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小学生の頃にケータイ小説で「性」に触れ、リアルに知りたくなった
――福田さんは公立高校の保健体育教師だったのですよね。なぜ教師になろうと思ったのですか?
福田さん:もともと、性教育をしたくて保健体育の先生になったという経緯なんです。中高生の頃から性に興味・関心があって、性教育を仕事にしたいと思っていました。そうなると、学校の保健体育の教師しかないかな、と。今思えば、助産師も性教育ができる仕事ですけれど、当時は思いつきませんでした。
――性に興味を持ったきっかけは……?
福田さん:小学生のときにケータイ小説が流行ったんです。『恋空〜切ナイ恋物語〜』などがその当時有名でみんな読んでいました。恋愛の中にも性描写があって、流産、妊娠、出産、DVとか性にまつわるいろいろなことが出てきて、興味を持ちました。当時はそういうコミックも流行りました。
でも、小説にしてもコミックにしてもイチャイチャするところは描かれているけれど、肝心なところ、どういうふうにセックスをして妊娠するかなどは描かれていなくて。このあと何が起こるんだろうって、興味津々でしたし、なぜ描いてくれないのかなって思っていました。

――当時から「性は恥ずかしいもの、隠すもの」という意識は、福田さんにはあまりなかったのですね。
福田さん:そうですね。興味があるから共有したくて、友達にケータイ小説風に書いた自作の小説を見せたりして、性の話をしたりしていました。今思い返せば小説を書いていたのは少し恥ずかしいのですが、当時は私があまりにもオープンなので友達もへんな意識は持っていなかったし、まわりを巻き込んで楽しく性のことを話していました。
肝心なところを教えてくれない授業「だったら自分が教師になろう」
――性への興味・関心が教師という仕事に結びついたのは?
福田さん:学校の保健科目の性教育の時間も楽しみにしていたのですが、やっぱり先生は肝心なことを教えてくれなくて、にごされたような感じできちんと学ぶことがなかったんです。「ちゃんと教えてほしいのに」という気持ちが大きくなって、それなら自分が教える立場になろうと、教育大学にすすんで、保健体育の教師を目指しました。
高校教師を選んだのは、小学生や中学生より高校生のほうが性教育の機会が多いだろうなと思ったからです。実際、小学生や中学生に性教育を教える範囲としては義務ではない部分も多く、授業も少ないです。一方、高校生については教科書にも性教育について記されていますし、教える範囲も広いと感じました。
高校で性を教えたくても体育の授業と部活動の指導が9割
――実際に教師になってみて、どうでしたか?
福田さん:保健体育の先生って9割以上が体育の授業と部活動の指導、あと文化祭などの行事のサポートが仕事なんです。生徒たちが保健を学ぶ時間はほんの少しです。
また、中学における妊娠の過程の指導には、『はどめ規定』と呼ばれる教育内容の範囲に関する基準が設けられています。そのため高校でも積極的に教えるものではないとされていて、体育の先生でも性教育に力を入れている人はほとんどいない状態でした。実際、先輩の先生に「何も言わなくていい」と言われたこともありました。教員になったばかりでしたし、まだ自分の意見を言えるような立場ではないので、従うようにしていました。
ただ、私が「性教育をしたい」という思いを持っていることは伝わって、「そんなにやりたいならやっていいよ」と言ってくださる先生もいて。自分なりの授業もやらせてもらいました。
授業をすれば「性器がかゆい」「コンドームが買えない」などリアルな質問が!
――どんな授業をしていたのですか?
福田さん:自分から教えるというよりは、生徒たちに質問をもらって、それに応える形ですすめていました。子どもたちの興味をもとにした授業です。そのほうが他の先生にも、生徒にも、授業を受け入れてもらいやすいかなと思ったんです。「生理中だけれどプールに入る方法はあるか」とか「性器が痛い・かゆい」とか。
特に高校生だと「妊娠したとしたらどんな周期になるのか」という質問も自分ごととして聞いてきたり。「コンドームが恥ずかしくて買えない。先生買ってきてよ」と言われたこともあります(笑)。若い先生だから言いやすかったのかな。そのほかにも「子宮頸がんワクチンの効果とリスク」を聞いてくる子もいました。いろいろな質問がありました。

