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必要のない人間関係を捨てて子どもと向き合う時間を作った
川原卓巳さんの新書「人生は、捨て。」は、「どうして人は自分の生きたいように生きられないのか」と投げかけ、それは「たいして重要ではない事柄に時間とエネルギーを奪われるから」と、本当に大切なもの以外は捨てて、自分らしく生きましょうと提案。ものを捨てる、人間関係を捨てる、お金を捨てるなど、固定概念にとらわれない生き方のヒントが詰まっています。
――著書の中で、「必要のない人間関係を思い切って捨てて、お子さんとの時間を大切にしている」とありました。そうしたことでご自身や家庭において、良かったなと実感されたことはありますか?
川原さん:1番は子どもたちが「これ見て!」「ねえねえ、聞いて」って言うのに目と心を向けられて、ちゃんと向き合える時間が取れていることです。
とはいえ、携帯を見ながら仕事をしちゃうこともあるので「ねえ聞いてる?」って言われることもありますが、それでも子どもが “声をかけても大丈夫だ”って思えている状態を作れてるのはすごく良かったなと思いますね。
そうじゃないと、日中はずっとオンラインでミーティングすることになります。仕事面でも人間関係を減らしてるからこそ、出なきゃいけない会議にしか出ないし、最小のものだけにしてるのはよかったなと思ってます。
――それはお子さんが生まれてすぐ実践したことですか? それとも忙しい時期もあったんでしょうか?
川原さん:ありましたね。アメリカには今9歳のお姉ちゃんが0歳のときに移住したんですが、その翌月には次女が生まれたんです。なおかつ、当時は本(近藤麻理恵著「人生がときめく片づけの魔法」)が1000万部ぐらい売れていて、インタビューの依頼も多く来ていたので、正直今言ったこととは全く逆で仕事をしまくるしかなくて…。子どもにご飯をあげながら、イヤホンでミーティングをしている状態だったんです。
子どもが3歳ぐらいまではそれでもやれるけど、それ以降になると子どもが「これを見て!」「あれ見て!」と言うようになりますよね。それぐらいのタイミングで、やっぱりもっと身軽にしなきゃいけないなと、不要な人間関係や事柄をたくさん捨てていったっていうのが実態ですね。

――そうしようと思った心境の変化はあったんですか。
川原さん:コロナ禍が大きかったかな。オンライン化が進んで無尽蔵に仕事ができるようになったからこそ、働き方を変えなきゃなって思って。実際に減らしてみると、子どもがすごく楽しそうでうれしそうだし、僕としても子どもの成長をつぶさに見られている感じがしました。
うちの次女は自分で文章やキャラクターを考えて絵本を作っているんですが、最近ではそれをミュージカル風に再現して、晩御飯後に劇を行うように。そういうのを見てあげられるのは、仕事や人間関係を減らしているからで、豊かさを感じています。
――とは言え、減らしていくことに葛藤はなかったですか。
川原さん:ぶっちゃけあんまりなくて。それはすごく明確で、子どもが僕のことを好きでいてくれて、かまってほしい時期が限られているのを知っているので、こんな風に過ごせるのは、お姉ちゃんはあと5年あるかないか。そうなったら相手をしてもらえなくなるから、そのときはまた外の人たちと付き合ったらいいなって思っていて。
物事をロングスパンで考えて、“人生でこの時期はこれを1番大事にしないと、この機会は2度とないよね”と思って動いています。
子どもたちは自己主張が上手! 両親の影響で“ときめき”も大事に
――アメリカで子育てをするなかで、日本とは違うなと感じるのはどういったところですか。
川原さん:アメリカでは日本のように子どもだけで遊ばせるのは絶対に無理です。そう思うと、日本の平和さはすごく貴重な財産だなと思う。いまだに日本に戻って、子どもだけで歩いているのを見ると「危ない」ってビクッとしますが、「ああそっか、ここは日本だから大丈夫だ」って。
もうちょっと細かく言うと、アメリカだけで育てると、すごく自己主張はするんだけど、聞くっていうことはあまり育まれない気もします。おそらく“主張することがいいことだ“としか教育されないので、日本のように横の人を気遣うとか空気を読むとかバランスを取るみたいなのは、相対的には磨かれにくいと思っています。
――日本では主張のなさ、空気を読みすぎることがあまり良くないと言われますが、それも大事な力なんですね。
川原さん:どちらも行き過ぎは良くないと思うので、もう少し両方のバランスが取れたらいいんじゃないかな。でもその程よくっていうのが難しいですよね。
――川原さんのお子さんたちも主張するのが上手ですか?
川原さん:めちゃくちゃする方だと思います。これを食べたい、食べたくないもそうだし、自分の意見がはっきりしています。親からすると「今日はここに行くからこういう服の方がいいよ」っていうのがあっても、本人の中でこれって決めると、もうそれしか絶対に着たくないんです。
これは海外で暮らしているからというのもあるし、奥さんのことも含めてわが家は“ときめき”をすごく大事にしているがゆえに、自分たちは何が好きで、なんでこれを選ぶのかって、めちゃくちゃ考えてる気がしますね。
――こんまりさんの代名詞・ときめきがご家族の中でも浸透しているんですね。
川原さん:逆説的なんですけど、「何がときめく?」と聞かなくても、こういう親に育てられると、本人たちがそうやって考えて生きてるんだなって思います。好きか嫌いかもはっきりしていて、なんで? って聞くとそれには理由があるんです。親がときめきにしか従って生きてないから、そういうもんなんだって多分思ってるはずですね。

