れてしっかり感じたりすることで、心は軽くなります。

怒りは手放せても、不安は手放せないことが多いです。不安の原因がありつづける限り、簡単に手放せるものではありません。不安な状態があるのであれば、何によってその状態がつくられてきたのか、自分の過去のどのような選択・言動が子どもの今の状態をつくったのだろうかと分析し、そこから選択や言動を変えていくしかありません。

「怒り」の原因を考えてコントロールする方法も

(井上先生:)怒りは自然な感情なので、それほどネガティブに考える必要はありません。しかし、怒りに支配されて間違った選択をしてしまうことはよくありますので、そういう意味では怒りはコントロールできるに越したことはありません。

コントロールするには、まず怒りの原因がどこにあるかを考える必要があります。例えば「忙しすぎて心が疲れている」「寝不足で身体が疲れている」「運動不足で疲れやすい」「こうあるべきというマイルールが多い」「自分自身(親自身)の子ども時代の親の関わりから自己肯定感が低い」「(能力不足・人間関係・健康状態などで)仕事がうまくいかない」など、何によって怒りを感じやすくなっているのかを分析することが最初のステップです。

怒りは無理に抑え込んでも内側に「溜まる」性質がありますので、「原因を無視してとりあえず我慢する」という方法はおすすめできません。一時的な対処にしかすぎないからです。

怒りの原因がわかったら、その原因そのものをどうなくしていくかを考え実行していけば、より穏やかな毎日を送ることができるはずです。

まとめ~「イライラ・怒り」の背後にある本当の感情と向き合う

井上先生のアドバイス、いかがでしたか。とても実践的で、日頃の育児にすぐにでも取り入れられそうですね。

イライラや怒りを感じると、どうしても目の前の子どもや育児のネガティブな面ばかりに目がいきがちですが、それらの感情は、親自身の問題。ぜひ本当の感情と向き合って、穏やかかつ楽しい親子の時間を過ごしたいですね。

『子育てママに知ってほしい ホンモノの自己肯定感』

著者/井上顕滋(幻冬舎)定価1760円(税込)

教えてくれたのは

井上 顕滋 先生 | リザルトデザイン株式会社 代表取締役
最先端の心理学、脳科学を学び、それらを融合させることで人それぞれの持つ能力を最大限に引き出す、独自の能力開発メソッドを確立。2011年に、小学生を対象とする日本初の非認知能力専門塾Five Keysを設立。これまで指導した小学生の保護者は4万人を超える。

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構成・文/石原亜香利

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