福田さん:でも、とにかく日々のほとんどは体育の授業や部活動、行事に追われて、教えるための自分の研鑽もできず、休日に専門の学会やセミナーに参加するのが精一杯という状態。もっと勉強の時間を取りたい、そして自分が本来やりたいと思っていた性教育が十分にできる場が欲しいと思い、3年勤務したところで、いったん常勤の教師の仕事はやめました。
そして、大学院に行って、ジェンダー学と教育学を学び、同時に非常勤で高校や中学に勤務しました。保健の授業をメインに教える非常勤ということで雇ってもらったんです。
大学院でのジェンダーの研究と保健だけの授業を行う非常勤教師を両立
――大学院ではどのようなことを学び、研究されていたのですか? それをどう性教育の実践に生かしていこうと思われましたか?
福田さん:大学院ではジェンダー学と教育学が専門の教授の研究室に入りました。性教育を学ぶということには、男女共同参画の視点が欠かせないのです。男女共同参画社会とは、性別に関係なく一人ひとりが尊重され、自分らしく活躍しながら生きられる社会なわけで、性教育にとって男女共同参画は土台の部分だと思い、この研究室に入りました。

福田さん:私は「デートDV」を研究テーマにしていました。交際関係にある恋人の間で起こる暴力というのは単に殴るなどの身体的な暴力だけでなく、性行為の強要や、人前でバカにしたり、デート代を毎回奢らせたり、相手のSNSなどを細かくチェックして行動を監視したりすることなども暴力に含まれます。交際している相手からのDVは本当に多くて、男女共同参画の視点を持った性教育活動を自分のライフワークにし、性教育の教育実践に結びつけたいという気持ちが強くなりました。そうした性教育を大きな場で発信していくなら、学校とは別の場所なのだろうと思い、自分のやりたいことが仕事になる就職先を探していました。

『セイシル』を見つけて「これをやりたい」とTENGAに参画
ーーそんな中でTENGAヘルスケアに就職したのは?
福田さん:いろいろ調べる中で、『セイシル』のサイトを知りました。『セイシル』は性についてのモヤモヤを感じて悩みを相談する若い世代に向けて、医師や専門家が真剣に答え、幅広い性知識の情報提供や工夫のアドバイスをしています。私はこういうことをやりたいんだな、と思い、運営するTENGAヘルスケアに連絡をしました。『セイシル』に携わりたかった、というのが動機です。最初は大学院生のインターンみたいな形で関わり、その後正式に入社することになりました。

福田さん:そもそもTENGAカンパニーのブランドコンセプトは「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」ということ。性的なことやマスターベーションの製品に対する「うしろめたい」「あやしい」「いやらしい」というイメージを払拭して、性に対する意識を変えることを目指しています。製品のデザインも性器の模倣ではなく、機能を最適化するユニバーサルデザインを実践しています。性を扱う会社だからこそ正しい性の知識を普及するのも私たちの仕事です。こうして『セイシル』を立ち上げて情報提供や発信をしています。
性教育は人権教育のひとつと考えるとよくわかる!
――性教育の実践とはどういうことなのでしょうか。
福田さん:「性」とひとことで言っても、ジェンダー、セックス、セクシュアリティ、その意味は多岐に渡り、性教育とはその全部を提供することだなと考えています。性教育=性行為について教えることと思っている人が多くて、性をタブー視する人が多いかもしれませんが、その認知から変えることが第一歩だと思います。「包括的性教育」という言葉があるのですが、性行為・性的行動だけでなく、人間の体と発達、ジェンダー理解、暴力と安全確保、性や生殖に関する健康……、そうしたものを包括的に学ぶことが性教育なんです。私は、性教育とは人権教育のひとつだと思っています。
――なるほど! 「性教育」と言うと、性行為をどうするのか、ということばかりが頭に浮かび、子どもに語ること自体、抵抗があると思ってしまいがちです。しかし、「人権」という立場で性を考えると、今までモヤモヤしていたことが晴れてきそうな気がしますね。後編では、福田さんに実際、どういう性教育をしているのか、親はどんなふうに性教育をとらえたらいいのかを伺います。
わが子が性に目覚めたら? 親子の性教育についてお話を伺いました
お話を伺ったのは
株式会社TENGAヘルスケア 教育事業担当(保健体育教員/思春期保健相談士)。大阪の高校で保健体育教員として働いた後、性教育を極めたい想いから大学院に進学。ジェンダー学と教育学を学び、性教育に関する研究に勤しむ中でTENGAヘルスケアと出合う。現在は、主に性教育WEBサイト「セイシル」の運営と、出前授業講師を担当する。私生活では0歳のお子さんの母親。
取材・文/三輪泉
