脳にいい〝内受容感覚〟とは。「重いブランケット」「家事を挟んで作業」が仕事をはかどらせる理由を作業療法士の菅原洋平さんに聞く

適度な運動が大切だとは分かっているけど、「適度」ってどれくらい? どんな運動をどれくらいのペースでするのがいい? 運動と脳のメカニズムの関係に着目し、「脳を運動で鍛える」という、目からウロコが落ちるメソッドを紹介している作業療法士・菅原洋平さんがズバリ答えてくれました。

1日に20分運動できなくても大丈夫

大人にとってちょうどいい運動について、運動と脳のメカニズムに詳しい菅原洋平さん(作業療法士)は、こんなアドバイスをくださいました。

「運動というと、ランニングやジムに通うイメージを持つ人が多いですが、運動強度は、歩いたり軽く筋トレをしたりする程度で大丈夫です。掃除機をかける、洗濯物を取り込むなども運動だと考えて、合計30分を週3日以上行うことから目指しましょう。強度の高い運動をするより、運動する日数を増やすことが大切です(菅原さん)」

お話を伺った作業療法士の菅原洋平さん

30~40代の人が20~30分のランニングをするなら注意点があるそうです。それは、運動する日としない日の差が大きくならないようにすること。

「週2回ランニングする人なら、そのほかの日も、スクワット運動をするとか、歩く距離をいつもより少し長くするなど軽い運動をして、代謝に極端な差がつくのを防ぎましょう」

背中やお尻の筋肉を鍛えるトレーニングや骨盤ウォーキングもおすすめだとか。特に、お尻の筋肉をギュッと締めてイスに座ったり歩いたりする運動は、体内のミトコンドリアという物質を増やすことにつながるそうです。ミトコンドリアは、40代以降、体のエネルギー源として使われるため、大人の脳と体の健康維持の面からも留意しておきたいところです。

シニアの場合、ウォーキングで脳の働きを保つことを目的にするなら、1回30分~40分、週3回ほどが目安とされることが多いようです。週に3回買い物に出かければ、1回あたり30分くらいは歩くことになるので、やはり「運動しなくては!」とことさら意識する必要はなさそうです。

脳は、体の中心の筋肉が衰えると、ぼんやりして集中力が低下したり、眠くなったりすることが多くなるそうです。また運動によって神経に栄養を与えるたんぱく質が増えるので、心の健康を保つのにも欠かせません。

さらに、脳も内臓器のひとつであることから、運動によって血流量が増え、栄養分や酸素が増えれば記憶力や集中力も高まります。このように、運動と脳は密接に関わっているのです。(これについては前編記事を参照≪

「運動は脳や体の細胞の活性化にとって欠かせないものですが、運動しすぎると、疲れがたまって、生成されるたんぱく質に変異が生じる恐れがあります。よく子どもが外遊びやプールの後に疲れてパタンと寝てしまいますが、あれは眠ることで体を守っているのです。大人も『疲れたな』と感じたら、しっかり睡眠をとって休むことが大切です」

大切にしたい内受容感覚

体の内部からのシグナルに向かう「内受容感覚」がカギ

一日中座ってパソコンに向かう仕事や自宅でのリモートワークの場合、頭が働かず、なかなか仕事がはかどらない…という経験をした人も多いはず。そんな人にも、軽い運動がおすすめという菅原さん。

「コロナ禍のときによく聞いた話ですが、オンラインでの打ち合わせと打ち合わせの間に、皿を洗う/洗濯物を干すなどの家事を挟むと、急にいい企画を思いついたり、こういうやり方もおもしろいかも…とアイディアが湧いたりします。実は、これには内受容感覚が関係しています(菅原さん)」

内受容感覚とは、体内のさまざまな部位からの信号に対する知覚のこと。具体的には、自分の心拍や呼吸、消化管の動きなど生理的状態がどんな状態にあるかを認識することです。

「単純な手作業や整容、入浴、スキンケアをしているときは内受容感覚が働き、脳の中での情報を整理するネットワークが活発になります。リモートワークでは、意識的に手作業や体のケアをして内受容感覚に意識を向ける時間をつくるのがおすすめです」

自分の体と向き合うのはとても意義のあることだという菅原さん。

自分の体の動きや感覚を知る実験をしてみてはどうでしょう。たとえば、同じラジオ体操をするにしても、テレビ画面を見ながら受け身のような形での体操より、ラジオで音声を聴きつつ、手のふりや足の動きを意識しながら体操するほうが、筋肉の動きや心拍を感じやすいはずです」

ちなみに、運動に成功も失敗もなく、ただ結果があるだけという菅原さん。こうするとこうなるんだなということを実感できれば、それでいいそうです。

「自分自身の体や筋肉の動きなどに関心を持って実験してみて、そのときの感覚とか、呼吸や心拍を意識することが大切です。いろいろ実験してみて、違いを楽しみ、自分にとってよいなと思われる運動を取り入れましょう」

集中力を高める魔法のグッズ

「ひざの上の重み」が脳を刺激する?

運動(筋肉の動き)と密接に関わっている私たちの脳。実は、筋肉の感覚を刺激するグッズを利用すると、脳の活性化に役立つそうです。

そのグッズとは、ウエイトブランケット。通常より重さのあるブランケットです。

「重いブランケットをひざにかけていると、筋肉は『重たいものが載っかってるぞ』という感覚(情報)を脳に送ります。歩く、走るといった大きな運動とは違いますが、座るために働く筋肉の感覚が高まるので、脳が目覚めて元気になります。すると、落ち着いて集中できるようになり、仕事がはかどるというわけです」

ちなみに、就寝時もウエイトブランケットを愛用する人は多いそうです。筋肉は、均等に重みがかかると緩む性質があり、体の中心の筋肉が緩むと自然に眠くなるのだとか。

「飼い猫が掛け布団に乗ってくれないと眠れない…という話を聞いたこともあります。重みが加わることが重要だという意味では、まあ同じですね…(笑)」

自分の体を変えれば脳の働きが変わるとわかれば、集中できなくても、それはやる気や性格の問題ではなく、解決できる問題になると菅原さん。

毎日を元気に、機嫌よくすごせるように、菅原流「軽い運動を日常に取り入れる方法」を実践してみませんか。

▼まだまだある「運動と脳の不思議」
菅原さん流「子どもの集中力を伸ばす脳と運動の関係」についてはこちら

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お話を伺ったのは…

菅原洋平 (すがわらようへい)

作業療法士。ユークロニア株式会社代表。国際医療福祉大学卒。国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、現在は、ベスリクリニック(東京都千代田区)で薬に頼らない睡眠外来を担当する傍ら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行い、その活動はテレビや雑誌などでも注目を集める。主な著書に、14万部を超えるベストセラー『あなたの人生を変える睡眠の法則』、12 万部突破の『すぐやる!「行動力」を高める“科学的な”方法』など多数。

構成・文/ひだいますみ

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