僕らの姿を見て、子どもたちは働くことや仕事が楽しそうだと染みついてる
――ではこれが好きとか、将来はこういうことをしたいというビジョンもお子さんにはありますか?
川原さん:あります。次女はドーナツ屋さんって決めていて、理由を聞いたら、ずっと食べてていいからって(笑)。
僕らの姿を見て、子どもたちは働くことや仕事が楽しそうっていうのは、染みついてる気がします。実は僕はその真逆で育っていて、うちの親父が海上自衛隊の自衛官で、”海猿”って言われる人なんです。何かをしたいかしたくないかじゃなく、言われたことはちゃんとやるっていうのが仕事。
親父がある時ポロっと言った、「仕事は我慢の結果でお金をもらっている」というのが記憶に残っていて。嫌なことを我慢してお金もらうんだなというのが僕の仕事観になって、長くそう思って生きてきました。高校、大学の進路選択では、できるかぎり嫌じゃないことでお金もらえることはないか、みたいに選んでた気がします。
それと比べるとうちの子どもは本当にしたいことを選んでいるし、何をやってもうまくやれそうって思えるように感じます。
――何をやってもうまくやれそうな自信を持てるのには、何か秘訣はありますか?
川原さん:子どもに言われたのは「だってパパはずっと仕事って言いながら笑ってるだけじゃん」って。
――素敵な見本が身近にいらっしゃるんですね。そんな笑顔で働いていても忙しいときもあると思いますが、そんなときは子どもたちとどんなふうに接していますか?
川原さん:なるべく携帯やパソコンは見ずに、本人の方を見るようにしています。絶対に何かをしながらだと話半分で聞いちゃいますから。置く、閉じるというのは意識してますね。
――それはご夫婦共通ですか?
川原さん:麻理恵さんはもともとそういうのをちゃんとやれる人なんです。僕は携帯を触りながらほかの作業をすることも多い。ソーシャルメディアも好きですが、麻理恵さんは全くそういうことに興味がなくて。逆に携帯しない族なので、LINEも既読にならないんですけどね(笑)。

うちは恐ろしいほど物を手放す家。子どもたちにもその考えは浸透
――著書のなかには、子どもがいる世帯で増え続ける思い出品や書類を捨てるコツも紹介されていました。家庭でもこんまりメソッドを実践されていますか?
川原さん:うちはほかの人から見ると恐ろしいほど物を手放す家だと思います。それをちゃんと子どもと会話して決められるぐらいに、子どもたちもわかっています。
――親だけでやらずに、子どもも巻き込んで手放す物を決めていますか?
川原さん:そうですね。子どもたち的にも作った物のなかでこれは飾ってほしいけど、これは飾らなくていいという感覚があるんですよね。思い出品は貴重なものですが、今の生活がときめくことが最優先。それで家が散らかって、イラっとするぐらいなら、ない方が幸せってみんなが思えてると思います。
また、うちでは書類をシュレッダーする役割は子どもたちに任せています。あとは洗濯機をまわすのはママがやってくれるけど、洗濯が終わったら、自分のお洋服は自分でたたんで元の場所に戻すのがわが家の決まりです。
子どもへの期待を捨てる! 習い事も本人の希望がなければしなくていい
――もう1つ、子どもへの期待を捨てる、無理して工面するほど習い事などにお金をかけるのは違うんじゃないかとはっきり書いてあったのが印象的です。そう考えるに至った理由はありますか?
川原さん:2つあって、わが子への教育を考えたときに、子どもが習い事をしたいと言ってないのにさせるってどうなんだろうって思ったのが1つ。
面白かったのが、麻理恵さんは東京生まれ東京育ちで、習い事をするのが普通。中学受験もしているから、早めに塾にも行っていたちゃんと教育を受けてきた人。僕は田舎生まれ、田舎育ち。習い事も親から何かをしろと言われたことはなく、なんだったら勉強すると馬鹿になるって言われて育った(笑)、全く違う幼少期を経てる2人なんです。そんな2人にただ1つ共通した考えが、本人がしたいって思ってないんだとしたら、させなくていいっていうことでした。
もう1つが、僕自身が日本でいろんな人にお会いして子どものことや教育について話すと、みんな子どもに対してこうしておいた方がいいんじゃないかって、不安を埋めるようにいろいろさせていると感じて。でも、それって子どものためじゃなくてあなたが安心を感じるためにやってることだよねって。なおかつ、それでお金が苦しいって本末転倒じゃないかって思ったんです。
比較もどんどん生まれて、あの子はああいうことやっている、いろんなものに目移りしてよさそうに見えてくる。子どもの個性も全部違うのに。そういうのも含めて違うなって思って。
あとは、日本や世界で活躍している人たちと会った際に幼少期をどう過ごしていたかを聞くと、みんなバラバラなんですよね。みんながみんなすごい習い事をやったからそこに至ってるわけではありませんでした。だとしたら過度な習い事は必要ないなとも思いました。

