東大生もやっていた「動きながら勉強」が子どもの脳を鍛える。〝姿勢を正して長時間学習〟は逆効果?

子どもの学力をグーンと伸ばす画期的な勉強法があれば、ぜひ知りたい! 運動と脳のメカニズムの関係に着目し、「脳を運動で鍛える」という、目からウロコが落ちるメソッドを紹介している作業療法士・菅原洋平さんがズバリ答えてくれました。

ときどき運動しながら勉強する

子どもが集中して勉強するにはどうしたらいいの? 学力がぐんぐん伸びる魔法があったらいいのに…。そんなお父さんお母さんに朗報です!

脳の機能を活かした人材開発や企業研修などで人気の作業療法士・菅原さんによると、なんと脳は「運動で鍛えられる」とか。

「私たちが運動する(=体を動かす)と、目や耳、肌などから得た感覚情報が脳に集められます。脳に情報が集まると、その情報をもとにして、予定していた動きと違うところが修正されて、さらに上手に動けるようになります。つまり、脳は上手に動くために仕事をしています。ですから、脳にいい仕事をしてもらうには運動が欠かせません(菅原さん)」

脳と運動の関係について詳しい作業療法士の菅原洋平さん

人間も「動物(=動く物)」ですから、まず「運動ありき」は大いに納得できます。

実際に、じっと座って勉強するより、走ってから授業を始める、ときどき立って移動するなどの動きを取り入れた授業のほうが、児童がふらふら立ち歩く離席率が減ったという実験結果が報告されているそうです。

また、東大生からも、自らの受験勉強の際に「身ぶり手ぶりをつけて、誰かに教えるような感じで学習するほうが効果的。内容がよく頭に入って効率がいいことに気づいた」という声を聞いたそうです。

「脳も臓器の一つであると考えると、栄養や酸素を運ぶ血流量が滞れば、働きが鈍くなってしまうのは、他の臓器と同じです。運動によって全身の血流が活発になり、脳内にも栄養や酸素量が届けば、脳が活性化されるのも当然です」

なるほど、ごもっとも。

それに、「じっと座って勉強しなさい!」ではなく、「ときどき動きながら勉強するといいよ」と声をかければ、子どもはおもしろがって勉強しようという気になるかも⁉ 一度試してみたくなる作戦です。

脳を刺激する簡単運動とは

「ときどき動きながら勉強する」には、具体的に何をしたらよいのでしょうか。

「筋肉を動かすこと、特に足を使ったが運動がおすすめです。ふくらはぎや太ももの筋肉はポンプのような働きをするため、体全体の血液の循環がよくなるからです(菅原さん)」

たとえば、おすすめなのが歩行。といっても、ほんの10秒くらい歩くだけでOK。また、元気に行進するような感じで膝頭を股関節の辺りまで上げる「大きな足ふみ」も、よい刺激になるそうです。

その場での足踏み運動は脳にも効果的

そのほか、お子さんの体格にも寄りますが、低~中学年なら、体を使った親子遊びもおすすめだとか。

おすすめの親子遊び

ロケット発射遊び…子どもの脇の下に手を入れて、持ち上げる遊び。「高い高い」のアレンジ版
ジャングルジム遊び…親の体をジャングルジムに見立てて、よじ登ったり、巻き付いたりする遊び

中~高学年で、筋力トレーニングやダンスなどに興味があるなら、それもOKだそうです。

ところで、歩くだけの運動でもいいなら、テレビゲームで軽く体を動かす程度でもOKでしょうか?

「運動が苦手なら、ゲームをきっかけに体を動かすのもよいと思います。ただし、ゲーム中の運動は、見て真似たり、画面のキャラクターに合わせて体を動かすなど視覚を使うので、筋肉が動いたことを意識しづらいです。自分の体の重さや手足の長さ、力の入れ具合を意識するほうが、脳に集まる感覚が豊富になり、脳は働きやすくなります(菅原さん)」

運動によって脳を鍛えるには、やはり全身を使って体を動かすことが望ましいようです。

視覚のみに偏るゲームではなく全身を動かす運動を

運動は30分に一回のペースで

運動のペースについては、「30分」がカギ。

「どんなによい姿勢であっても、30分もすると血流が滞ってしまいます。つまり、30分間筋肉を動かさないと、脳の働きも悪くなるわけです。また、その状態が続けば、筋肉が動いたという感覚(情報)を脳に伝える能力自体もどんどん低下し、その結果、集中力も落ちてしまいます(菅原さん)」

実は、集中力と運動は、脳の働きも絡んで深く関係しているそうです。

「集中するには、脳がシャキッと目覚めていなければなりません。体の中心の筋肉が使われると、脳が目覚めます。これが『姿勢よく座る』のが大切な理由です。それでも血流は滞るので、30分ごとに立ち上がって10秒歩いて、血流を回復させれば、座り続けるよりも集中力を保つことができます

「座っているときにモジモジ動いたり貧乏ゆすりをしたりするのは、体の中心の筋肉が使われていないサインです。お尻をギュッとしめると、体の中心に力が入ってすんなりとよい姿勢になります。子どもが動きだしたら、体の中心の筋肉が緩んで脳が眠くなっているということです」

じっと座っていない子どもはやる気がないのではなく、筋肉が緩んで脳が眠くなっていたとは! まさに目からウロコです。

勉強中も30分に一度は軽い運動を取り入れて

「運動することで、脳内のBDNF(脳由来神経栄養因子)が増えることは、科学的にも証明されています。ほどよく体を動かすことで、脳は元気に働くようになります。脳は運動によって鍛えることができるのです」

ちなみに、生体リズムや睡眠の研究から、運動に適した時間帯がわかっているそうです。それは、夕方です。

つまり、放課後は元気に外遊びをしたりスポーツを楽しんだりして、勉強するときは30分に一回のペースで体を動かしてリフレッシュするーー。それが、運動と脳のメカニズムに詳しい菅原さん流「子どもの学力を伸ばす秘訣」です。

今すぐ、試してみませんか? きっとお子さんの学力アップにつながるでしょう。

▼まだまだある「運動と脳の不思議」
菅原さん流「大人の脳を活性化させる方法」についてはこちら

脳にいい〝内受容感覚〟とは。「重いブランケット」「家事を挟んで作業」が仕事をはかどらせる理由を作業療法士の菅原洋平さんに聞く
1日に20分運動できなくても大丈夫 大人にとってちょうどいい運動について、運動と脳のメカニズムに詳しい菅原洋平さん(作業療法士)は、...

お話を伺ったのは…

菅原洋平 (すがわらようへい)

作業療法士。ユークロニア株式会社代表。国際医療福祉大学卒。国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、現在は、ベスリクリニック(東京都千代田区)で薬に頼らない睡眠外来を担当する傍ら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行い、その活動はテレビや雑誌などでも注目を集める。主な著書に、14万部を超えるベストセラー『あなたの人生を変える睡眠の法則』、12 万部突破の『すぐやる!「行動力」を高める“科学的な”方法』など多数。

構成・文/ひだいますみ

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