自分がどうしたいかっていう種が生まれてくるような経験はたくさんあったらいい
――なるほど。実際にそういった方にお会いして感じたこともあったんですね。
川原さん:どっちかっていうと、自分がどうしたいかっていう種が生まれてくるような経験はたくさんあったらいいと思います。いろんな大人に会って話を聞くとか、いいミュージカルを見て私も出られるようになりたいって思うのとか。そういう刺激、好奇心、探求心の源になるようなものだけ与えてれば、あとは勝手にやりたくなったらやるんじゃないかなと考えていますね。
これはたまたまですが、アシスタントの子が幼少期にそろばんをやっていた人で、うちの子どもと一緒に遊んでいても、通りすがりの車のナンバーを頭の体操のように掛け算していて。それを見た長女が「そんなのできるようになるの?」って刺激を受けて、そろばんを習っているんです。だから、そういう刺激は日常の中にあるんだなって思うんです。
本当の勉強は学校ではなく僕らの仕事を見たり、働いてる様子を見たりすることの方
――仕事柄出張が多いそうですが、お子さんも一緒に行くことがあるんですか?
川原さん:結構あります。連れて行っていい仕事であったら、学校を休ませて一緒に連れてっちゃったり。僕らは学校の優先順位がすごく低くて、僕らが仕事場などに連れて行けないときに預けて、勉強っぽいことをしてもらってる場所くらいにしか思ってないんですよ。
本当の勉強は多分、僕らの仕事を見たりとか、働いてる様子を見たりすることの方だと思っているから。うちの子たちはあんまり手がかからなくて、連れて行っても勝手に本を読んでいたり、お腹がすいたらスタッフさんに声かけて、水を飲んだりご飯を食べたりしています。だから(頼る人が)親じゃなきゃいけないってあんまり思ってないんですよね。人の力を借りて生きていくみたいな感じかな。
――すごく自立していますね。
川原さん:幼少期からアシスタントさんやシッターさんなど、家に人がいることは多かったから、親に絶対してもらわなきゃってあんまり思っていないんだと思うんです。
日本で育てていることをイメージすると、子どもはまず親に言うし、親がいないと不安だし。でも親自体がもっと他の人の力を借りることを日常的にやってると、親も楽になるし、子どもも生きやすくなるのかな。
――ほんとにそうですね。日本で育てているとまずは親がしっかりしなくてはと感じます。
川原さん:もっとみんなで助け合って育てられたらいいのにとは思いますけど、特に核家族化して、これだけ社会が個別化しちゃったら、ちょっとお願いとかもしにくいし。本当はもっとご近所さんと一緒に育てられたらいいですよね。やっぱり親だけで育てようとするのをやめるのは大事な気がしますね。親が頑張りすぎるのを捨てるってことじゃないですかね。
親は”子どものため”には捨てて、自分のために生きるのがいい
――最後に読者にメッセージをお願いします。
川原さん:みなさん子育て中の世代だと思うので、この本の中から伝えたいことというと、子どもに対しても過剰な期待を捨てるっていうところかなと思います。子どもの人生は子どもの人生。だからこそ親は自分の人生にもっと集中していいし、自分が幸せになることに集中することで、結果、子どもにもいい影響を与えると思います。
ご両親も自分の人生を楽しんで、自由に生きていいんじゃないでしょうか。子どもにとっても1回の人生だけど、実は親にとっても1回しかない貴重な人生なはずだから。”子どものため”には捨てて、自分のために生きるっていうのがいいんじゃないかなと思います。
私たちはもっと自由に人生を選択してもいい!
最後に川原さんに、今後帰国される予定はありますか? と尋ねると、「どうなんでしょう。どこに住みたいか、どこで教育を受けたいか、子ども次第です。今度ヨーロッパに行くんですが、いろいろ連れまわしています」との答えが。お子さんの視野も世界に向いていることがわかります。それはもちろんご両親の仕事柄もありますが、その仕事、生活を選択し、行動し続けたのは川原さんとこんまりさん自身。
私たちは「でも夫の会社が…」「でも学校が…」とつい言い訳をしてしまいますが、実はもっと自由に人生を選択していいし、それが子どもにとっていい影響を与えることもあるのだと、川原さんのお話を聞いて感じました。
不要な人間関係やものはすべて捨てる、と聞くとドライに感じますが、そうではなくて、自分にとって何が大事なのか、何にときめくのかを改めて見極めてみようと感じたインタビューでした。

「どうして人は自分の生きたいように生きられないのか」いつか時間に余裕ができたら…いつかお金に余裕ができたら…。残念ながら、今のままではその「いつか」は永遠に訪れません。自由のカギを握るのは「捨てる」こと。過剰なモノや情報から解放されるための方法を、ぎゅっと凝縮し、わかりやすく紹介しています
取材・文/長南真理恵